第15話

「うわーかわいそう」

「でも仕方ないよねー木部だもん」

周りにいた生徒達が兄を見てクスクス笑う。


『幸せになってね』

ふと、佳代子さんの言葉を思い出した。佳代子さんは本気で私の幸せを願ってくれてる。私も佳代子さんの幸せを願いたい。...家族だから。

では、佳代子さんは幸せなんだろうか?

父と再婚して、確かに幸せそうではあった。だがきっと...

『何故、あの子の笑顔まで奪われてしまったのか...。あの子が今何に耐えているのか。母親なのに、何も分かってやれてないのよ...』

直接言葉にすることはなかったが、佳代子さんの何よりの幸せは


兄がもう1度笑うことだ。


私も佳代子さんに幸せになってもらいたい。気が付けば、私は教室に戻ろうとしていた足を止め、Uターンした。そして、兄の前で立ち止まった。その瞬間、周りの笑いがピタッと収まった。兄がゆっくりと顔をあげる。私はしゃがんで兄に目線を合わせた。

「これ、あげる」

先ほど買ったイチゴパンを差し出した。

「え、え...?」

「言われたんでしょ。買って来いって」

私は兄の手を取り、イチゴパンを持たせた。

「もう取られないように、しっかり持っときなよ」

兄にそう言い残し、その場を去った。

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