「ミステリマトリックス」について

 本エッセイで採用している「ミステリマトリックス」について説明します。

 これは、X(横)軸の左に「渋い」右に「インパクト」、Y(縦)軸の上に「知的」下に「バカ」を5段階に配した相関図パネルによって、その作品が本格ミステリにおいてどのようなステータスを要するのかを表すという、未だかつて誰も目にしたことのない画期的な評価システムです。X、Y軸によって分けられた各四つのエリアは、右上から時計回りに「インパク知」「バカパク」「バカシブ」「シブ知」と名付けられ、それぞれのエリア名のあとに評価数値をX軸、Y軸の順に表記します。例えば、「インパクト:4 バカ:2」の評価の場合、「バカパクの4・2」と表記します。


 お断りしておきますと、これらの数値の高低は、作品に優劣をつけているということでは決してありません。作品の持つ特性、性格を表しているに過ぎません。各項目の大まかな評価基準は以下の通りです。


「渋い」「インパクト」

 X軸に配されるこの項目は、主に作風についての評価に使用されます。もの凄く乱暴に言えば、実在する事件や社会問題をテーマに扱った、いわゆる「社会派ミステリ」は「渋い」に。絶海の孤島に閉じ込められた登場人物たちが順に殺されていくような「クローズド・サークル」は「インパクト」に分類される、とお考えいただければ指針になるでしょうか。


「知的」「バカ」

 Y軸に配されるこの項目は、主に作中に使われたトリックに対しての評価に使用されます。ミステリの中にはトリックを用いずに書かれたものもありますが、そういった作品は本エッセイではあまり取り扱わないと思いますので。

 ここで、ミステリにあまり明るくない方の中には、「トリックって、全部〈知的〉なんじゃないの?」という疑問を持たれた方もいらっしゃるかと思います。まったくそのとおりで、ミステリのトリックというものは、作者が知恵を振り絞って考え出した、かけがえのないものばかりです。ですが、悲しいかな、そうして生み出されたトリックの中には、「バカ」と評するしかないという珍品もたまに存在します。我々ミステリファンは、そういった「バカトリック」が登場するミステリのことを、愛をこめて「バカミス」と呼んだりもします。

「バカミス」について語ろうとすると、エッセイ一章分くらいは優に紙幅を費やしてしまいますので、このくらいでやめておきますが、とにかく世の中には「バカ」な「ミステリ」というものが存在します。そういった「バカ」方面に針の振れたミステリ(トリック)成分が高いと判断した場合、Y軸は「バカ」方向に針を振る結果となります。

 ちょっと分かりやすく例を挙げてみますと、例えば、目撃者が体感、もしくは視認する時間を錯誤させて、被害者の死亡時刻に犯人が完璧なアリバイを構築した、というようなアリバイトリックは「知的」に属されるでしょう。対して、例えば、完全な密室に鋼鉄製の鎧を着せた被害者を取り残し、壁の向こうから超強力な磁石を使って壁に叩きつけて圧死させた、というようなトリックがあったら、これは間違いなく「バカ」です。同じように頭を使って考え出されたトリックですが、「知的」と「バカ」の違い、何となくニュアンスを掴んでいただけたでしょうか?


 申し上げるまでもなく、これらの区分、数値は筆者の極めて個人的な主観によるものです。「なんでこの作品のマトリックス配置がこうなんだ!」という反論をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれませんが、あらかじめご了承ください。


 最後に。「ミステリマトリックス」のページにおいては、基本的にネタバレは書きませんが、未読作品に対して無用の先入観を持ってしまう恐れがあるため、なるべく当該作品の読後に閲覧していただくのが望ましいかと思います。



(※「ミステリマトリックス」の作成については、「ウィキペディア」内の「ボキャブラ天国」の項目を参考とさせていただきました)

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