28話「犬さんの投石器無双」


ブログバージョン

http://suliruku.blogspot.jp/2016/11/28.html



「なんで俺達がこんな事を……!」

「都市から離れて、さっさと遠くへ逃げれば良かった……」

「ああ、冬が来るぞ……冬が来る前に工事が終わらないと死ぬ……!」


3万匹のゴブリン達がゴキブリのように――うじゃうじゃ居た。

迷惑な事に……山道の各地で工事に勤しんでいる。

愚痴っぷりから、近くの都市から運ばれてきた奴隷達らしい。

さすがに千匹の精鋭ゴブリンじゃ管理しきれないから、1万匹のゴブリンを兵士へと昇格させ、残り2万匹を奴隷同然のように酷使し、近くの集落を襲撃して、着々とゴブリン労働者の数が増えつつあった。

……なんか、嫌な光景だなぁ……。

ゴキブリが卵を大量に産んで、大繁殖したのと同じくらい不快感を覚える。

しかも、現実の盗賊団って、こういう大規模傭兵団から派遣されまくる分遣隊だから、撃退しても撃退しても切りがないから、集落側は最初から抵抗を諦めて逃げる所ばっかりだ……。

もっと徹底抗戦して時間を稼いでくれたら良いのに……。


『なんて身勝手な発言』

『犬さんも集落を襲撃しまくって、ゴブリンを虐殺しまくったお?』


僕がゴブリンを殺しても許されるんだ。

あいつらの顔の見分けがほとんど付かないし、全く違う異種族なんだし、ゴブリンに人権はないのである。

放置すると、増えすぎたゴブリンに包囲されて、モフモフ村に被害が出るし。


「働けぇー!働かない奴は鍋の具になってもらうぞぉー!」

「二週間以内に開通させるのだぁー!さもないとお前らの子供たちをぶっ殺すぞー!」


ゴブリンの兵士が、鞭を勢いよく振り下ろして、ゴブリン労働者を叩いた。

少しでも怠ける素振りを見せれば、鞭でパシーン。

疲れて動けなくなったら、死ぬまで鞭でパシーン。

鞭の達人は、音速を超える速度で鞭をパシーン。

反抗的なゴブリンにも鞭をパシーン……見ている僕たちが飽きちゃうくらいに、ワンパターンな作業現場だ。

……何が楽しいのだろうか……これ……。

砂場で城作りした方が、まだ有意義だと思う。

お前らの努力、全部台無しになる予定だし。


『犬さんより酷いブラック企業だお』

『うむ……酷い労働条件だな……種族は違えど、同情しよう……』


ゴブリン労働者の主な作業内容はこんな感じである。

①道路の拡張工事

②僕たちがプレゼントした障害物の撤去

③弱ったゴブリンは、鍋に入れて食用肉に。

④女の子ゴブリンは昼間は労働、夜は慰みものにされて過労死……ほんとう……誰得な光景なんだろう……。

冬が到来する前に帰れ、お前ら。

こっちも冬越えの準備とかしないといけないんだぞ。


「ひぃ!なんでワシらがこんな目に……」

「この世に神はいないんかぁー!そうなんかぁー!」

「暗黒神様助けてぇー!」

「寒い!毛皮をくれ!」


口々に悲鳴を上げ、その度に労働をやめるゴブリン労働者達。

ゴブリン兵士は鞭を振り上げて、叩く仕事を嗜虐心まみれでやっていた。


パシーン!


「貴様ら家畜にっ!神などいない!

家畜からゴブリンに成り上がりたかったら働けぇー!この糞虫どもがぁー!」


これ……一歩間違えば、こいつもゴブリン労働者と同じ立場だったのに、この発言である。

僕的には、ゴブリンが信じる暗黒神なんてどうでも良い。

尻尾なしのチビどもが崇める神様なんて、どうでもいいが……このままゴブリン労働者を働かせると、ゴブン街道が再開通どころか、拡張工事されて大軍が通れる仕様になりかねない。

狭い山道が広い山道になったら、ゴブリンの数がそのままメリットになっちゃう。

だから僕は――頭サイズの小さな岩を、投石器に載せて飛ばしてみた。

テコの原理で、岩が遥か彼方へと飛んでいく。


「あ、あれはなんだ!?」


とても目が良いゴブリン労働者が、早速、声をあげた。

だが、ゴブリン兵士達は飛んでくる岩に見向きもしない。

鞭でゴブリン労働者を叩いて叩きまくり、説教する愉悦に浸っている。


「その視線逸らしにはひっかからんぞ!

俺が余所見した途端、反逆する気だな!家畜どもめ!」


「うわぁぁぁ!逃げろぉー!」


「俺がそんなに怖いのかぁー!あっひゃっひゃっ!ヒャブッ!」


高笑いを上げたゴブリン兵士。飛んでくる岩に気づかずに頭が潰れ、血の花が咲く。岩は道へとめり込んだ。

……この光景を見ている僕がどこにいるかって?

実は遥か高い山頂にいる。

細工スキルで、日本の公園にあるような、シーソーの形に近い投石器トレビュシェットを10個ほど作って、次々と岩を飛ばす作業を開始したんだ。



    紐紐紐紐

   紐 台  箱☚●重りを入れる箱

  紐  台 

 紐     台台

箱   台  台

●飛ばす岩を入れる箱


この図の右側の箱に、重い物体を落とすと、その位置エネルギーが運動エネルギーに変換され、岩を遠くへと飛ばす兵器だ。


『重い物であればあるほど、より遠くへと岩を飛ばせる道具って事だお?』

『……将来的に迫撃砲を作ればいいんじゃね?』

『いや……迫撃砲は部品数が少なすぎて……簡単に量産できる代物だ。あれを普及させると獣人が不利になるだろう……』


固定式だから、移動できないが、長射程が売りである。

あえて……問題点があるなら、僕は投石スキルのおかげで、例え1km先の的や道でも……ゴブリンが密集しているおかげで、50%くらいの確率で当てられるが、他の皆がたくさん岩を飛ばしても、見当違いの方向へと飛んでいく事だ。

1000発投げて、そのうちの1つが標的に着弾すれば良い方だろうか?

まぁ、ゴブリン達を混乱させる効果があるし、投げているのは岩ではなく、手のひらサイズの石だから、幾らでも量産できる。

それに、石が小さいおかげで、一度に50個ほど載せて、広範囲にばらまける利点も捨てがたい。

ゴブリン達から見れば、一方的に虐殺されているように見えるはずだ。

そういう精神をへし折る展開に見えればそれで良い。地形がゴブリンどもを殺してくれるはずだ。


『見ろ、まるでゴブリンがアリさんのように小さいお!』

『え……あんな小さな的に当てるとか、犬さん凄すぎますぞ!』

『固定式で方向転換もできない投石器で、なぜか当てていて不思議すぎる件……』

『大砲じゃあるまいし……なぜ、こんな事ができるのだろうか……?』


僕は、一つ一つ、岩を投石器に載せて、着実に命中させていく。

それも山道の西側から順番に、ゴブリン達を追い詰める形でだ。

照準の修正は、錘(おもり)となる岩の重量で調整すれば良い。

東へと逃げまくるゴブリン達は、次々と同胞を崖へと落とし、自分だけでも助かろうと努力している。


山山山山山山山山山山山

岩岩岩岩道道道道道道道

崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖崖


僕のやりたい事が分かってくれただろうか?

ゴブリンどもに恐怖を与えてパニック状態にさせ、狭い山道だから、次々とゴブリンが崖下に転落して、勝手に負傷してくれるというお得な戦術なんだ。

狭い山道+投石機で狙撃という常識的にありえないアホ行為+ゴブリン労働者という士気が低い集団という要素が絡まりあい、景気よく崖から転落するゴブリンが続出している。


『ナポル前衛集団以外は烏合の衆すぎるお……』

『士気が低い集団ならではの鬼畜戦術すぎますぞ!』


このやり方なら、わずかな岩で、数千匹のゴブリンに致命傷を与えられるし。

生き残ったゴブリンは、心的なトラウマを負って、労働効率が更に悪化する。

そうなれば――ゴブン街道は開通しない。

時間を稼げば冬が到来し、道を雪が埋めてしまい、僕は暖かい自宅で、気に入った女の子の尻尾を好きなだけモフモフして過ごすだけで良いという事なんだ。


「ぎゃぁー!助けてぇー!」

「落ちろぉー!俺が生き残るためにお前らは落ちろぉー!」

「お前は隣村のラブウ!生きていたのかぁー!嫁を返せぇー!」

「お前の嫁は、この前、屠殺して食用にしたぞぉー!パドゥー!」

「お前みたいな奴がいるから、俺達が奴隷労働させられるんだぁー!」


……この戦術。楽な事は楽なのだが……追い詰められて理性が吹っ飛ぶゴブリン達を見せられちゃうから、子供の教育に悪しゅぎる……。

邪神経由で遠い目標を見ながら投石しているせいで、音情報まで伝わってきて辛い……。

今日の夜は狐娘の尻尾をモフモフして癒されながら寝よう……。

ああ、ご都合主義な異世界に行きたいなぁ……。


『戦いながら現実逃避しちゃ駄目ぇー!』

『犬さん!勝ち戦なんだから、大喜びで投石するべきですぞー!』


「主様は凄いですなぁ……この距離から命中させるとは……歴史に名が残りますぞ?

それにしても……投石機とはこういう用途に使う兵器でしたかな……はて……?」


ホワイトが岩を持ってきて、投石器の箱へと載せた。

獣人達は勝ち戦だと分かって、戦略輸送部隊の皆も次々と岩を持ってきてくれている。

だが……この戦場での最大の障害は、未だに排除できていない。

ブラッドイーター。技能スキルは普通のゴブリンを化物へと変える。

こいつがここへと向けて近づきつつある。それも真っ直ぐに道なき道を進み、ありとあらゆる障害物をショートカットしてだ。

恐らく2時間もすれば、ここへ到達するだろう……この山頂、雲の上にあるような高所だし。

折角作った投石器だが……60分後には燃やして、皆で撤退しないと駄目だなぁ……。

ああ、面倒くさい。ブラッドイーターが居なければ、敵軍をここに誘導して、罠を張り巡らして一方的に戦えるのに、その手間暇が余計にかかって辛すぎる……。


「主様?何かお悩みですかな?」


ホワイトが心配そうに、首を傾げて僕の目を見ている。


「いや……自分たちの生活を守るために、ゴブリンたちの家庭を崩壊させている現実に嫌気が差しただけだよ」


「ほぅ……主様はお優しいのですな。

ですが、耐えてくだされ。辛いなら拙者の胸でパフパフしても良いのですぞ?」


「いや、今のは冗談だからホワイト。

赤の他人ならぬ、赤のゴブリンがどこで野垂れ死んでも、全く罪悪感ないよ」


「……なるほど、冗談でしたか。

最近の主様は、言葉が達者になられましたな。

つい二週間ほど前までは、子供らしかったのですが一気に成長なされて嬉しい限りです。

あ、もちろんチン●は小さくて可愛らしいですぞ。

まだまだ成長の余地がありますな」


「三歳児のチン●に何を求めているんだ!?」


「主様の4年後に期待します」


「7歳になったら童貞を奪う気か!?」


「ふふふふふ、そういう初々しい反応を見ていると、主様の純粋さが伝わって安心しますなぁ……」


ホワイトは下ネタ好きだが、こういう一面を見ると良い娘かもしれないなぁと、不本意ながら僕は思ってしまうのだ。

こういう獣娘を守るために、僕は大量虐殺をやって、ゴブリンの家庭を崩壊させているんだ。


『ゴブリンが地獄体験している間に、犬さんがリア充体験している件』

『天国と地獄は、現実に両方あるんだお……?』


僕が呑気に、投石器で岩を投げ飛ばしまくっている間に、ゴブリン労働者は次々と崖から転落して死亡。

山側へと逃げたゴブリンは、このまま逃げた方がいいんじゃね?と気づき、労働者から逃亡者へとクラスチェンジした。

……恐らく、数日以内に、逃亡者から遭難者にクラスチェンジして、最終的に難民ゴブリンか、死体に進化しそうだ……。

ああ……尻尾をモフモフして、美味しい物を食べたいなぁ……。

山頂の冷たい空気は、三歳児には辛すぎる。



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)先生ー!

どうやって山頂に岩を集めたんだぁー!

重労働すぎるだろー!




●(´・ω・`)ナイフ格闘術で、山頂を切断しまくった。



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) ひでぇオチ


●(´・ω・`)あと、投石器は平地だと400mくらいしか飛ばんから、ほとんど山頂という地形効果のおかげですぞ。

たぶん、雲の上に突き出るような高い場所にあると思う。



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) これは酷い!?

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