逆襲の相沢沙呼『medium[メディウム]霊媒探偵 城塚翡翠』相沢沙呼 著
『medium[メディウム]霊媒探偵 城塚翡翠』プレビュー
「小説は作者の分身である」こんな言葉をたまに聞くときがあります。それを体現している小説、ミステリは確かにあるということが、今回紹介する作品を読めば分かります。
『medium[メディウム]
~あらすじ~
民間人でありながら警察に協力し、これまで数々の難事件を解決に導いてきた推理作家の
いかがですか。あらすじを読んで、「ああー、よくあるやつね」と頷いたそこのあなた。あなたこそ、本作『medium[メディウム]霊媒探偵 城塚翡翠』(長いので以下『メディウム』と省略します)を読むべき読者なのです。「こういうの好き」という方にも当然お勧めできます。
さて、この『メディウム』、いきなり読んでも十分楽しめるのですが、本作を骨の髄まで味わい尽くしたかったら、作者である相沢沙呼の他の著作を先に読んでおくことをお勧めします。いえ、お勧めというよりも、ぜひそうしていただきたい。なぜならこの感覚は、『メディウム』を先に読んでから他の相沢作品を読むという順番では、決して味わうことの出来ないものだからです。不可逆の楽しみなのです。逆に、これまで相沢沙呼作品を、全てでもなくてよいから数作は読み終えている方がいらしたら、これはもう絶対に読むべきです。今まで上梓されてきた相沢沙呼作品は、全てこの『メディウム』のための大いなりすぎる布石だったと言っても過言ではないかと思います。私は章題にもあるように、本作に対して「逆襲の相沢沙呼」という副題をつけたいと思っているほどです。「BEYOND THE TIME(メビウスの
「本格ミステリが
ここまで読んで、「逆襲」って、いったい誰に対しての「逆襲」なの? という疑問を持った方もいらっしゃることと思います。相沢沙呼が逆襲する対象、それは腐りきった地球連邦政府ではもちろんなく、我々ミステリ読者です。「どうして読者が逆襲されなきゃいけないんだ?」という疑問は、本作を最後まで読めば分かります。
宇宙世紀の軍人たちは、「もっと火力を!」「もっと高出力を!」とモビルスーツに恐竜的巨大進化を求め続け、戦闘に特化した強化人間(人工ニュータイプ)を作るという人体改造に手を染めるにまで至ってしまいます。そして第二次ネオジオン抗争が起きた宇宙世紀0093年の頃には、サイコミュなどの特殊兵器を使用できる、ひと握りの強化人間やニュータイプの存在が戦局を左右するようになります。結果、その他大勢である名もなき一般兵士たちは、強化人間やニュータイプが駆る専用モビルスーツ(モビルアーマー)相手には、普通にやりあっては対等に戦うことすらできなくなってしまうのです。「戦いは数だよ」の理論が通用しなくなってしまっているのです。
我々読者はこれまで、ミステリ小説に対して「もっと驚かせろ!」「もっと騙してくれ!」と散々煽りを続けてきました。そしてミステリ作家たちはその声に応えて、「驚愕の!」「予想を裏切る!」「予測不可能!」といった威勢のいい惹句を帯に踊らせるミステリを次々と市場に投入し、その流れは未だ止まる気配を見せません。ですが、それら「驚愕の」ミステリがもてはやされ続ける中においても、これまでのような「ラスト一行で驚愕!」も「大どんでん返し!」もない地味でオーソドックスなミステリや、牧歌的な「日常の謎」に類するミステリも市場に投入され続けています。これには、そういったジャンルのミステリの需要も変わらずあることは当然ですが、「驚愕のミステリ」がそう量産できるものではないという事情もゼロではないでしょう。そして、相沢沙呼は、これまでどちらかといえば後者、「驚愕」に類する惹句の付かないミステリを主戦場にしてきた作家です。そんな彼(男性です。念のため)が初めて放つ「驚愕のミステリ」。それが本作『メディウム』なのです。
今まで相沢沙呼が書いてきたミステリが、ジェガンやギラ・ドーガのような汎用性の高い量産機だったとすれば、『メディウム』は紛れもなく大火力と超兵器を備えたニュータイプ(強化人間)専用モビルアーマーです。
最後に、本作は本当に特殊な構成のミステリで、一切のネタバレなしで読むことを大前提に書かれています。ですので、読了していない方は、間違っても「どんなこと書いてあるんやろ」と興味本位で「ネタバレありレビュー」を「ポチっとな」してしまわないよう、今回は特に強くお願い申し上げます。
では、『メディウム』を読み終え、その壮絶なファンネル攻撃を受けて絶望を味わったら、ネタバレありレビューでまたお会いしましょう。
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