16話「略奪共同体」

ぶろぐvar

http://suliruku.blogspot.jp/2016/10/16.html


目を瞑る。自らの五感を封じ、他者の五感を得る。

僕は、遠く東に離れた場所を――邪神の視界を借りて見た。

ゴブリンを中心とする国々がたくさんある紛争地帯らしいが、都市は略奪されて焼け、畑は耕作するものがいなくて荒廃している。

そう、略奪共同体が通過した後の地域は、壊滅するのだ。

食料は取り上げられ、被害者を兵士として吸収し、次々と都市を飲み込むせいで社会そのものが消滅する。


「へーい、らっしゃいー。

美味しい焼き鳥だよー」


でも……ゴブリンも人間も生活しないと生きていけない。


「略奪品の買取やってるよー。高く買うよー」

「買い叩きすぎだろ!?なんで、この像がたったの銅貨3枚なんだよ!」

「中古市場は買い手市場なんだよー、わかれよー」


略奪共同体が得る略奪品と現金を目当てに、いろんな商人がやってきて屋台を広げ、活気溢れる空気がそこにはあった。


「新鮮採れたてピチピチのお肉だよー!」

「ゴブリン肉じゃねぇか!共食いさせる気か!」

「なぜ分かった!?」

「前に飢えた時に食ったぞ!」


肉屋さんでは、出所不明の謎の肉が売られ、

カビだらけの硬いパンを食べようとして、歯を折って苦しむ老ゴブリンがいてチャーミング。

女性の職は、体を売る以外の職業がないから、露出が多い格好で兵士達を誘惑し、今日も子作りに励んでいる。

……どんな場所でも、生きていかないといけないから、ゴブリンの皆さんも元気である……。

なんだかなぁ……。

とりあえず、兵士以外の人員を多数含んでいるせいで、食料の浪費が激しそうだって事はわかった。

見たところ、兵士が2割、商人が5割、女・子供が3割って感じだ。

通常の軍隊の5倍以上の食料を浪費する事は間違いない。

ゴブリンの背丈が人間より低いとはいえ、40万の大集団だ。

食料を現地調達出来なくなれば、その時点で行動不能に陥るだろう。


「このお肉は新鮮でピチピチなんだよー!わかれよー!」

「よく見たら子供の頭が入ってるじゃねぇかぁー!死ねやぁー!」

「ぎゃぁぁぁぁ!」


……よくこんな環境で商売出来るなぁ……。

僕より生活力がありそうだ、こいつら……。


『地球で贋金作りやってた犬さんが言うな!』


ーーーーーーーーーーーー


僕は五感を借りている邪神に命じて、この共同体で一番偉そうな奴を探させた。

移動させやすい白いテントがあっちこっちにあって、目立つ建物がないせいで特定が難しかったが、人の流れで居場所が分かった。

馬に乗った伝令を後ろから追いかければ良い。

全ての情報は、最終的にどこかで濾過された後に、指導者の元へと集まるはずだ。

そして――僕はそいつを見つけた。

この超巨大難民キャンプと言っても良い場所の中央に居る。

パイプを片手に……タバコを吸ってる紳士風のゴブリンだ。形の良い白い髭が生えていて、長年生きたような貫禄がある。


『オグド隊長さんですぞ!』

『貴族の家、産まれだけど、没落して傭兵に身をやつした人ですお。

趣味は確か騎士殺しだったお。宗教で洗脳した少年兵を使うのが大好きな男ですお』

『今じゃ、超有名傭兵団の長という訳だ』


没落して、今じゃ略奪共同体の長か。

負け組から成り上がるという点では共感できるけど、今回は敵なんだよな、このゴブリン。

やっている事も洗脳とか鬼畜すぎる……。


『犬さん、お前が言うな』『不良を洗脳したのは犬さんも同じだお……?』


意味が分からんツッコミ入った。僕はなんて不幸な三歳児なのだろうか。

モーニャンの尻尾をモフモフしたい。あれは良い尻尾だ。


「大変だぁー!隊長ー!

東方諸国が俺たちを討伐するために、大規模連合軍を組みやがったぁー!」


オグドがいるテントに、一人の若いゴブリンが入ってきた。

豪華な身なりをしているから、きっと偉い奴なのだろう……富裕層から奪った略奪品を纏っているだけの下っ端Aの可能性もあるが……。

報告を聞いたオグドは一回、口からタバコの煙を吐いて、白い輪っかを作り上げ――


「……バンド、逆に考えるんだ。

東に凄い敵がいるなら、こっちも凄く西に逃げて人間の国を侵略すれば良いやって考えるんだ」


「いや、隊長!?

途中に、馬車を運用し辛い地形がたくさんありますよ!

それに人間どものエルド帝国は、十万の大軍を定期的に動員して、遊牧民族と戦争しているから、こっちの物量で圧倒できないし……現地ではゴブリンの兵士が補充できません!

兵力が損耗したら回復できないんです!」


僕の所属している国はそんな酷い戦争やっている国家だったのか。

どことなく、国庫が空になって、商人たちが重税で悲鳴を上げていそうだ。

役人は目立つ場所に課税するから、商人とか真っ先に犠牲になる気がする。


「なら、遊牧民族の皆さんに手紙を出して……もっと積極的に攻めて貰えばいいやって考えるんだ。

エルド帝国に大きな戦線が二つできれば、こちら側にかかる負担は軽減されるはず。

攻城兵器は……一度破棄するしかないが、このまま飢えて死ぬよりマシだろう」


「ですが隊長!こっちの構成員は、非戦闘員がほとんどを占めるのに無理ですよ!

勝ち目なんてありません!」


「……これ以上、ゴブリン同士で殺し合うのはやめなければいけない。

失敗するにせよ、成功するにせよ。

ゴブリンに迷惑をかけるより、人間どもに迷惑をかけた方が良いだろう。

……この戦争は長く続きすぎた……そろそろ終わらせるべきだ、私たちが敗北するという結末に終わってもな」


うん……ゴブリン視点だと感動話なんだろうなぁ……。

通過点に獣人の村があるから、迷惑にも程があるぞ……。

バンドはオグド隊長の語りっぷりに感動したのか、涙を流してひれ伏している。


「た、隊長っ……!俺、間違ってましたっ……!

俺、自分の事しか考えてなかったですっ……!

最後まで体調についていきやすっ……!ゴブリンの未来のために人間を奴隷にしましょう!」


「なら、最初にやるべき事があるだろう。

ナポルの前衛部隊を送り込んで、進入路を確保するのだ。

こちらは少しでも、補給に失敗したら崩壊する訳なのだからな」


「わかりました!出撃させます!」


オグドが紙に、さらさらっと文字を筆で書いて、バンドへと渡した。

……不味い事態だ。

思ったより、僕たちには余裕がないかもしれない。

邪神に書類を解読させたが――そこには千の兵力と書いてあった。


「それと、この地図にある獣人の村を制圧したい。

獣人なら高値で売れるから、戦費を補えるはずだ。

人間も見つけたら捕まえろ」


「了解しました隊長!可能な限り生け捕りにするように命じます!」


な、なんだと……!?

モフモフな獣人達を捕まえて奴隷にしようだって……!?

僕の心は、噴火した火山のように煮えたぎる。

大事な物を壊そうとする邪魔者は、どんな奴だと許せない。

オグド隊長とやら。

僕の怒りを見せてや――


「……バンド、命令を追加だ。勝手に付いてくる商人どもを追い払え。

武器屋や食料商人や、女衒はともかく、焼き鳥やパン屋の生活まで面倒を見たくない。

食料を調理する方法は、鍋物だけと伝えておくのだ。

スープは良いぞ。食材を無駄なく調理できて栄養満点だ。

量が少なくても、熱いスープのおかげで満足になれる」


……なんか、戦い辛いなぁ……。

相手陣営を覗いて情報を獲れるのは良いが、相手の苦悩も身近で聞けて、指導者として親近感が持てて辛い……。


『共感しちゃ駄目ぇー!』『犬さん!この人は前線に出てこないから安心するのですぞ!』


……とりあえず、今回の情報だけで、一番ポイントが高い戦術が分かった。

僕にも、この隊長のように守りたい物がある。

戦場に情けは無用なんだ……。

勝たなきゃ、平和な生活はやってこない。



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(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)先生ー!略奪共同体って強いんですかー!



(´・ω・`)まず、子供たちに親殺しを体験させたりします。


(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)は?


(´・ω・`)取り返しのつかない状況においやれば、簡単に殺戮マシーンの完成なんじゃよ。

この略奪共同体は、そこまではやってない方じゃけどな。


(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)ひでぇ

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