第3話

それから2週間後。

今日から、家に佳代子さんとその息子が来ることになっていた。息子は私より1つ上らしい。新しい兄が出来る事に、私はわくわくしていた。かっこよくて、優しくて、頼りになって...父に隠れて日々、妄想を繰り広げていたのだ。


この日は、父が仕事で不在で、私が2人を出迎えることになっていた。約束の11時に丁度インターホンが鳴った。

「はーい」

玄関を開けると、佳代子さんが大きな荷物を持って立っていた。

「あれ...佳代子さん1人...?」

玄関には、佳代子さん1人しかいなかった。息子の姿がなかったのだ。


「それがね...人見知りの激しい子だから、門の角に隠れちゃってて...」

佳代子さんが困ったようにため息をつく。

「え」

私は早くも、妄想で繰り広げた素敵な兄の夢が儚く散るのを感じた。佳代子さんと一緒に門の角に顔を覗かすと

カバンをしっかり握りしめその場にうずくまるジャージ姿の男。

あまりにも情けない姿に、私は唖然とした。


「こら、和志。いい加減に立ちなさいよ。妹の前で情けない!」

佳代子さんが息子に渇を入れる。

和志...?

私は和志という名前に引っ掛かった。佳代子さんの名字は木部。木部和志...。何度か頭の中で思い返すうちに


「あぁっ!」


私は気付いてしまった。

「花守高校の、木部和志...先輩...?」

花守高校は私の通う高校でもある。すると男の肩が跳ね、おそるおそる顔が上がる。

「あら、芽依ちゃん。和志と知り合い?」

佳代子さんが弾んだ声で聞いてくる。きっと、知り合いと知って安心したんだろう。

「まぁ...一応。同じ高校の先輩なので...」

地味で、無口で、友達ゼロで学校中で有名な先輩です、

とは口が裂けても言えない。

「なら、何も心配することないじゃない!ほら、早く中に入るわよ!」

佳代子さんが、息子...木部和志の腕を力ずくで引っ張って家の中に入る。


性格が違いすぎる親子を目の前にして、私は圧倒されてしまった。


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