フーム、においますね『おしりたんてい むらさきふじんのあんごうじけん』トロル さく・え

『おしりたんてい むらさきふじんのあんごうじけん』プレビュー

 本エッセイは、「読みやすい」という観点を命題として本格ミステリを紹介していますが、その「読みやすい」ということについては、今回紹介する作品の前に出るものはないでしょう。ということで、今回の作品は、こちら。


『おしりたんてい むらさきふじんのあんごうじけん』トロル さく・え


 なぜタイトルがすべて平仮名なのか。それは、作者名の次に来ている「かな」が、漢字表記すると「作・絵」となるということからお分かりいただけます。本作はいわゆる「絵本」なのです。ただ、絵本とはいっても、文章の占める割合が比較的多い、全編イラスト付きの小説、といっていい体裁をとっています。おそらく小学校低学年から中学年くらいの年齢層に向けて書かれたものなのでしょう。ですが、「絵本」と侮るなかれ。この「おしりたんていシリーズ」は、本格ミステリ色のかなり強いシリーズなのです。本シリーズは五作目まで出ており(2107年12月現在)、今回ご紹介するのはその第一作目です。本作は表題作の他に、「おやつどろぼうは だれだ!?」も含めた二編を収録しています。表題作のあらすじをご紹介しましょう。


~あらすじ~

 おしりたんていの構える事務所に、オーイモのうえん(農園)の『べにいもこ』と名乗る依頼人がやってきた。依頼内容は、「自宅金庫から発見された暗号を解いて欲しい」というものだった。依頼を快諾したおしりたんていは、助手のブラウンとともに農園に向かったのだが……。


 一編が非常に短いので、あらすじの紹介も簡潔なものとなってしまいます。

 本シリーズは、子供向けの「探偵もの」によくある、パズルやクイズ的謎解きに特化した内容ではありません。作中には周到に伏線が張られ、最後におしりたんていが積み上げられた手掛かりをもとに、実に論理的な推理を披露するという、超科学やオカルト的超能力といった要素を一切廃した(おしりたんていの「切り札」だけが現実離れしていますが、これくらいは十分許容範囲でしょう)、まさに本格ミステリの構造そのものといってよい物語となっています。作中には、間違い探しや迷路といった、子供が喜ぶ要素に必ずページが割かれており、飽きさせないよう工夫されています。

 主人公の「おしりたんてい」は、顔が人間の臀部そのものになっているという、非常にエキセントリックなキャラクターなのですが、それは見た目だけのこと。丁寧な物腰と口調。鋭い観察力と卓越した推理力。まさに名探偵と呼ぶに相応しい人物として造形されています。慇懃な態度や紅茶を愛するところなどは、ドラマ『相棒あいぼう』の杉下右京すぎしたうきょうを想起させます。

 本エッセイをお読みいただいている方々には、恐らく目にする機会のあまりないタイプの作品かもしれませんが、もし、機会があり、一度手に取ってみて、読んでいただけたならば、また「ネタバレありレビュー」でお会いしましょう。

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