第5話
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「意外だなあ……」
「小説家になりたいなんて、誰にも言ったことないからな」
「いや、そうじゃなくて……ウロッチって、けっこう野心家っていうか、情熱的だったていうのが、私びっくりして」
「ホントかよ? びっくりって言うわりには、何か落ち着き払ってるじゃん」
「ホ・ン・ト!」
「はいはい」
「……そっかあ。だから ―― 大学にしたんだ。作家で ―― 出身の人って、いっぱいいるもんね」
「うん……在学中にデビューして、賞をとった人もいる。俺もあわよくば……」
「『あわよくば』なんてダメだって! 『必ず』!」
「いやあ、さすがにそれは……」
「か・な・ら・ず!」
「……そうだな。必ず大学生の間に小説家デビューする! これが、俺の大学での目標だ!」
「よく言った!」
パチパチと声に出しながら、彼女は拍手した。声はいらないだろとツッコもうとしたけれど、その姿がかわいらしいのでやめた。
「あ、もしかして今もう小説書いてるの?」
「うん。ただなあ、アイディア思いついていざ書き始めても、なかなかうまくいかないんだよなあ。おかげで、書きかけのやつが何作かたまってる」
「1本完成させてから次のを書くって感じじゃないの?」
「たぶん、そっちの方がいいのかなあって思うんだけど。俺としては、何作か並行して書く方がいいっていうか、俺的にはやりやすいんだよなあ」
「そうなんだ……」
それきり、彼女は黙った。左手を口元に持っていき、顔の下半分を隠した。彼女は、何か真剣にものを考える時、いつもそうしていた。何を考えているんだろう?
やっと彼女が口を開いた
「ねえ、私がヒロインの小説書いて!」
「は?」
「だから! 私がヒロインの小説!」
「……まあ、別にいいけど。どうしたいきなり?」
「周りに話せるじゃん! 私がヒロインの小説があるって!」
「なるほどねえ。そういうネタを貪欲に求める感じいいよ」
「でしょ? うふふ」
「了解。どんな話がいいとかある?」
「何でもOKかなあ……あ、怖い系とか、グロいのとかは苦手だから、それは除いてね。あとは……うーんそうだなあ。ハッピーエンドがいい!」
少し口を閉じ、またすぐ開いた。
「絶対だよ! 約束!」
そう言って、小指を俺の目の前に突き出してきた。
「あっぶね!」
「ゆびきりげんまん!」
「ええ⁈ ガキじゃないんだし……」
「ゆ・び・き・り!」
どんぐりをつめこんだリスみたいに、彼女は顔を膨らませている。
「はあ……わかったよ」
俺がいやいや小指を差し出すと、彼女が自分の小指をからめてきた。
体温が5℃くらい上がったんじゃないかと思うくらいには、恥ずかしく、いたたまれず、そして――うれしかった。
「「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのおます、ゆびきった!」」
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