幕間 15話「昔の狐娘、犬さんと出会う」

ぶろぐvar

http://suliruku.blogspot.jp/2016/10/15_17.html


ワァン様って凄い男の子なんだよ!

私の話を聞けば分かるよ!だから、このキャベツを無料にしてよ!

八百屋のおじさん……いやお兄さん!


「いや、モーニャンちゃん……。

値切るを通り越して、無料にしろとか無茶言い過ぎだよっ……。

それに獣人は不老だから、お兄さんは褒め言葉にはならないなぁ……」


えと、あれはね……ワァン様が一歳くらいの頃だよ。

私が飢えて、道端の草を食べて生活してて、苦しい時期だったんだ……。

確か2年前だったかなぁ?


「いや、だから、無料にするとは一言も言ってないのだが……?」


当時の事は思い出しくないけど……キャベツさんのために、私、頑張って話すよっ……!


「話を聞いてくれよ!?モーニャンちゃん!天然というより鈍感だよね!」


大きく育ったキャベツさん……繊維豊富で美味しそう…… ジュルリッ。







~~過去回 昔の狐娘、犬さんと出会う~~





野外の冷たい空気とぶつかる度に、私の中にある体力が奪われていく。

穴だらけのボロボロの衣服は寒さに敏感で大変。貧乏って冷たくて悲しい……。

自前の大きな黄金の尻尾だけが、暖かくてモフモフな防寒着だった。


「お腹が空いたなぁ……腹いっぱい食べたいなぁ……。

このキノコ食えるの?毒なの?紫色で毒々しいよう……?

食べちゃおうかな?食べるべきなのかな?」


辛いしお腹が空いたよ……。キノコの選別の仕方がよく分かんない……。

そういえば、最近、領主がまた税金増やしたらしい、

なんか12歳になったら領主に抱かれる処女税ってのが、新たなに発表されたとか、隣の家の奥さんが言ってた。

単純に、獣人と無料でスケベーしたいとか……酷過ぎて、私、お姉ちゃんなのに涙でそう……

いや、それ以前に生活が苦しいよう。

森で狩猟したら『狩猟税』とか言われて、隣の家のお兄さんが奴隷にされて、抗議した奥さんも一週間くらい性的虐待っていう拷問を受けたらしいし……ああ、もう……森の恵みさんが食えなくてお腹が空いて辛い、苦しい、腹いっぱい食べたい。

助けてぇ……家には、赤色の尻尾が可愛い弟がいるのにひどいよぉ……。

このままじゃ、家族全員で飢えて死んじゃう……。

というか、16歳なのに何で周りから8歳だと思われているんだろう私……。

これもきっと領主様が悪いんだよ……。栄養が足りないから背丈が小さいなんだよっ……!

ああ……お腹空いたなぁ……。

そういえば、木の根っこって食えるらしいし、今度はそっちにチャレンジしようかな……。

ゴボウも食えるんだし、根っこもきっと美味しいよね?

凄く硬い気がするけど、頑張って食べないと飢え死にだし……あれ?この匂いは何だろう!

……わぁ……なんか北から凄く良い匂いがする……。肉を焼いて調味料かけた感じの匂いだぁー!

ご飯を恵んで貰わなきゃ!

元気を取り戻した私は、北へと向けて走った。飢えて力が出ないと思ったのに力が漲っている。

30分ほど走ると――骨付き肉を直接、炎で炙って焼いている現場が視界に映る。

イノシシの大きな頭が転がっているから、きっとイノシシ肉だ。美味そう。

骨付きの肉の周りに、たくさん解体された肉があって、木々に血が付着して勿体無い。

血ってかなり栄養があって健康に良いのに、飲まずに捨てるなんて酷い……ミルクと一緒に飲めば、あんまり気にならないのにぃ……。



「もっふ?」


それらの肉を……背が低いし一歳児かな?

銀色の犬耳と、ピチピチで新鮮な尻尾が似合う、小さい少年が次々と肉を焼いて、豪快に頬張って食べていた。

そして、思い出す――ここは森。猪を狩ったりしたら狩猟税を課されて、酷い結末へと至る事を――


「だ、駄目だよ!

勝手に狩猟したら奴隷にされちゃうよ!

……って、そんなに小さいのに、どうやって猪を倒しているの!?

お姉ちゃんにもやり方教えて!ひょっとして凄腕の相棒さんがいるの!?

お腹が空いて辛いの!食べさせて!」


でも、そんな酷い現実より、今すぐ空腹を満たす事を優先したいと思った。

目の前に美味しそうな肉があるから、もう耐えきれない。

お腹がグゥーグゥーと鳴って、理性という鎖が吹き飛ぶ寸前。

物欲しそうに、涎を垂らして肉を見つめると――


「もっふぅ……?」


首を傾げた一歳児が、大きな大きな骨付き肉をこっちに差し出してきた。

とても一人じゃ食べられない量だよ。

というか猪一匹いれば、鍋に入れて肉汁を無駄にせずに調理すれば……二か月分の食料になるよね……。

なんて勿体ない食べ方をしているんだろう。それとも困らないくらい、肉を狩りまくっているから無駄が多いのかな?

私は有り難く受け取って見た。骨付き肉に齧りつく。

口内に、肉汁が滴り落ちて美味しい。タマネギソースかな?肉と調味料の組み合わせが絶妙で、甘くて美味しい肉の味わいがたまんないよぉ……。

私のお腹が空腹すぎて美味しすぎる。こんな肉、食べた事がないよ。

もうこれって、アレだよね?


「やったー!私、人生で初めて賄賂もらったよー!

口止め料って事だよね!ありがとうー!

お肉美味しいよー!狩猟の事は黙っておくね!」


「もっふふ!」


……1歳児に食べ物を恵んでもらっている現実は忘れとこう……。

プライドなんて要らないよ。今、必要なのは美味しい肉だよ。

将来、お嫁さんになるなら、こういう生活力があってワイルドな男の子がいいなぁ……。

飢える心配がない生活って天国だよね。

弟にも食べさせてあげたい。

そういえば、この一歳児の名前を知らないや。


「ねぇ、君はなんて名前なの?

私はモーニャンだよ!教会のウンコ僧侶のせいで貧乏になった神社の巫女さんやっているの!」


「もっふ!」


「モッフって名前なんだね!

凄く共感できて素敵だよ!私の弟の名前がモッフルだし!

今度は弟も連れてきていいかな?」


「もっふ!」


「やったー!OKってことだよねー!

もっと肉を恵んでくれたら、弟を子分にしても良いよ!

私、お姉ちゃんだから許しちゃう!」


「もっふぅ?」


それにしても、このモッフ君の衣服って良い服だなぁ。

青色のジャケットにボタンが付いていて、貴族様の洋服みたい。

私のボロボロの古着と違って新品だよ。ズボンにもシャツにも破れた箇所が一つもない。

……どうやって猪を倒したんだろう。一応、腰の鞘に小さなナイフがあるけど、これでイノシシを殺すのは無理だよね?


「おい!犬!こっちに来い!

はよ来い!どこだぁー!出てこいやー!」


差別感たっぷりの男の声が、遠くから聞こえた。

獣人をここまで見下す発言ができるのは……人間?

に、逃げなきゃっ……!

1匹見たら100匹いるっていうゴキブリみたいな生き物だから怖いよ!


「もっふるぅー!」


何故かモッフ君が勇ましかった。

逃げるどころか……声の方向へ、鞘からナイフ出して構えて走り出したんだ。

私は急いで、周りの肉を拾い集めて、モッフ君を止めようと声をかける。


「あ、駄目だよ!人間に歯向かったら酷い事になるよ!」


私の言葉を聞いても、モッフ君は止まらない。

木々の向こうへと、その小さな姿を消してしまった。

モッフ君を助けに行こうかと思ったけど、とりあえず、可能な限り肉を持って逃げる事にした。

人間って倒しても倒しても、次から次へとやってくる生物だから、逃げた方がお得だよ。

薄情かもしれないけど、家には飢えた弟とか、飢えた近所の友達とかがいるの。

だからごめんね……そんな感じに懺悔した私の狐耳が――恐ろしい悲鳴を捉えた。


「へへへへ!獣人に産まれた身を呪うんだな――ぎゃぁー!俺の左腕がぁー!」

「ば、化物ぉー!」

「ぎゃー!たすけてぇー!」

「アッー!」

「すいまぜんでしたぁぁぁぁ!全部、あ、兄が悪――アッー!」


モッフ君が向かった先に、とんでもない化け物がいるんだと分かった。

好奇心に駆られた私は――村に戻って、弟たちを連れて見に行こう、そう思ったんだ。

一人じゃ危ないし、イノシシ肉を全部回収したいし、森の恵みを放置するのは勿体ないよね。

生肉も美味しいよぉ……。この新鮮な感じがジューシー。

イノシシ肉って本当に美味いよね。



~~~~~~~~~~~~~~~


……弟と、その友達を含めた十人を集めて、私は現場へと戻ってきた。

良かった。猪肉は全部、無事だ。

獣に食い荒らされた後がない。

よし、これを全部持って帰って薫製にしよう!


「お姉ちゃん!目的を忘れているぜ!」


紅い狐耳が似合う弟に言われて、ここに来た理由を思い出した。

そうだ、モッフ君を助けに来たんだった。

……でも、軽く2時間くらい経過しているし、もう、手遅れだよね?

人間達が居た現場に向かっても、死体が転がっているだけのような……?


「うわぁー!人間の死体だぁー!」

「こ、これ領主の息子達だぜ!?」


弟の友達の悲鳴が、木々の遥か先から聞こえた。

たくさんある猪肉を素通りして、現場を確認するなんて凄いよね。

お姉ちゃん、感心しちゃう。生肉美味しいよぉ。久しぶりに腹いっぱいになって幸福を感じちゃう。

一応、気になった私は、肉を齧りながら声の方へと歩いてみた。もう安全っぽいし。

……3分ほど歩くと現場が見えてくる。

十人ほどの人間の死体が転がっていた。モッフ君が手で穴を掘って、証拠隠滅をしようと頑張っている。

モッフ君と視線があった私はニッコリと微笑んだ。そうするとモッフ君も両手を挙げて――


「もっふ!」 元気よく返事を返してきた。


「……えと人間さんの死体を埋めているの?

でも、素手だと効率悪いよね?」


「もっふふ!」


モーニャン「なら、私も手伝うよ!

領主様にばれたら連帯責任で大変だもんね!」


「もっふ!」


「お、お姉ちゃん!?

なんで、こいつの言葉が分かるんだ!?」


弟から無粋なツッコミが入った。私はそれに首を傾げて


「……なんとなく……かな?

とりあえず、皆を集めようよ。

死体を隠さないと大事件だよ?」


「いやいや待とうぜ!

人間の死体を埋めるとか、ばれたら大変だ!」


「モッフルも手伝ってね!」


「全然、人の話を聞いてねぇぇぇぇぇぇぇ!」


「だって、狩猟が上手なんだよ?

美味しい肉を狩れる一歳児って素敵だよね?イノシシの生肉美味しいよ?」


「狩猟したら奴隷にされちゃうだろ!?あと、調理して食べようぜ!」


「……でも、飢えるよりマシだよ?

さぁ!村から穴を掘る道具を持ってきてよ!」


私の命令に、モッフルの赤い狐耳が興奮してピョコピョコ動いた。

そんなモッフルの肩に、モッフ君が小さな右手を載せて同情たっぷりに――


「もっふ……」 


……たぶん、人生諦めが肝心ですよ的な事を言っているんだと思う。

モッフルも、すぐにモッフ君が何を言いたいのか、なんとなく理解しちゃったようで――


「なんでお前のやった殺人を証拠隠滅しないといけないんだよぉぉぉ!

ふざけんなぁぁぁぁぁ!一歳児から殺人やって道を踏み外すキチガイの尻拭いとか、ふざけんなぁぁぁぁ!

……ぎゃぁぁぁぁぁ!」


「もっふー!」


あ、モッフ君がモッフルを殴った。

すぐに、弟の友達な9人の不良達も殴られた。


「ぎゃぁー!」「助けてぇー!」「お母さんー!」「なんで殴るんだァー!?」


私も殴られる事を覚悟したけど、大きな尻尾をモフモフされるだけで済んだ。

この後の展開は……すぐにモッフル達が、モッフ君に従って穴を掘って、死体を地面の下に埋めたのは語る必要もないよね……。

でも、モッフ君は優しいんだよ。

弟たちが仕事を終えた途端に、カカスの実をくれたんだ。

結構、見つけるのが大変で珍しい果物だから、皆、大喜び。

湧き水にカカスの実をぶち込んで、真っ赤に染めて甘いジュースをたらふく飲んだの。

しかも、しかも、モッフ君はエロ領主様の息子様だったって素敵なオチ!

おかげで狩猟税を気にせずに、狩りをして肉を取ってきてくれて、美味しい木の実を食べ放題で最高だったんだよ!

巫女服も作ってくれたし、下着も大量に量産してくれたの!

おかげで、暖かくて快適!

ワァン様がいれば、絶対、飢えないよ!

あと、人間の死体はそうだなぁ……食事代代わりに、五百人くらい埋めたかなぁ……?

ほら腐敗役人とか、人間のならず者とか、奴隷商人とか、前領主の私兵集団とか、この近くで最近、見なくなったでしょ?

皆、皆、地面に埋まっているんだよ。



ーーーーーーーーーー


っていう事があったの。八百屋のお兄さん!


「ひ、ひぃっ……!

こ、これは新しい領主様の機密っ……!?

きゃ、キャベツを差し出しますから!許してくださぁいー!

どうか!命だけはお助けをー!」


やったー!キャベツが無料で手に入ったよー!

……でも、なんで驚くんだろう?

ワァン様が領主になったから、この事はばらしても良いんだよね?

もう、二度と飢えなくても良いし、毎日、ご飯をたくさん食えるし、私って本当に幸せ者だなぁ……。

モッフルもその友達も、皆、良い物食えて逞しく成長したし、お姉ちゃんは感動で涙が出そうだよぉ……。

今日は、どんな料理にしようかなぁ……?

久しぶりに生肉を齧るのはどうだろ?


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