第19話
この日の2時間目の古典の時間。僕はノートの端を使って、最近出来た妹に初めて手紙を書いた。誰かに読んでもらう自分自身の言葉を書くのは、何年ぶりだろうか。ペンを持つ自分の手は震え、手あせが出て何度もズボンで手を拭き...たった2文の文章を書くのに、授業の大半を使ってしまった。
僕は授業の残りの時間を使って、何度も何度も読み直した。
文章が変じゃないか?字は汚くないか?
授業の終わりが近づいてくると、だんだん落ち着かなくなってきた。
「木部どうした?ションベンか?もう少しだ、我慢しろ」
僕の落ち着きのなさが先生にまで伝わったらしく、そんな事を言われてしまった。クラスメートからもクスクスと笑われる。
落ち着け、僕。好きな子に告白するわけではない。会話もしなくていい。...ただ、閉じ込めるだけ。それだけだ。
それでも...落ち着くどころか、手あせは増す一方だった。
授業がやっと終わると、僕は教室を飛び出した。
「あ、我慢していたションベンしに行ったぞ」
クラスメートにからかわれているのを背中で感じながら、僕は下駄箱に向かった。
2年生の下駄箱に着くと、妹の名前を探した。
「げっ、木部がいるんだけど!」
「きもーい」
...そうか。突然、僕なんかから手紙なんて来たら、嫌なのかもしれない。妹も、破り捨てるかもしれない。
だが...昨日、助けてくれた。皆見て笑ってるだけだったのに、初めて光が見えた気がして本当に嬉しかった。だから、妹には悪いが...
閉じこめる事にした。
破り捨てられても、探しだす。
意を決して、僕は妹の下駄箱に手紙を入れた。
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