14話 幕間 謎の食文化


ぶろぐvar

http://suliruku.blogspot.jp/2016/10/14_16.html


朝が来た。

お腹が空いた僕の目の前に、冷めたスープと、調理され後に放置されすぎて冷え切った野菜が並んでいる。

厨房が遠いせいで、料理が冷えているのは理解できるが……せめて、料理を温めるための暖炉くらい設置しろよと思った。

中途半端に生活の工夫が足りない豪邸だ。

なんで朝から冷めた料理を食わないとダメなんだろう。叔父はこんな暮らしを得るために、両親を殺したのか……悲しいなぁ……。

獣娘でハーレム出来るかもしれないが、食生活が貧しいのは人生を損しているとしか言いようがない。


「坊ちゃま、朝食でございます」 


白髪目立つ人間の老人さんが言った。執事のセバスチャンだ。

全く面識はないが、暗殺された父親の下で働いてたらしい。

高級感溢れるスーツを着ていて、それは明らかに――覚醒前の僕が作ってプレゼントした代物のように思えた。

プレゼントを贈っちゃうくらい、僕から好かれているという事は……獣人を差別しない良いお爺さんなのだろう。


『執事の給料で、獣娘を五人も嫁にして、愛人もたくさん作って、獣人の総人口を増やした、凄い絶倫人間さんですお!』

『この執事の遺伝子を解析すれば、きっと少子化問題を解決できますお!』


……なんか虚しい……。

その方法で少子化を解決したら、4分の1の確率で、人間が生まれてる家庭がうじゃうじゃ増えると思う。

とりあえず……今は目の前の食文化にツッコミを入れるとするか。


「……なんで野菜を入れる器が……パンなんだ……?

陶器や……木の皿とかないのか?」


「食べ物は、神様が創造なされた恵みでございます。

つまり、素手で食べる事が正しい行いでございます、ぼっちゃま」


「……で?このパンに使う麦は誰が作ったんだ?その神様って奴なのか?」


「獣人の農夫でございます。実はワシの息子だったりします」


「いや、その時点で神の恵みじゃないだろ……」


出来れば、こんな不便な食文化に染まりたくない。

器がパンとか、無駄があるにも程があるだろ……。

セバスチャンは、僕のそんな思いを悟ったのか、言い聞かせるように言葉を続けた。


「ぼっちゃま、教会のお偉い僧侶さんがこう言っております。

神の恵みに触れていいのは、神に創造された人間だけであり、食器を使うのが言語道断。

食器使う奴は異端審問して殺しても良いと……ただしスープだけは仕方ないから器に入れてOK」


なんて面倒くさい設定を作ったんだ……その僧侶。

おかげで食文化が酷い事になっているぞ。

あれ?テーブルに、スプーンや箸の類もない?これじゃスープの中にある具とかどう食べるんだ?

恐ろしいほどに嫌な予感がするぞ……これはぁ……!


「ま、まさか……スープの中に手を突っ込んで食べるのか?」


「そうでございます、ぼっちゃま。

テーブルの端にある水を入れた器は、汚れた手を洗うために用意されているのです」


「これは酷いな……不効率すぎる……」


「慣れてください坊ちゃま。

他の貴族との付き合いで、これは必要な事なのです」


毎回、食事する度にストレスを溜め込む事になりそうだ……。

少し考えてもらいたい。

今は冷えた飯だから素手で食えるが――これが出来たてホヤホヤの美味しいご飯だとしたら、どうなるだろうか?

熱いご飯を素手で掴んだら火傷する恐れがある。

美味しい食生活をするために、お箸やスプーンを使う文化を作らないと僕の人生は酷い事になりそうだ。

だから、僕は椅子から格好よく立ち上がって――


「よろしい、ならば……僕も屁理屈を使わせてもらおう!その僧侶のようにな!」


家を飛び出す。後ろからセバスチャンが慌てて追いかけてきた。


「ぼっちゃまー!

朝ごはんを食べないと駄目ですぞー!

朝食は元気の源ですぞー!ぼっちゃまー!」


「見せてやろう!僕が食文化の神だという事を!」


『朝からハイテンションだお』

『ふむ……何をやるつもりなのだろうか……』


家を出て、すぐに目的の物は見つかった。

庭に自生している木へと近寄って、瞬時に、魔力を纏った手で木の根元を切断。

木の大重量が、地面に落ちたら仕事をスタートだ!

まず、木を10cmサイズに丸く切断しまくって、木製の器を量産する!

内側を器用にくり抜いて、食べ物を入れる皿の完成だ!


【犬さんは細工スキルを取得した】


さらに、ずっと僕のターン!

器の次は……お箸を量産!細長い棒をひたすら木を切断して作りまくる!

100本、200本、300本!工夫する必要がないから、圧倒的な速度で量産できる!

つまり、箸が山のように、地面に積まれていく。

この異常すぎる光景を見て、セバスは驚愕して瞬きすら忘れたようだ。


「な、なんとっー!?私は魔法を見ているのか!?

ぼっちゃまがー!ぼっちゃまーがぁー!?」


「今、僕の身に神が憑依している!

だから、素手で木を切断できるんだ!

つまり、今の僕は神だ!」


「な、なんという恐れ多い発言っ……!

教会の人が聞いていたら、火あぶりにされますぞ!ぼっちゃまー!?」


細工スキルのレベルアップも兼ねた僕の職人芸は終わらない!

木でスプーン、3本鉤のフォークも作り上げ、歯の健康を保つために必須の爪楊枝も量産!

あとはそうだ、うん、器をもっと量産しよう。

獣人の皆に配ったり売ったりすれば、この便利さが分かるはずだ!


「おらおらおらおらおらおら!」


「た、大量の食器がどんどんできている!?

ま、まさか!?ボッチャマに神様が本当に憑依しているのか!」


「見ろ!神が作りもうた器と箸だ!

つまり!これなら食事の際に使っても良いという事になる!」


宗教的には、これで全ての問題を解決だ。完璧すぎる説明だ。

どうせ、モフモフ神とやらを復活させるために、宗教団体を作る予定だし、今から頑張っても問題はないはずだ!

……

……

……

……ふぅ、一つの木から、数えてないが、恐らく数百個の器を作れた。

良い運動をしたよ。僕は異世界の食文化を発展させるために、この素晴らしいモフモフな世界に転生したのかもしれない。

それにしても、セバスチャンの反応がないな。

後ろを振り返ってみると――白目を向いて立っている執事さんが居たじゃないですかー。


「……あれ?」


可笑しいな、気絶したら倒れるはずだ。

なぜセバスチャンは立ったまま白目を向いているのだろうか?

いや、よく見たら……呼吸してないな。寝ている時の老人って、めっちゃ煩い寝息を立てるはずなのに、音がしないぞ?


『立ったまま死んでますぞ……』

『年寄りには衝撃が強すぎたんだ……』

『人間さんって身体が脆いお……』


そうか、死んだのか。

じゃ、明日から執事の仕事はホワイトにプレゼントしよう。

可愛い狼娘とか素敵だな、うん。変態発言が残念だが、あれはあれで良い娘だ。


『らめぇー!獣人の少子化を解決できる人材なんですよー!』

『助けるべきだお!』


仕方ない。獣人の未来のために人間を救おう。

僕は握りこぶしを作り、軽めにセバスチャンの胸を殴った。

その衝撃波が停止した心臓に伝わり、すぐにドクンドクンッと活動を再開し、全身に血液が流れた。

セバスチャンの白目が元の正常な青い瞳へと戻る。


「……今、死に分かれた、昔の妻に、会えました。

なるほど、確かに坊ちゃまは神なのかもしれない……」


『おいこら、獣娘を嫁にする前に、人間も嫁にしてたんかい!

獣娘の嫁と愛人は全員生きているだろ!?』

『凄いハーレム男だお……尊敬するお……』


セバスチャンが改心して、僕に右手を差し出してくる。

どうやら、僕を神だと信じてくれたようだ……なにそれ怖い。

簡単に神様だと信じるなんて、純粋すぎる男だな……。

何故だか好感を持てるぞ、セバスチャンとやら。


「……じゃ、今日から食器使おうな」


「分かりました坊ちゃま」


『ひでぇ展開だ』

『自分の事を神だと僭称する奴なんて、そうは居ないぞ……大抵、預言者ポジションを維持するだろ……キリストさんを見習えよ……』


セバスチャンは、地面に積まれた箸とスプーンを手にとった。だが、どう使えば良いのか分からず混乱しているようだ。

一分ほどすると僕に聞いてくる。


「ぼっちゃま……これらの道具はどう使えばよろしいので?

これは食器の類なのでしょうか?」


「慣れる前に寿命が来るだろうから、セバスチャンは素手で食事してもいい」


「わかりました、坊ちゃま」


「今日からパンを器にするのではなく、木を器にして食事しよう。

神様が憑依した僕が言うんだ。これは絶対に正しい事だよ。

これで無駄が減るはずだ。僕の言う事に間違いはない。

神の言葉だからな」


『いや、犬さん、皿代わりに使っているパンは、使用人が食べるパンだから、必要経費ですぞ』

『残った食べ物は、モーニャンの朝食になるのだが……?』


明日から、普通にパンを焼いて、それを食べれば良いじゃない。

モーニャンだって、皿代わりに使われたパンを食べるより、新鮮なパンを喜んで食べるはずだ。

……ついでに野菜もプレゼントしよう。

パンばっかり偏食したら栄養が偏るし、モーニャンには何時までも健康的な狐娘で居て欲しい……。

あとの疑問はそうだなぁ……。


「しかし……なんで素手で食べる文化なんだろうな。

道具使った方が便利なのに不思議だ……」


「昔、食事中にナイフで無双して、百人の客を殺した貴族が居たせいだと聞いた事があるような……」


そんな一部の例外のために、変なルール作るなよ……。

スープやシチューの具を食べるために、素手で熱い液体に触れないといけない時点で、健康に悪すぎるぞ……この食文化……

いや、冷めたスープを飲む文化だから、これで良いのだろうか……?

本当に勿体無い事をしているぞ、この国の食文化……。






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細工スキル。


汎用性に富んだ素晴らしいスキルだお。

縞々パンティーだって、巫女服だって、このスキルの恩恵で作れるお。

でも、下手に凄いものを作ると、人間の職人にパクられて大変な事になるから、作る物は選んだ方がいいお……



今まで取得した技能スキルまとめ + ゴミスキル

http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Game_fuu_sukiru/Ginou.html

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【内政チート】アメリカ「完全な補給体制を作って輸送チートする!」



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