氷のめぐみ

@ayanokoji

第1話 遭遇

あぁ、夕日がきれいだ。進級初日にこれが見れるのはかなりラッキーではないだろうか。


しかもこの学校には桜が植えられており、ピンクとオレンジの2色の共存が、なお美しさを際立てている。


ちなみに私は今、屋上にいる。教室は、放課後も耳に刺さる喧騒に満ち、家は息の詰まるような静寂に包まれており、そのどちらにも居たくはなかった。


まぁ、つまりは消去法だ。


ここはいい。部活の掛け声が届きはするが、微かに聞こえる程度で気にはならないし、暖かな春風が心地いい。


もう少しここにいようかな。人も来ないし、なかなかの穴場である。


そんなとき、扉が開いて屋上に誰かが入ってくる。


幸運にも、扉近くの梯子をのぼって、貯水槽のわきで過ごしていたため、こちらの存在に気づいてはいないみたい。


そーっと覗いてみると、男女2人組。……これはもしかしなくても、あれなのか。にしても進級早々に度胸があるなぁ。


こういうのって、終業式の日にやるんじゃないだろうか。クラスが別になってしまうからとかそういう理由で。


まぁ告白なんてしたこともされたこともないからよくわからないけど。


「あ、あの……突然で申し訳ないんだけど……」


どうやら男子の方からの告白みたいだ。見た目……は普通?だけど、かなりモジモジしている。


「なんですか?私、このあと用事があるんですよね」


対して女の子の方は、だいぶ落ち着いている。こういうことに慣れているのか、はたまた、心底どうでもいいのか。彼女の態度に男子くんは気圧されてしまい、余計に縮こまっている。


「えっと……もしよかったらでいいんだけど、俺とつきあ……」


「お断りします。御用がそれだけなら、これで私は失礼致します」


そう言い残して扉に手をかけ、早足で立ち去ってしまった。


男子くんは、その場で立ち尽くし、固まっている。


目撃してしまった申し訳なさと、かわいそうだなという憐れみを感じるとともに。


私は、彼女の清々しいまでの冷徹さに興味を惹かれてしまっていた。

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