29話「犬さんと、追い詰められたゴブリン達」

ブログバージョン

http://suliruku.blogspot.jp/2016/11/29.html


僕達のささやかな嫌がらせは連日続いた。

相手の戦う意欲を削げば、それだけで良いのだが……僕は凄くてっとり早い方法を考えたのである。

ナポル少将っていう名前のゴブリンを倒すのは難しいが、その次に偉い連中は精鋭ゴブリンに護衛されているだけで、とっても無防備だ。

つまり、1匹で50匹のゴブリンを率いるリーダー達。名付けてゴブリンリーダーの数はたったの19匹。

そいつらを潰せば――ナポルがどれだけ命令しても、何もできない状況が出来上がるはずだ。

奴らの指揮系統は図にすればこんな感じである。


ナポル少将 1匹

↓伝令

ゴブリンリーダー(大尉)×19匹

精鋭ゴブリン(少尉)×約1000匹

臨時ゴブリン兵士

ゴブリン労働者   ×約3万匹


ゴブリンリーダーの役割を人体で例えれば首に相当する。

つまり、首がなければ、脳味噌の考えは末端の手足には届かず、ただの烏合の衆と化す訳だ。

僕は邪神どもに、ゴブリンリーダーの現在位置を探させて、半径400m以内に近づいて狙撃すれば良い。

ゴブリンリーダーの周りにいる側近どもを、ついでに殺害すれば、指揮権の譲渡が上手くいかなくなって余計に混乱するはずだ。

女ゴブリンとエッチな事をしようとするゴブリンリーダーがいれば、テントごと矢を貫通させて殺し。

ご飯を食べている最中のゴブリンリーダーが居たら、やはり、すぐに狙撃して即殺。

とにかく、ゴブリンリーダーは見つけ次第、ゴキブリにスリッパを叩きつけるかの如く、徹底的に殺した。

逃げようとしたゴブリンリーダーも、わざわざ追いかけて殺して、川へと放り込んだくらいだ。

……あれ?なんか可笑しいような……?

殺すのに夢中になりすぎて、目的と手段が逆転している気がする……?


『逃げる奴まで殺すなんて無駄だお!?』

『犬さん、不効率ですぞ!』


こ、こんだけすれば、きっと、ゴブリンの故郷に帰ってくれるだろう。

はよ、帰れ。僕たちは他にやらないといけない事がたくさんあるんだ。

雪が降る前に、可能な限り、薪を量産したり、秋の幸で保存できそうな奴を集めたり、冬に贅沢モフモフライフを過ごすための労働をまだやっていない。

略奪品はたくさんあれど、肉が多すぎて栄養バランスが極端に偏っている。

獣人は人間から派生した生き物であり、人間は色んな物を野外で採集して食べまくってきたから、必然的に獣人の身体も様々な栄養を取る事を前提にした作りになっている。

肉だけじゃ安心して生活できない。野菜が欲しい……。

そんな疲れた思いを抱きながら、僕は邪神の身体を借りて、ゴブリン側の本営テントを見ている。

今、一番殺したいゴブリンNO1のナポル将軍は――とても苛立っているようだ。

空のガラス瓶で、近くにいた部下を殴りつけ叫んでいる。当然、ガラス瓶は割れた。

部下は頭から血を流して、地面に倒れているが、ナポルは気にしなかった。


「たかが獣人ごときに、何を手こずっている!

それでも貴様らは栄えあるナポル前衛集団なのか!」


……いや、歴史がある騎士団みたいなセリフだけど、略奪共同体って傭兵団みたいなものだろう?

歴史が浅いのに、『栄えある』って発言は失笑物だと思う。

部下はたくさんいても、人望は無さそうだ……と言いたいが、精鋭部隊を預かるだけあって、理不尽な現実を部下に許容させるカリスマ性があるようだ。


「俺はオグド閣下に約束したのだ!

一週間で道を確保し!獣人を売り飛ばすとな!

俺達は死んでもいいから成功しなければいけない!そのためなら命を惜しむな!

男なら命を捨てろ!」


「で、ですが……!

神出鬼没な獣人たちは、卑劣にも遠くから投石してきたり、荷車を狙撃して焼いたり、上級指揮官を中心に殺しまわっていて、全く接近してくる気配を見せてこないのです!

ひたすら遠距離からの狙撃に徹しています!明らかに部隊内にスパイが浸透しており、敵軍に情報を与えて大変です!

もう、指揮官が次々と交代して、うんざりした顔で昇格を断る兵士まで出る始末――ぱぎゃ!」


ゴブリンな部下がガラス瓶で殴られた。

当然、殴ったのはナポルだ。

こんな奴が上司だったら、僕は逃亡兵か、味方殺しをする自信がある……尻尾が付いてないし……。


「貴様は馬鹿か!異種族同士での殺し合いにスパイが要る訳がないだろ!

ゴブリン同士での戦争じゃあるまいし!疑心暗鬼になるネタをばら蒔くな!

もっと知恵を使え!俺のようにな!」


「は、はぁ……?」


「奴らの守りたいものは何だ?それを考えろ」


「恐らく、ゴブン街道を行った先にある獣人の村だと思われます。

しかし、どう考えても7日以上先の場所にありますし、寸断されたゴブン街道のあっちこっちに串刺し状態のゴブリンの死体があるらしくて……それらを焼かないと、腐敗した遺体から疫病が発生しま――ぎゃ!」


また、部下さんがガラス瓶で殴られて気絶した。

酒が入ったままの瓶だったから、テント内にアルコール臭が漂っている。

ナポルは部下が気絶したのも構わずに言葉を続けている。


「全く構わんっ!

疫病で俺たちが壊滅しても一向に構わん!

死ぬのが怖くて戦争なんかやっていられるか!

要は獣人どもの村を攻める事が大事なのだ!

そうすれば、数が少ない獣人どもは守勢へと回り、妨害工作をやっている暇はなくなる!

ブラッドイーター!」


ナポルはテントの片隅で、刀剣の手入れをしている危ない奴に声をかけた。

コイツがいるせいで、僕がナポルの所へと近づくだけで反応して走ってくるから、戦争が中々終わらないのだ。

困った剣狂いゴブリンである。

ゴブリン労働者3万匹が強制労働させられて困っているのは、きっと全部コイツが悪い。

冬が近いから寒くて辛いんだぞ。三歳児ボディの貧弱さを舐めるな。

小さくて体力がないから、頻繁に料理を食ってエネルギー補給しないと死んじゃうんだぞ。


『犬さん、責任転嫁しちゃ駄目ぇー!』


「くくくっ……!今宵のブラックダガーたんの分厚い刃渡りがそそるっ……!」


当のブラックイーターは、黒く染め上げた刀剣をペロペロ舐めていた。

剣術は技能スキルのおかげで凄いようだが――手入れの仕方は完全に間違っている。

錆びるぞ……そんなに刀剣を唾液で濡らしたら……コレクターの癖に剣を愛しすぎて、耐久力を低下させているようだ。

まぁ、剣なんて実戦で使えば消耗品だし、コレクションを浪費する事に快感を抱いているのかもしれない。


「うぉっほん!うぉっほん!」


ナポルが咳払いをしても、ブラックイーターは反応しない。

血走った目で、剣をペロペロ舐めて、汚い布で拭いている。


「話を聞かんかぁー!」


我慢の限界にすぐ達したナポルは、ガラス瓶を投げた。

ブラックイーターの索敵スキルが発動し、すぐに攻撃の構えを取る。

一瞬で剣が光のごとく閃いた。ガラス瓶が8分割されて、中に入っていた酒が真下へと落ちる。

……無意識にやったとはいえ、なんて無駄が多いんだ……。

刀身でガラス瓶を叩けばいいのに……いや、斬るのが好きなゴブリンだったな、こいつ……。

性癖が攻撃にまで現れているぞ……爆弾を投げつけられたら死ぬタイプだな……。


「ん?ナポル、俺に何かようか……?」


「山に慣れた兵士達を率いて、獣人の村を攻めて来い!

道案内と食料を兼ねた家畜(ゴブリン)を200人ほど引き連れていいぞ!」


「今回の報酬は……?」


「獣人の村には、色んな名刀があるそうだ。

鎧を切っても刃こぼれ一つしないと噂で聞いたな」 


こらこら、嘘言うな。

僕の手にかかれば、名刀なら幾らでも量産できるが、村にあるのは量産品ばっかりだぞ。

しかし、そんな事を知らないブラックイーターはすんなりと理解して頷いた。目を好奇心で輝かせている。


「なるほど、コレクションがまた増えるな……」


「さぁ!行って来い!

獣人どもは数が少ないが、その分だけ強者が多いと聞く!

貴様が満足できる戦いが待っているはずだ!歯向かう奴は全て殺せ!」


これ、ブラッドイーターが作戦を終えて戻ってきたら……地面に8分割されているガラス瓶のように、ナポルも8分割されるんじゃないだろうか?

名刀を用意してないと、絶対、怒るぞ……。存在しないものを報酬にするとか酷すぎる……

しかし、この事態はやばいなぁ……

こいつらは、ゴブン街道以外の獣道とか山道を通って、僕の村に来るつもりだ。

ナポルって奴は、僅かな情報で推理して、僕たちの弱点をしっかりと理解しているようだ。

獣人は数が絶望的なほどに少ない。

これはできる仕事の量に影響する。

ブラッドイーター達に対処するために、少ない戦力を割いたら……妨害工作を続けるのは困難だ。

モフモフ村に攻め込まれて焼かれたら、皆の信頼を裏切った事になり、戦略輸送部隊の皆は、家族を連れて逃亡を開始するだろう。

そうなったら、もう、おしまいだ。

獣人は単体では強いが、数の暴力には勝てない。

各地で狩られ、奴隷にされ、食われ、絶滅へと追い込まれる事になるだろう――


『犬さん、ゴブン街道の東側の入口が封鎖されたお』


……え?なんでだ?あそこは遠すぎて味方いないよな?

ゴブリンの都市とか、村が数えきれないほどある危険地帯だぞ?


『略奪されて怒ったゴブリンの農民たちが、二度とナポル達が帰ってこれないように、犬さんよりも徹底的に道を潰しているんだお』

『ゴブン街道、これでおしまいですぞ。もう再開通できないかも』


……これを勝機と見るか、敵軍に逃げ場をなくさせて厄介な事になったと見るべきか、とっても迷惑な話だなぁ……。

仕返しに春が来たら、ゴブリンの集落を全部焼き払ってやるぞ。

 皆 殺 し だ。

 

 


★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)先生ー!

つまりどういう事だぁー!?



山山山山

✖ナポル✖

山山山山

●(´・ω・`)ナポル前衛集団の前と後ろに、まともな道が皆無。



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) じゃ、略奪共同体40万はどうなるので?



●(´・ω・`)北方の草原地帯なら、一気に通れるやって事で移動中



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)おいこら!?ナポルは無駄死にか!?



●(´・ω・`)草原は草原で、犬さんがいるルートよりも、ある意味辛いんですぞ(遊牧民いるし

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