第5話 ※追加あり

やっと口を開いたと思いきや、兄となる自分を否定する発言をしてきた。

「何ですか、それ」

「こんな兄で、嫌じゃないのか...?

知ってるだろ?僕は友達もいないような、ダサいヤツだ」

何なんだ。この情けない人は。今まで会った気弱な男子の中でも、ダントツで無理。

「嫌ですよ。こんな情けない兄を持って、悲しいです、私は」

冷たく言い放ち、兄に部屋の案内だけして、私は自分の部屋にこもった。



それから数分後。佳代子さんが言ったように、引っ越しの業者が来て、家の中が騒がしくなった。何度も何度も階段を上がり下りを繰り返す足音。佳代子さんと業者との話し声。そして、隣の部屋に物が置かれる音。

それらの音に、これから始まる生活が本物だと思い知らされた。本当にあの人が、自分の兄になるのだと。

「あー...夢だと言ってよ...」

昨日までのウキウキ感がきれいさっぱり消え、残ってるのは、失望と不安だけだった。




業者が帰った後。

部屋のドアがノックされた。

「はい」

返事で扉が開き、中に入ってきたのは


なんと、兄だった。


「...ご、ご飯食べに行くって...‼」

兄は目を合わせることなく、早口でそう吐き捨て、さっさと出ていった。

そういえば、佳代子さんが業者が帰ったら、ご飯食べようって言っていたのを思い出す。

私はノソノソと出掛ける準備をして、部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る