音に見入られた先
月夜
~プロローグ~
音が、聞こえる。
夜の静かな学校で突如聞こえてきたピアノの音に何故か怖いと思うことはなかった。俺は魔法にかかったかのようにふらふらと音の聞こえる音楽室に向かう。音を立てないようにしてドアをそっと開けて中をのぞくと、月光に包まれた美しい少女がグランドピアノの前に座って一心不乱に演奏していた。曲はドビュッシーの『月の光』。怪しげな雰囲気を持つオレンジ色の満月が浮かぶ今日に良く似合うその曲はどこか儚く寂しげで。思わず音楽室に足を踏み入れた俺にやっと気がついたのか、演奏をやめて首を傾げながらこちらをみてきた。
雪のように白い肌に腰まで届くさらさらな黒い髪。スラッと伸びる手足は簡単に折れてしまうほどに細く、探るように俺を見てくるその瞳はどこまでも広がる夜の空のような純粋な黒色をしている。そして血を吸ったのかと思う程に真っ赤な色をしている不気味な唇から鈴の音のような可愛らしい声がこぼれ出た。
「待ち焦がれていましたわ。星名碧くん。」
学校の時に会ったことは無く、こんな印象的な女の子を忘れるはずがないので今日が初対面のはずだ。それなのに自分の名前を知られていて驚き過ぎて声がでない。呆然として彼女を見つめていると目があった。じっと見ていると彼女の瞳に囚われてしまいそうで慌てて目をそらす。そんな自分をみて彼女はクスクスと笑うだけだった。
音に見入られた先 月夜 @yotuba0317
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