第7話
夜になると、父が仕事から帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
夕食の支度をしていた佳代子さんが迎えた。
「あー何か安心するわー。佳代子いてくれるの」
「やだ、俊介ったら」
幸せそうな2人の姿に、自然と口元が緩む。
すると、父が私の方を見て、目を丸くした。
「お前...」
「え?何?」
一瞬、何か顔についてるのかと焦ったが、今の自分の姿を思い出し、納得した。
「私も、少しでも料理してみようかと思って......久しぶりにエプロンしてみた」
「そ、そうか......」
ネクタイを緩めて、近くのソファーに腰かける父。
「なら、芽依の料理姿、見てみようかな」
こちらを見てニッコリ笑う父に、私は無性に緊張してきた。
「だって、芽依。なら、玉ねぎと鶏肉炒めてくれる?」
「あ、うん」
私はフライパンをとり出し、火を点ける。油を入れ、言われた通り、玉ねぎと鶏肉の入れた。
バチバチバチバチバチ‼
「うわっ‼」
すざまじい音と共に、元気に跳ねる油に思わず後ろに下がってしまった。
「火が強すぎたのね。ほら、火を弱めたから頑張って混ぜて!」
木ヘラを渡されたので、それを受け取り、恐る恐る食材を突っつくように混ぜる。
「もっとちゃんと混ぜないと焦げるわよ」
「あ、はい...」
佳代子さんのスパルタな指導(私的には)を受ける私を見て、父はニコニコと笑っていた。あの優しい笑顔が、今は憎たらしく見えてしまう。
そこに、兄が入ってきた。
「おー、和志君?初めまして、君の父になります、橘俊介です。よろしく」
兄は、父に軽くお辞儀をするだけだった。
「芽依のヤツ、今懸命に料理やってるよ。俺に似て、全然ダメなんだけど、あの娘の姿を見ると何か力貰うんだよなー。俺も頑張らなきゃなって。まぁ、危なっかしい子だけど、温かく見守ってあげてよ」
「.........ホントに危なっかしいですね.........」
その父と兄の会話は、私の耳には届かなかった。
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