第10話

教室に着き、自分の席に座った。すると前の席に1人が座ってきた。

「よ、橘。元気か?」

「別に」

「相変わらず可愛いげねーな、お前」

「うるさい」

コイツは倉田智也。千春と同じく1年から同じクラスで、何かと突っかかってくる。だが、1番話しやすい男子だ。...本人には口が裂けても言えないが。

「あ、橘、数学のノート見せて!」

「嫌」

「ちょ、次宿題忘れたら、特別補習って言われてるの!」

「自業自得じゃない」

倉田はクラスに1人いる、いわゆる問題児だ。宿題をせず、授業中も寝てて、先生達に目をつけられている。

「あー頼む。橘様!神様!仏様!」

目の前で両手を合わせて、力強く拝む仕草を見せる。その手をどんだけ払い除けても、また再生するかのように同じポーズをとる。

「......」

「......」

「......今度何か奢ってよ」

強い執念を前に観念し、私は渋々数学のノートを倉田に渡した。すると、倉田はパァッと笑顔になり

「さっすが♪サンキュー」

ノートを手に持って自分の席に戻り、早速ノートを写し始めた。


「だから倉田はずっと芽依に甘えるのよ~」

そこに、櫂先輩を堪能した千春が来た。

「何だかんだ、芽依は優しいんだから」

倉田が座っていた前の席に今度は千春が座る。

「だって、しつこいんだもん。いいって言わないと、いつまでもあのままだったよ」

倉田の方を見ると、こちらの会話が聞こえたらしく、倉田はこちらを見て親指をグッと立ててアピールしてきた。

確かに、このままでは一生いいように使われてしまう...。

私は思わず溜め息が漏れる。

「ファイト!」

千春の手が肩に置かれ、慰められたのだった。





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