宮園 恵理・倉崎 稜サーガ



 日本から少し離れた無人島。


 そこで偶然発見された遺跡があった。


「まるで遺跡と言うよりこれは宇宙船の内部だぞ・・・・・・」


「ええ、そうね・・・・・・」  


 調査隊はそう評した。

 まるでSF映画に出て来る宇宙船の内部その物だったのだ。

 しかも施設機能が生きている。

 恐怖心があったが好奇心が勝り、調査隊は奥へ奥へと進んでいった。


 そして目にした物は――


「人間・・・・・・なのか・・・・・・」


 調査隊である倉崎家の人間はそれを見つけて驚愕した。

 広いホールの中で紅の瞳をした黒髪の美少年がまるでカプセルの中で保存されていたのである。


『遂にここに辿り着いたか・・・・・・』


「だ、誰だ!?」


 光の発光現象と共に白い仮面の戦士が現れた。

 白いスーツ、マントを靡かせ、黄金の鎧を身に纏い、長くて白いバトンを持っている。 

 純白の羽根飾りが付いた白銀のヘルメットを被っており、宝玉が埋め込まれたバックルベルトを巻いている。

 両手にグローブ、足にブーツを付けてまるで特撮物の戦隊ヒーローの様な外観をしていた。


 ふざけた格好をしていたが何処か神々しいオーラーを放っている。


『私の名はマスタージャスティス。地球の平和を守るために戦っている神だ――』


「か、神?」


『その前にこの施設の事を紹介しておこう』  


 そうしてマスタージャスティスは倉崎家率いる調査隊にある真実を話した――


 その内容は真実だとすれば考古学の学会が何度も覆る内容だった。


 倉崎家と言う高名な考古学者が存在した。

 天村財閥と並ぶ規模を持つ、宮園財閥の支援を受け、彼達は世紀の大発見を成し遂げて宮園財閥に多大な利益をもたらした。

 その功績は第三者に悪用される事を阻止する為に、一部の人間を除いて秘匿とされた――



 宮園 恵理が彼に出会ったのは幼い頃だ。


 とても可愛らしい、童話に出て来るお姫様の様な女の子だと最初は思った。

 実は男の子だと知って大層驚いたが。

 その彼の名は倉崎 稜。


 宮園家の中でも特に関係の深い人間しか呼ばれないホームパーティーで出会った。

 大きな屋敷の中で同い年の女の子達や男の子達と混じって倉崎 稜は独特な雰囲気を纏っていた。

 大人びていたと言うか何というか、一人だけまるで別の世界にいるようだった。


 そして恵理の王子様になる事件が起きたのもこの頃だった。


 暴漢に誘拐されそうになった所、まだ幼い体ながら彼は光の翼と剣を発生させ、空中に浮き、暴漢から救い出してくれた。


「貴方は何者なの?」


 彼はこう答えてくれた。


「自分でも分からない。でもお父さんとお母さんは人間だと言ってくれました」


 と、何処か不安げな表情で答えた。

 それから恵理は稜の虜になった。

 彼の事をもっと知りたいと思った。


 こうして二人きりで過ごす事が多くなった。


 常に稜の手を恵理が引っ張った。


 危ない時は何時も稜が助けてくれた。


 時にはケンカになったが、その時は稜の方が大人の対応をしたのを覚えている。



 そして月日は流れ――倉崎家の両親が事故で無くなり、一人ぼっちになり、そのショックで稜はまるでお人形さんの様になった。   



 恵理は助けたかった。


 稜を救い出したかった。


 だから稜を無理言って引き取った。


 大人が何と言おうが知った事では無かった。


 ただただ放っておけなかった。


 屋敷の応接室で両親と話した。


「いいでしょう。許可します。ですが条件があります」


「条件?」


 恵理の母親は決して恋仲になってはいけないと言う条件の元に稜を手元に置く事を許した。


「分かりました・・・・・・」


 宮園家として、お金持ちの家の子として産まれた定めのような物だ。

 天村財閥と並ぶ宮園財閥ですらもその呪縛からは逃れられなかったようだ。


 恵理は立ち去った後、母親は思った。


「まだ小学生のあんな可愛らしい子が私に真っ向から意見するようになるなんて・・・・・・私の血を引いているのね、あの子も」


 とぼやいた。


 恋は良くも悪くも女の子を変える物だ。

 あえて悪役を演じてああ言ったが、もしその気持ちが抑えきれなくなったならばこの宮園財閥すら相手にするだろう。


 そんな予感を感じていた。


 ふとスマフォが鳴り響く。

 使用人である女性からだ。


「もしもし。私よ――」


『頼まれていた倉崎家の事故の件の調査資料ですが――』


 そして母親である彼女もまた倉崎 稜のために動いていた。



 恵理と稜の生活は何処かぎこちない物だった。

 月日が経ち、中学生になったらより顕著になった。


 女と見紛う色香で容姿を持った艶やかな黒髪で赤い瞳、潤った白い美肌の美少年になり、また大人びた雰囲気からモテた。  

 小学生の頃は男友達が少なく、恵理含めて女子の相手ばかりしていたが特にそんな様子は見せなかった。

 だが中学生になり、思春期になった辺りから男子からそのポジションは羨望の的になっていた。


 それでも特に気にした様子は見せず、稜は恵理を大切に思っていた。


 そして恵理も長い黒髪の美少女となった。

 青い瞳に、引き締まった四肢にアスリート体型でありながら豊満な乳房に恵まれ、背丈も同じ年頃の男並に恵まれた。


 男子女子からもよくモテたが、男女に対する感覚も年相応になり、稜との関係は一歩引くようになった。

 恋仲になってはいけないと言う条件を律儀に守りながらもそれを破りたいと言う欲求が抑えきれず、護衛だとか偽装デートだとか執事の義務だとかで誤魔化して傍にいるようになる。

 恵理の母親達はそんな娘のごまかし行為をある意味「かわいらしい」と思っていた。


 また縁談の申し込みも増え、それ目的で近寄ってくるお金持ちが後を絶たなかった。

 宮園財閥のご令嬢と言う肩書きはそれぐらいの物である。


 しかしどれもこれも断った。


「恵理お嬢様。逆にどう言う人が良いんですか?」


「そ、そりゃ私に見合った人がいいなとか・・・・・・」


「はあ・・・・・・」 


 との事で逆に同い年の少年であり、天下の天村財閥の天村 志郎に申し込んだ事もあった。

 自分の気持ちを誤魔化すためにとても失礼な事をやったなと恵理は思ったが、「すいません、既にもう将来を約束した人がいるんで・・・・・・」と返された時は恵理も「!?」となった。

 同い年であの天村財閥の御曹司がである。


 どんな人か興味を持ってわざわざ倉崎 稜を連れて学園島にまで行った。


 そこで目にしたのは普通の少女だった。


 可愛らしさと格好良さを兼ね備えたスタイル抜群の美少女であるが普通の女の子である。


「え? なに? あの馬鹿の知り合い?」


 これが揚羽 舞との出会いであり、結果的に天村 志郎とも仲良くなった。

 財閥の垣根を越えて一緒に志郎や舞と過ごす事も多くなった。


 そして恵理の恋愛観に大きく影響を及ぼした。


 密かに稜が志郎の悪影響を受け出したのはこの頃からだ。

 DVDやマンガのやり取りしたり、妙に知識が偏り始めたのは。

 元々メイドの御守 摩耶やメイド長のマリアと関わり始めた辺りから知識が偏り始めたが志郎と関わり始めてから一気に加速した。


「オタクの方はよくお気に入りの女性のキャラを嫁と言いますが頻繁に嫁を変える方はどうなんでしょうか?」


「え?」


 とか


「今度一緒に皆で東京ビッグサイトに行きませんか? 準備は万端にして」


「え?」


 とか。


「その・・・・・・僕は男の娘らしいんですが一度女装とかした方がよろしいんでしょうか?」


「え?」


 など。

 何かおかしくなって来た。

 だけど良い事もあった。

 昔に比べて笑うようになったのだ。

 少々堅さが残る笑い方だが何だがそれがとても可愛らしく恵理は感じた。


 そうして幸せな月日が経過していくように思えた。



 天照学園で起きた爆発事故以来、怪人災害が多発していた。

 同時にそれを倒すヒーローが現れた。

 自作自演などの批判の声が起きる中でヒーロー達の纏めサイトが出来る程の熱狂振りであり、また過去に活躍したセイントフェアリーも現れたりと世間は注目の的になっていた。


 宮園 恵理達も日常の方面で政略結婚を強引に推し進められ、結果的に倉崎 稜がそれを阻止する形になったりもした。


 だがそんな中、ある事件が起きた。 


 倉崎 稜の眼前には屋敷だった建造物が見えている。


 火災で燃えたのだ。


 燃えた屋敷の中で視た物は忘れられない。


 赤い手裏剣の様な瞳を持つ白銀の重鎧の天使が宮園 恵理を連れ出そうとするのを。

 周囲には特撮物に出て来そうな怪人がいた。

 稜は激昂した。


 子供の頃以来、使ってなかった謎の力を解放した。

 怪人は倒したがそれでも恵理を取り戻すには至らなかった。鎧の天使の力があまりにも桁違いだったのだ。


 敗北し――稜は再び孤独の身となった。   


 恵理は何処に連れ去られたのか?

 目的は何なのか?

 稜には分からなかった。


 そして自分の体は何なのだろうか?


 宮園財閥は何も教えてくれない。

 メイド長や御守 摩耶は屋敷に残るつもりだそうだ。

 主である恵理の生還を願って。


 だが稜は天照学園に乗り込む事を決意した。

 安直であるが、怪人騒ぎが多発しているこの町に乗り込む事にしたのだ。  

 あの時見た怪人もそれと何か関係があるのかも知れない。


 ここで天村 志郎との交友関係が生きて来た。

 彼も怪人騒ぎの真相を追っているらしい。

 そうして乗り込もうとした直前。 


 稜は宮園 恵理の母親、宮園 梨緒からある場所の事を聞かされた。



 そこは日本から外れた孤島だった。

 宮園 梨緒を含めた厳重な護衛体制を整えて乗り込んだ。

 遺跡と言うがまるでアニメに出て来る様なSFの宇宙船の内部の様な光景だった。

 遺跡の中には宮園財閥のスタッフが多数調査を行っている。


「宮園財閥はこの遺跡のテクノロジーを解析し、莫大な富と技術を得たわ・・・・・・倉崎家は元々世界各地に点在する遺跡、その中でもロストテクノロジーと呼ばれてるわ」


 と宮園 梨緒が語る。

 既に三十代は超えている筈だがまだ二十代前半で通用する若々しさだ。

 長い黒髪と青い瞳といい、抜群なプロポーションといい、恵理を大人にしたらたぶんこんな容姿になるであろうと言うぐらい恵理と共通点がある。


 内部はとても広く、小型車両で内部を進んで行った。


 その傍ら、宮園 梨緒は運転しながら様々な事を語ってくれた。


「君はその遺跡の中で発見された」


「この遺跡で?」


「そう。当時倉崎夫妻は事故で息子を亡くしていたの。稜はその名よ・・・・・・」


「僕にその名を・・・・・・」


「だけどその前に危険な警告を受け取っていたのよ――」


「警告?」


「マスタージャスティス、正義の神――と彼は名乗っていたわ。ルシフェル――全ての神を倒す者。それが貴方の本当の名前らしいわ。もしも関われば間違いなく様々な厄災が降り掛かると言われた。だけど育てて行く決心を付けた」


「厄災・・・・・・」


「生前、私は貴方のお父さんに尋ねた事があるの。どうして貴方を育てたのかと。答えはこうだった。例え人じゃ無くても人として育てたいと」


「人として・・・・・・ですか?」


「そう。それにね。話が本当だったとしたらどの道長生き出来ない。だったら自分が思ったように生きるって言ってたわ」


「お父さんはそんな事を・・・・・・」


「ええ・・・・・・お母さんも同じよ」


 そうして話し込んで行くウチに辿り着いた。

 大きなホールだ。

 プロ野球が出来そうなぐらいに広い。

 その中央の高い台座に目をやる。


「貴方はここで眠っていたの」


「ここで?」


「そう。正義の神はこうも言ってたわ。この施設自体が貴方を守る揺り籠の様な物だと。そして宮園 恵理と出会う為にずっと待ち続けていたと」


「え? それってどう言う・・・・・・」


「分からないわ。だけどこんな凄い技術を持ってるもの。一種の未来予知が出来る技術があるのかも知れないわね」


「そんなSF染みた話――」


「君からそんな言葉が出て来るなんて随分と人間の世界に馴染んだわね。昔出会った時はまるで聖職者みたいだったのに」


「は、はあ・・・・・・」


 と彼女は微笑んだ。


「で、先程の話の続きだけど今この世界は段々とおかしくなって来てるわ・・・・・・」


「おかしくですか?」


「そう。この遺跡も、これから貴方が行こうとしている天照学園もそうだけど、今の現代科学では説明できない事が溢れているわ。そして科学技術の発達スピードもおかしいのよ」


「それ志郎さんから聞いた事があります」


「へえ・・・・・・天村財閥の御曹司からね・・・・・・参考までに聞かせてくれる?」


「はい。学園島その物もそうなんですが近代の科学技術の発達スピードは第二次世界大戦辺りからおかしくなっているって・・・・・・宇宙開発何かがその代表例で、本来ならば火星に入植どころか月に独立国家どころか宇宙と地球を行き来出来るのかも怪しいレベルだと言ってました」


「だけど天才が現れたからとも言えるわね?」


「けど、知識だけでは限界があるとも言ってました。それ相応の科学技術がないと無理だと・・・・・・疑問に感じたのはセイントフェアリーがキッカケだったとも言ってます」


「セイントフェアリー、昔恵理も好きだったわね。それがヒントになったの?」


「ええ。特撮物の技術を再現できる事自体が本来ならおかしいのだと志郎さんは言ってました」


「だけどその話は直感とか、勘みたいな物でしょ?」


「そうですね。テレビの世界の住民がテレビの外を知覚出来ないようにと・・・・・・だけどこの遺跡の様なオーバーテクノロジーが知らない間に出回っているのならある程度説明は出来ると思うんです」


「まあ貴方の体も事もあるわね。宇宙人が居たとしても、驚きはしないわ――財閥を任されてる身としてはおかしいけどね」


 そう言って梨緒は苦笑する。


「あの? どうして僕をここに?」


「知っておいて欲しかったから・・・・・・かしらね」


「え?」


「私達宮園財閥の人間にも秘密があるの」


「秘密?」


「私達の祖先が宇宙人なのかも知れない――と言ったら貴方はどうする?」


「え? そ、それは――けど僕と言う例もありますし」


「まあそれが普通の反応よね。でも宮園家にも様々な言い伝えがあるの。最初から宮園家も巨大な財閥だったわけではないわ。それにこの遺跡のテクノロジーをある程度解析出来る程度のテクノロジーは保有していたわけだし」


「つ、つまりそれは――?」


「この遺跡以外にも、古くからオーパーツを保有してたのよ、私達は――だけど本格的に実用化し始めたのは第二次大戦が終わって暫く経ってからぐらいかしら。けどそれが原因で犯罪組織を産み出してある程度自粛する形になったらしいけど――まあ、昔の特撮番組みたいな出来事が実際に起きてたのよ、この世界では」


「そ、そうだったんですか?」


 驚愕の真実だった。

 悪の組織に改造人間にされたヒーローや宇宙から来た侵略者と戦う五色の戦士とかがいても、もう不思議では無い。

 自分達が住む世界はそう言う世界なのだと言ってるのだ。


「そう。そして私達宮園財閥は裏で天照学園のある研究機関に手を貸していた。名をジェネシス。表向きは天照学園の爆発事故として片付けられてるけど実際は世界の危機レベルの出来事なのよ」


「まさか、他にもオーパーツがあるんですか?」


「ご名答よ。ジェネシスはオーパーツを研究し、平和利用を目指す機関だったのよ。そこが襲撃された――どれだけ流出したかは分からないけど少なくとも事件の犯人は怪人を産み出せるぐらいには技術を得たと言う事ね」


「・・・・・・まさか僕の両親や、そして恵理さんが狙われたのは――」


「貴方のせいでもあり、同時に宮園家のせいだと言う可能性もある――真相はどうなのかは分からないけど覚悟しといた方が良いわね」


 稜は沈痛な表情になる。

 宮園 梨緒はあえて慰めの言葉を掛けなかった。





 数ヶ月後――天照学園に辿り着いた倉崎 稜。


 そこで秘密組織のアーカディアの裏方要因として働いていた。


 私生活では怪人から助けて貰った闇乃 影司と一緒に過ごしている。ちなみに怪人は影司が瞬殺した。


「あの・・・・・・僕の話、信じてくれるんですか?」


「ええ。勿論です」


 借りアパートで稜は影司と一緒に過ごす事になった。

 退魔師や闇の女王、そして黒いセイントフェアリー、影司の話は普通なら信じられない。


 だが、この学園の状況や自分の生い立ちなどを話して情報交換をしていくウチにお互い納得した。


「この学園といい、僕達の状況といいどうなってるんだ?」


「さあ?」


 二人の男の娘はテーブルを挟んで座りながらテレビを見る。

 影司もアーカディアに参加しようかと思ってはいるが、黒いセイントフェアリーと本物のセイントフェアリーの関係が分からない以上下手打ちたくないと言う理由で参加は拒否している。


 ただ怪人退治の手伝いや部屋の家事などはしてくれる。つまり居候兼家政婦である。 


 闇乃 影司は最初は質問をして来たが、一回言えばキチンとこなす上に分からなかったらネットを使って少し調べただけど暗記して家事の手伝いをしてくれる。


 一応闇乃 影司の事は天村 志郎にも報告を入れており、監視が付けられている。

 凛堂市の壊滅に深く関わり、闇乃家を事実上崩壊させ、闇の女王に関わりがあり、黒いセイントフェアリーを追っているらしい人物である。


 特にセイントフェアリーの揚羽 舞は志郎にとって大切な人、万一の事がある。

 それに闇の女王の事も気になっていた。


 だが害は無い上に、稜に対してはとても従順と言うか何故だか好意を持っている節が見受けられ、一緒に買い物とかに連れてくと照れるのを我慢しながら付いてきたりと、危険な人物では無いように思えた。

 ある時、その事を問いだしてみたら顔を真っ赤にして涙目になりながら――


「き、気色悪いよね――りょ、稜って、女の子みたいに可愛らしくて――それでどう接すればいいのか分からなくて――」


 闇乃 影司は童話の世界に出て来る絶世の白肌銀髪赤目の美女であるのだが、何かそう言う姿に憧れていたせいなのか元の姿には元れず今の姿で固定になったらしい。


「相手は男だと分かっているのにドキドキして・・・・・・それで段々とおかしくなってきて・・・・・・」


 だが実際になってみて周囲の目線に戸惑いながらも心地よさを感じ、更には天然物の男の娘である倉崎 稜に出会って男性としての何かが崩壊しかけているような感じだと言っていた。


 普通なら気色悪くなるところだが・・・・・・


「それでも構いません。僕には大切な人がいます。それを探すためにこの学園に来ました。だから影司さんの気持ちには答えられません。だけど――今だけは、傍にいてこうして手で触れあう事は出来ます」


 倉崎 稜は笑みを浮かべて、そんな影司を受け入れた。やはり根は聖職者らしい。


「けど、それ以上の事を求めて来たらどうするの?」


「・・・・・・うーん、どうしましょう? 一緒にお風呂に入りますか? それとも夜中うなされてるみたいですし添い寝しましょうか?」


「ちょ、ちょっと! そこまでしなくてもいいから!?」


 などと稜が天使過ぎて、BLとノンケの境を彷徨う別の意味でデンジャーな共同生活を送っていた。 


(ほんと、男相手になんで甘酢っぽい共同生活してんのよアイツは・・・・・・)


 そんな生活を覗き見るように一人の戦乙女の様なコスチュームを着た美女がいた。

 白い翼、金縁のアーマー、胸当て、ヒロイックなデザインのバックルベルトと一体化したサイドアーマー。純白のガントレット、グリーブ。

 羽根飾りが付いた緑のバイザーのヘルメットから金色の長い髪の毛を靡かせている。

 背丈は170の半ば。

 胸のサイズはとても大きくて驚異の百二十台と言う超爆乳である。


 マンションの向かい側の建物に居座り、驚異的な視力を持ってその生活を眺めていた。

 最初、闇乃 影司を倉崎 稜の新しい彼女か何かだと激しく動揺したが後に身辺調査して男だと分かって別の意味で驚いた。


 しかし安心したのも束の間、何だか自分の時よりも凄いイチャラブ生活を送っているではないか。

 最初はむかついたが段々と危機感を覚えてきた。


 だがどの面下げて会えば良いのか分からなかった。

 それにもしも接触すれば稜を危険に巻き込む事になる。


 あの闇乃 影司と言う男は相当な実力者であるらしいし、刺客が送り込まれても大丈夫だろうとは思ってはいるが――


(ダメ・・・・・・稜を眺めてたら何か変な気分になって来た)


 熱い吐息を漏らし、何時の間にか自分の体を自分の手でギュッと抱きしめていた。

 遠くから稜を眺めているだけでこの有様である。

 もし直接触れ合えば逆レイプからのラブホ直交コースになりかねない。


 当時、中学二年生の身分に二次元系の陵辱官能小説に出て来る様な激しい性体験は辛かった。

 半年近く経った今でも思い出してしまう。

 体を改造され、イヤイヤながら体の隅々まで陵辱されながらも倉崎 稜の事を妄想して必死に耐えた。

 そうでもしないと心が持たなかった。


 だけど今はまだダメなのだ。


 自分を陵辱、改造したあの組織の実態を掴み、滅ぼすまでは。


 だがその手掛かりを得るために天照学園に来たが倉崎 稜も同じくこの学園に、しかも自分を探し出すために戦っているとは知らなかった。

 無茶な行為に思えるが、倉崎 稜には凄い力がある。その力を使えば怪人に対抗できるだろうが・・・・・・あの時、ジーク・フリートには勝てなかった。


 ジーク・フリート。


 倉崎 稜を倒し――自分、宮園 恵理の処女を奪い、陵辱調教を行い、改造人間にしたてあげた張本人である。 

 体は完全に淫乱女で気を抜くと男を求めてしまう。

 まだ中学生の身分で大きく実った爆乳もその結果でおまけに母乳まで出ると言う仕事ぶりだ。

 ここまで徹底されるともう褒める他ない。


 正直ジーク・フリートから脱走出来たのは奇跡のような物だ。


 認めたくは無いが、それ程までに奴は強く、そして恐ろしい。


(せめて奴を倒すまでは――ジーク・フリートを、その組織を叩きつぶすまでは再開できない)


 そうして恵理は名残惜しそうにその場を去っていく。


「どうしたの稜?」


「いえ、何でもありません・・・・・・」


 窓に目を移したが何も無かった。


 ただ白い羽根が舞うのみである。


 END

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