二 弁天娘女男芝居
序幕
薄紫に染まる空。迫り来るのは黄昏時。
本格的に夏の始まった江戸の町並みは、この時間になると帰りを急ぐ人の姿が見られる。昼日中は茹だるような暑さなのだ。早く夕涼みといきたいところなのだろう。
その中で、静かな通りに人影があった。低い位置で長い髪を結った、端整な顔立ちの青年だ。暗がりの通りで、そこだけが異様だった。
彼の視線の先には、揺れる影が一つ。
それを知らぬものは、あやかしと呼ぶだろう。
その正体は言霊。人の想いが具現化したものたち。
言霊を封じる者、それを言霊使いという。
青年は懐から帳面を取り出すと、言霊に向けて掲げる。そして何事かを呟いた。
するとどうだろう。言霊は帳面へと吸い込まれていった。
彼はちらりと通りに目をやる。誰にも見られていなかったようだ。
そうして彼は、帳面で口元を隠し、にいっと口の端を上げた。
「きな臭いねぇ」
それは、賑わう江戸の町に向けての言葉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます