30話「犬さん、モッフルを3万匹のゴブリンにぶつける

困った事になった。

一瞬、この状況を逆手にとって……モフモフ村にいるセバスチャンに命じて、獣人を全て避難させてブラッドイーターを放置する作戦も考えた。

しかし、その策だと拠点を失って、獣人達の支持を失うし――モフモフ村が陥落したという情報がエルド帝国に流れたら、近隣にいる人間の軍隊がうじゃうじゃやってきそうで、余計に面倒である。

ブラッドイーターを始末する難易度も高すぎて大変なのだが、村の西には、恐ろしい量の人間の村と都市があって道が整備されている。

ゴブリンより人間の軍隊の方が進軍しやすい、本当に迷惑な交通インフラの充実っぷりなのだ。

こうなったら、ブラッドイーターと雌雄を決するしかない。

という感じに……僕は、目の前にいる赤い狐耳の少年にそんな内容を話した。

確かモーニャンの弟のはずだ。十歳児のモーニャンよりも、背丈が遥かに大きいから違和感がある。

だが体格が良いのは利点だ。タフでないと大事な仕事を任せられない。


「……という事で、僕たちは村を守るために戻るから、狐班だけで妨害工作を続けてくれ」


「いやいや!!たった10人でどうやって妨害しろって言うんだよ!?」


「一人でも味方を死なせたら半殺しにするから、死なない程度に頑張るんだ、モッフラ」


「俺はモッフルだよ!?

完全にっ!無理無理無理ィィィィ!!

あいつら3万匹もいるんだろ!?」


「3000匹くらい落として殺したから、もっと少ないぞ」


「大して変わんねぇよぉぉぉ!!」


「いいか、モッフル。

あいつらは……僕達が何人いるのかも把握していない。

継続的に嫌がらせを続ければ、連中は頭を悩ませてストレスを溜め込んで作業効率が悪くなるんだ。

だから無理せず、頑張れ。部隊編成変えて、弓兵5を一時的にプレゼントするからさ」


「いや、俺一人だと何処をどう攻撃すればいいのか分からないんだけど!?

長距離狙撃とかできないし!」


「交信術で、敵軍の弱点を教えるから頑張れ。

モッフル、ここが頑張りどころだ。英雄になればきっとモテモテになるぞ?

艶が良い尻尾も、大きなモフモフな尻尾も、全て君のものだ」


『犬さんが嘘言ってるお』

『狐娘を独占する気満々な時点で、誠意の欠片もないな……うむ』


「無理無理ぃぃぃぃ!ワァンの旦那以外にあんな芸当無理ィィィィィ!」


「ほ、ほら、食料を集積している場所を教えるから、そこに火矢をかけるだけで良いんだぞ?

遠距離攻撃メインの作戦ならリスクないだろ?」


「ゴブリンの弓兵怖い!ワァンの旦那が真っ先にあいつらを潰してくれないと反撃されるだろぉぉぉ!

俺が指揮したら包囲されて殲滅されると思う!」


「中国の超偉い孫子さんが言いました!

放火って最強だよな!ちょっと燃やすだけで燃え広がって楽勝だぜ!

火攻めは良い戦術なんだぁー!って言ってた。

モッフルにもきっと出来る、頑張れ。

モッフルが信じるモッフルを信じるな、僕の信じるモッフルを信じろ。

ヘタレなモッフルを捨てて、モフモフで勇敢なモッフルになるんだ」


「いや無理無理!無理すぎる!難題すぎて死ぬから!」


モッフルは未だに自信がないようだ。

……うむ……尻尾は立派な癖に、意気地がない奴……。

でも、モッフルに頼まないとナポル少将の部隊が何をやらかすか分からないし……。

今は根性を鍛え直す時間もない。

うーん、どうすればいいのやら――僕の脳裏に名案が思い浮かんだ。


「分かった!モッフル!

作戦の難易度を下げてやるから、3時間ほど、そこで尻尾の手入れでもしながら待ってろ!」


モッフルは僕が何をやろうとしているのか、さっぱり理解していない顔だった。


~~~~



「敵の将軍ナポルを狙撃してきたぞ!

これで難易度が劇的に下がったはずだ!

あいつらは混乱しすぎて、もう指揮系統がグチャグチャだ!」


3時間後、僕はモッフルの元へと戻ってきた。

ナポル少将を殺した帰り道に、ゴブリンリーダーを4匹ほど狙撃したから、余計に混乱しているはずである。

……ブラッドイーターが居ないから、誰でも殺し放題。

なんて楽な戦場なのだろう。ナポル少将はテントの中にいれば狙撃されないと思っていたようだが、こっちには暇を持て余している邪神どもがたくさんいる。

当然、どこに潜んでいようが、逃れることなど出来はしないのだ。


「えぇぇぇぇぇ!?こんな短時間で戦争が終わった!?

ワァンの旦那すげぇぇぇぇぇぇ!」


「いや、終わってないぞ、モッフル。

後始末、頑張れ」


「な、なんか、俺でも出来る気がしてきた!」


……弱い者虐めができると分かった途端、これである。

指揮官としては素晴らしい素質を持っているのかもしれない。

モッフル個人はヘタレだが、きっと無理せず戦ってくれるだろう。

……出世できないタイプだなぁと思ってごめんなさい。こいつは臆病だが、仕事がちゃんと出来る臆病者だ。


「よし、その調子だぞ、モッフル

矢が足りなくなったら、戦略輸送部隊が運搬してくるから、死なない程度に適当に頑張れ。

敵軍の手薄な場所を教えるから、ちゃんと交通インフラも壊すんだぞ……と言いたいが、僕が居ないと岩を量産できないから、遠距離からの嫌がらせだけで良いぞ」


「おお!分かったぜ!ワァンの旦那!」


『たった10人で3万人を足止めさせるなんて……酷いっ……!』

『いや、もう、戦争に勝利しちゃっている件』


厄介な精鋭ゴブリンがたくさんいるが……モッフルの武運を祈ろう。

ここに兵力を残して置かないと、作業効率が著しく上昇して、ゴブン街道が再開通しかねないし。

妨害している間は、敵軍は防衛・監視・捜索などに手を費やさないといけないから、手間暇が増えて面倒がるはずだ。

……モッフル、頑張って生き残るんだぞ。

お前が死んだらモーニャンが悲しむ。

ナポル少将の代わりに、有能なゴブリンが指揮権を握って、難易度劇的に跳ね上がる可能性があるなんて事は黙っておこう……。


『犬さん大変だぁー!』


また……悪い新しいお知らせか?


『犬さんに村を燃やされたゴブリン達が集まって、500匹近い大集団になって移動してるー!』


つまり、なんだ?

三つの集団を相手しないといけないのか?

ゴブン街道を開通させようとする3万匹のゴブリン、ナポル前衛集団(将軍を失って大混乱中)

村めがけて進む普通のゴブリン500匹、復讐ゴブリン軍団(仮)

ブラッドイーター率いる精鋭100匹、ナポル別働隊。

……うむぅ……僕が使える兵力がたった50人だから、やれる事が少ないにも程がある……。

もう50人ほど兵士として戦ってくれる奴が居たら、この事態に完璧に対処できるのに……。

大軍を持つゴブリン達が羨ましい。


『この戦争に勝利すれば、きっと兵士が増えるお!』

『も、もっと経済力を付ければワンチャンスという所だな……うむ』

遊牧民族を倒すのは大変だって!?

http://suliruku.blogspot.jp/2016/09/blog-post_74.html ★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)放火って凄いんですか?


   炎

●(´・ω・`)ちょっとした火が、都市を焼く事すらある。

最強じゃな?




★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) 先生の頭が燃えてるよ!


   炎

 炎´・ω・`炎 た、たすけて……

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