キングとゲーマー


 アーカディアがブラックスカルを撃破し、ヒーロー部が設立されてから少しの時間が経過した後――


 天照学園高等部の中で複数存在する学舎、金城(かねしろ)学園。

 そこに一人の男がいた。


 王渡 志輝(おうど しき)。


 美女だけでなく美男揃いの天照学園でおいても彼もまた美男子と言える程のルックスを兼ね備えていた。


 背も高く、紫味掛かった髪の毛、大人びた顔立ち。

 学校の成績もいいし運動も出来る。


 ここまで書けば完璧超人に見えるが、彼はある種の欠点を抱えていた。


『いや~最近雑魚ばかりで体が鈍る鈍る』


 放課後の体育館裏。


 そこで白銀の騎士の様な格好に変身。

 額に金色のV字アンテナ。

 ツインアイのフルフェイスヘルム。

 赤いマントに銀色の剣に盾。

 腰にはベルトを巻いており、バックルには騎士の模様が描かれた黄金のメダルが刻まれている。


 そして、今日も「プレイヤー」を狩っていた。

 倒れ伏している相手はヒーロー然とした姿だがやっている事はチンピラ同然だったので粛正したのだ。


 彼は金城学園の実質的な支配者であり、生徒達に意図的に変身アイテムをばらまき、そして相手を見繕って倒して回っている凶人である。


 プレイヤーと呼ばれるのはヒーロー役も怪人役も引っくるめた変身して戦う力を持った彼なりの区別の仕方である。


 元々は知り合いの「人生は命懸けのゲーム」と断じる奴の言だがそれを採用させて貰った。


 早い話が自分が楽しむためのマッチポンプであり、一応は「データー収集」と銘打っているが殆ど自分が楽しむためにやっている行為だ。


 この行為はブラックスカルが跳梁跋扈していた時代からやっている。


 最近はアイテムも工夫してメダルだけでなく、カード式などの多種多様な形式の変身アイテムをばらまくだけでなく、「殺し合いを行えるように」バトルフィールド発生装置なども配っていた。


 正直、死体が出てもぶっ殺しても別にいいやと思っている。


 そう思うのは何故か?


 王渡 志輝にはある人生概念がある。

   

「人を蹴落とし蹴落とされてナンボ」


「学校の成績だけが人生ではない」


「金をずる賢く稼ぐ頭のいいだけの奴が勝ち組になるのは間違っている」


「大して頭も良くない上に器の小さい奴が政治家で人の人生を左右するのは許せない」


 他にも理由は様々だ。

 両親は大企業の社長で父親が酒を片手に子供に「アイツを気に入らないから左遷した」だとか母親が「正直地位がなければ結婚しなかった」とかほざいたのも原因かもしれない。


 世の中蹴落とし蹴落とされの無慈悲な世界。

 真面目な奴が馬鹿を見る。

 

 彼がそう思うに至るのは必然だったかもしれない。


 だから人の蹴落とし方とか色々と学んだ。

 やられたら徹底的にやり返す。 

 それが人生なのだから悪い事ではない。

 

 そうして行くウチに世の中には法律以外に、ある程度目に見えないルール――暗黙了解と言う奴がある事を学び、その範囲内で自分の人生哲学を実行し、時には法律や暗黙了解をギャンブルでイカサマを行う感覚で逸脱した事もあった。

 

 段々とそれを楽しく感じていた。


 だけど何か物足りない。


 そんな時に海堂達、OーTEC社から誘いが来た。海堂との出会いなどの詳しい経緯は省くがOーTEC社はいわゆる日本政府のフロント企業であり、天照学園内部でもかなりの権限を持っているらしい。


 そして何より今自分が持っている力と当時天照学園で起きていた騒動の舞台裏を知る事が出来た。


 とにかくそれらに関して恐怖の感情は無かった。

 それよりもデザイアメダルやヒーロー達、力を持った人間達のタガが外れる所を見るのが楽しかった。

 クラスカースト、社会の地位を暴力で覆し、学力やスポーツで鍛えた身体能力、今迄に築いた富や名声など無意味と化す超刺激的な世紀末的な世界。

 自分が求めていた世界がそれだった。


 ブラックスカルの意志を継ぐかのように変身アイテムをばらまいているのはあの当時――ブラックスカルが学園島内で幅を利かせていたあの時代こそが自分の理想社会だからだ。


 ある程度の富と地位さえある自分さえもが突然死ぬかもしれない世界。

 自分の命を、人生を賭け金として飛び込む事で暴れ回れる最高の舞台。

 

 他のOーTEC社に属する同格の面々はどう思っているかはしれないがともかく、人が日常的に真剣勝負で殺し殺されるかもしれないあの絶妙なバランスの状況を再び再現したかった。

 

 ブラックスカルの最終計画の時は最高過ぎて気が狂いそうでそのまま昇天しそうになった。


 確かに学園島は、政府は救われた。

 しかしブラックスカルの事件の代償は大きく、人生勝ち組である筈の多くの人間達が負け組へと転落していった。

 その事実にとても興奮した。

 

 あの興奮や熱気を再現したい。

 だからこそOーTEC社に手を貸し、デスゲームを演出しているのだ。


(やっぱり見ている方が楽しいかな?)


 「ふう」とボロボロになって倒れ伏した生徒を眺めて志輝はそう考える。 

 時折こうして参加しているが学園中の至る所に設置したカメラの映像を見て楽しむのがやはりいいかなと思った。

 剥き出しの殺意をぶつけた殺し合い。

 配ったアイテムに初期型のデザイアメダルの様に攻撃的な性格になるシステムを内蔵したのも功を奏し、皆本性を剥き出しにして牙を向いている。


 変身アイテムは意図的にクラスカーストの最下位に渡して行った。

 バランス調整を図るために先程始末したクラスカースト上位の連中にも第三者を通して配ったりもするが。

 その甲斐あってあちこちで想定通りに全力の殺し合いが始まっている。


 いじめられっ子がいじめっ子に。

 生徒が教師や親に。

 不良が国家権力に。

 

 そして自分にも襲い掛かる。


 正に理想の世界だ。


「相変わらず悪趣味なことやってるんだね」


『おやおや、君かね?』


 問坂 ユウギ(といさか ゆうぎ)。

 その筋では有名な天才プロゲーマーだ。

 中性的な顔立ちで黒髪のポニーテール、背は中背で体は華奢。

 服装もGamerと銘打たれた帽子にベスト、シャツに短パン、スニーカーにリュックサックと言う出で立ちだ。

 

『なにしに来たんだい?』


「決まってるだろ。勝負しに来た。雑魚相手ばっかだと飽きるだろ?」


『いいよ。君なら大歓迎さ』


 そう言って彼はバックルベルトを巻いてそこに携帯ゲーム機を装着する。

 一体何処の誰が開発したかは分からないが、かなり独創的で無駄がある趣味的な変身システムだ。

 携帯ゲーム機の画面にGAME STARTと言う文字が表示され、彼は変身する。

 

「今はレベル50――最初の時とは違う」


 様々なフォームにチェンジ――ゲームのジャンルに模した姿になる。

 今は青い戦国武将然としたフルフェイスのヘルメットのヒーローの姿になっていて手には刀を持っていた。セットしているゲームのジャンルは無双ゲームだろうか。

 


 問坂 ユウギが王渡 志輝に挑戦する理由はただ一つ。

 自分より上の奴は許さないから。

 その為なら命懸けのゲームで合っても挑戦する、志輝と同じ狂人なのだ。

 

 レベル50もあると言う事はそれだけ戦闘経験を積んでいる。


 つまりそのレベルになるまで敵を探してぶちのめして回り、出会う度にどんどん強くなってるのだこいつは。


 そんな彼を志輝は気に入っていた――



 まだブラックスカルが学園島内で幅を利かせていた時期。

 志輝とユウギは廃工場を舞台にして本気で殺し合った事があった。

 キッカケはユウギは志輝の戦いを目撃して挑んだのだ。


 激戦だったが志輝は戦いは楽しかった。


 何より嬉しかったのは自分はGMであると同時に単なるプレイヤーの一人であると言う事が認識出来たからだ。


 そして戦いは終わった。


 志輝の勝利でユウキは生身の状態で倒れ伏している。

 だが逃げようともせず、命乞いもせずに相手を見詰めている。


『どうして逃げない?』


「ゲームオーバーだからさ」


『ゲームオーバー?』


「人生なんてのはゲーセンのゲームと一緒だよ。ただ金を支払うか命を支払うかの違いでしかない。命は一度きり。それに僕はゲーマーだ。そのルールに従うまでだ」


 冗談でも何でもなく強い口調でそう言い切った。

 何て面白い奴だと思った。

 自分も狂っている自覚はあったがこいつも同じぐらい狂っている――志輝はそう思った。


『アハハハハハハハ! じゃあ命を頂くとしよう!』


 そして剣を躊躇いなく振り落とし――


「・・・・・・殺さないの?」


 眼前で止めた。

 相手は驚いた様子も見せない。

 さも当然の様に死を受け容れようとしていた。

 こいつマジだったらしい。

 マジで有言実行しようとしている。


 永遠に相容れる事は無いだろうがこのユウギと言う少年を気に入ってしまった。

 何よりも自分を殺せる資格を持つ少年だと思ったからだ。


『私はゲームマスターだ。その権限でコンテニューの機会を君に与えよう。だが次は殺そう』


「侮辱する気?」


『さてね』


 そうして彼は去って行った。



 それから何度も何度も決着つかず展開が続いた。

 同士討ち。

 タイムアップ。

 志輝の気分で切り上げた事がある。


 だが勝負の誘いを断った事は無い。

 例え体調に何らかの不安を抱いていても勝負を受け続けただろう。

 それが人生と言う物なのだから。

  

 体育館裏での戦いは騒ぎが大きくなり過ぎてお互い引く事になった。

 あの不良少年は巻き込まれて死んだが正直どうでもいい話だ。

 

 武器を持って戦うと言う事は死を覚悟すると言う事なのだ。


 だから死んで当然である。

 

『上から止められているけどヒーロー部に挨拶しようかな? それとも悪の組織部なんて言う汚れ仕事している連中を相手してみようかな? それとも他のヒーローに手を出すか・・・・・・ほんとワクワクするよこの学園は』 

   

 だが最高の遊び相手が宇宙から来訪する事になるとはこの時志輝さえも予想だにしなかった。


 

 END

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