第13話

「和志がまだ4歳だった頃。父親と2人で誕生日プレゼントを買いに行ったの。...私のね。その途中で、あの子の父親は、トラックに轢かれて亡くなったわ。

...詳しくは分からないけど、多分あの子の目の前で轢かれてしまったから、ショックが大きかったのかもしれない」

「多分...?」

「和志、何も話さないのよ。...完全に心閉ざしてしまって......。まるで、1人で何かに耐えてるみたいに」

気が付けば、佳代子さんの目には涙が浮かんでいた。 やがて、それは目には収まりきらず、頬に伝う。

「あの子が何を考えて今まで生きてきたのか、全然分からないの。何故、あの子の笑顔まで奪われてしまったのか...。あの子が今何に耐えているのか。母親なのに、何も分かってやれてないのよ...」

「佳代子さん...」

佳代子さんの背中に手を回し、背中を擦ると、解き放たれたように涙が次々と溢れ、声も抑えられなくなっていた。初めて見る佳代子さんの姿に私は何も言うことが出来ず、ただひたすら背中を擦り、落ち着くのを待った。



それから20分位で佳代子さんはだんだん落ち着きを取り戻してきた。

「ごめんね、もう大丈夫...」

私が手を離すと、佳代子さんはニッコリと微笑んだ。

「約束するわ。もう、芽依の前で弱音を吐かない。...その代わり、芽依も約束してくれないかな?」

「何...?」


「幸せになってね。その笑顔を忘れないで」

話の後のその言葉には、佳代子さんからの精一杯の愛情を感じた。

「...もう幸せだよ。お父さんと佳代子さんの娘になれて」

佳代子さんは一瞬目を見開いたが

「ありがとう」

今までで1番いい笑顔を向けてくれた。


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