第16話 フィリピン決戦〜禄〜(香澄編)
クラーク国際空港滑走路南側
香澄莉子は再び滑走路に戻ってきた。熊木社長が言うにはブランゴ第二小隊がアスデリオスを引き付けてくれているそうだ。
接近戦には向かないM.Oも、こういった撹乱行動は得意とする。
「すぅぅぅ……はぁぁぁ」
大きく息を吸って吐いた。それを二度三度と繰り返して自分の中の恐怖を無理矢理外に押し出した。
大丈夫、一体ずつ確実にやればいける。カドモスの機動性なら接近戦も充分こなせる。
問題は、一発でもくらえば致命傷になりかねない程アスデリオスの攻撃力が高い事と、大太刀が六体も切れないという事だ。
せいぜいあと三体切れれば上々だろう。
「とにかく、まずは数を減らさないと」
小さく呟いて莉子はレバーを倒した。カドモスが駈ける。
目指すは一番近いところにいるアスデリオス二体、現在ブランゴ第二小隊のM.O二機が相対している。
引き付ける事が目的のため、前にでずに一定の距離を保って戦車用アサルトを撃っている。
莉子は一体のアスデリオスの背後を取ると、一気に距離を詰める。同時にM.Oがアスデリオスへの撃ち方をやめる、カドモスに当たるからだ。
莉子は肉薄してアスデリオスの背中に大太刀を突き立て、心臓を破り胸を突き破った。アスデリオスは一度身じろいでから腕をだらんと下げて絶命した。
すぐに大太刀をぐっと押し込んでから引き抜く、もう一体のアスデリオスが太い腕をカドモスに向けて突き出す。
紙一重で避けてアスデリオスの懐に入る。スペツナズナイフを出して首に刺す、そのまま腕の可動範囲が許すまで首を抉りながら滑らせた。
首筋から流れ出た赤い血がカドモスに降り注ぐ。
「まず二体、大太刀の状態は……大丈夫そんなに傷んでない」
「Yeaaaa」
「Fuuuuu」
と通信機にブランゴ第二小隊の二人から妙な歓声が入ったかと思うと、次々にM.Oからカドモスの肩を叩かれた。
激励のつもりらしい。
「ど、どうもです」
次は、と思った矢先に静流から悪い知らせが入った。
「北の方で戦ってるブランゴ第二小隊のメンバーが一機やられたで、それともう一機が脚部を損傷して動けんらしい」
莉子はすぐに周辺マップを確認する。妨害電波のためか半径一キロメートルしか表示されない。
この滑走路は最長で約六キロメートルもある。莉子のいる地点からは肉眼で損傷したM.Oは見られない。
「パイロットは脱出したみたいやけど、引き付けていたアスデリオスがフリーになって滑走路の真ん中に移動しとる。今そこでは戦闘が継続中や」
一キロメートル圏内にある滑走路の真ん中では、ブランゴ第二小隊隊長以下二名が二機のM.Oでアスデリオス三体を押さえ込んでいるのがマップで確認できた。
つまり倒された二機のM.Oはたった一体のアスデリオスにやられた事になる。
そしてその一体(以後、北のアスデリオスと呼称)はもうじき残りの三体と合流する。
逆にこちらも二機のM.Oが第二小隊隊長と合流する。
そのため滑走路真ん中では混戦になると想定される。
北のアスデリオスが合流するよりM.Oが合流する方が早いだろう。しかしそれでも数を減らすに越したことは無い。
ならばと思い、莉子はカドモスを全力で走らせた。北のアスデリオスが合流する前に数を減らす。
合流するために移動中のM.Oを追い抜き、莉子は走りながら大太刀を腰に差して押さえ込むように構える。
戦車用アサルトの銃撃を受けていたアスデリオスがカドモスに気付いて振り向く、しかし気付くのが遅かった。
振り向いた頃には既に大太刀の間合いに入っている。滑りながら立ち止まり腰をひねりながら鞘に収めた大太刀を神速で振り抜く、居合斬りだ。
振り抜いた勢いのまま半回転して前に跳ぶ。一度振り返って今しがた斬ったアスデリオスを確認すると、アスデリオスは腹から贓物をこぼしながらその場に倒れた。
これで三体。
大太刀の状態を確認する。刃こぼれをおこしている、加えて肉片や脂がまとわりついて先程までの切れ味は失われた。
鋸のこぎりのように使うか、一回限りで刺突として使うか。迷うまでもなく後者だ。
「Because I is stuck a guy coming from the north, Mike! You are white merges with Harry we retreated to the south (俺が北から来る奴を足止めするから、マイク!お前は南に後退してハリー達と合流しろ)」
「Yes, sir!!」
小隊長からの命令だ。英語で話しているためこれは莉子にでは無く部下に発しているのがわかる。
翻訳された命令文を見て莉子は短く「ありがとうございます」と言った。
これは莉子が動きやすいようアスデリオスを分散させる作戦だからだ。
因みにハリー達というのは先程カドモスの肩を叩いた二人である。
「おい! 嬢ちゃんもマイクと一緒に下がってハリーと合流しろ、四機でその二体を倒すんだ」
「了解しました!」
そして小隊長は単機で北のアスデリオスに向かった。莉子はマイクと協力して、二体のアスデリオスを戦車用アサルトで引き付けて後退する。
ハリー達と合流するのに二分も経たなかった。
「Let interrupted by us (私達で分断させます)」
マイクから通信がきた。分断させてから一体ずつ倒せという事だ。莉子は大人しく「了解しました」と言って一時的に距離をとった。
三機のM.Oは左右に展開してアスデリオスを分断させようとする。しかしアスデリオスは狙い通りに分断はせずその場に固まって背中合わせに立った。
「Attract divided stop, attention to here (分断中止、注意をこちらにひきつける)」
「「Yes, sir」」
要約すると、分断させるのに失敗したから注意をこちらにひきつけて死角をつくるからそこを狙えという事。
莉子は静かに後ろに下がり、ゆっくり弧を描きながらアスデリオスの後ろをとる。
カドモスがアスデリオスのすぐ後ろにいる事を確認したM.Oの一機が、ふいに前に出てアスデリオスの攻撃を誘引する。
その狙い通りアスデリオスが大きく腕を横薙ぎにした。その瞬間を逃さず莉子はカドモスを全力で走らせてものの数秒でアスデリオスを間合いに入れた。
アスデリオスは腕を振り切った状態で止まっている。莉子はブレーキを踏むこと無く、大太刀を背中から突き刺して自身もアスデリオスに突進して全体重を大太刀にかけた。
大太刀はズブブと強引にアスデリオスの体内で押し込まれ、そしてガキンという音がして体内で折れた。
すぐ近くにいた別のアスデリオスが腕を振り上げた。さっきと同じ状況だ。
さっきと同じく攻撃を紙一重で避けてスペツナズナイフを取り出して胸に突き立てる。
喉に突き立てなかったのはカドモスが突進した勢いを殺しきれずに低い姿勢になっていたからだ。
胸に突き立てるも心臓には達してない。それは感覚でわかった。
アスデリオスはもう片方の腕を振り上げた。その瞬間莉子はスペツナズナイフのスイッチを押して刃を射出した。
刃は体内で発射され、心臓を貫いて背中を破った。
「ハァハァ……後一体」
既に息も絶え絶え、僅か一時間足らずでこの体たらく。山岡の言っていた体力作りの大事さが今になってわかった。
それだけでは無くカドモスの脚部の負担も大きい。あまり無茶な立ち回りは出来ない。
しかし休んでいる暇は無い、小隊長が一人で北のアスデリオスと戦っている。
他の小隊メンバーは既に北に向かっている。流石にプロは早い。
自分も早く向かわねば、しかしどうやって倒すか。大太刀は折れ、スペツナズナイフは回収する暇が無い。
手元にあるのは戦車用アサルトライフル、しかしこれではアスデリオスの外皮を貫けない。
「なら内側からなら」
莉子の頭に妙案が浮かんだ。
カドモスを走らせる。北のアスデリオスはブランゴ第二小隊に完全に包囲されていた。
しかし火力が足りず攻めあぐねていた。各なる上は玉砕覚悟で突進して、腕に仕込んだナイフで接近戦に持ち込むかだ。
そんな小隊長の考えを止めるがごとく莉子が通信を飛ばした。
「小隊長! 私にやらせてください」
小隊長は少し考えると「わかった」と頷いた。
「Cease fire! (撃ち方やめ!)」
M.Oが一斉に銃撃を止める。それを見計らってカドモスを前に出してアスデリオスと正面をきる。
カドモスに武器らしい武器は持って無かった、そのため小隊長から「死ぬ気か!」という声が聞こえた。
アスデリオスが右腕を引きながら前に出て、まるで砲弾のように拳を突き出した。まともに受ければカドモスはバラバラになるだろう。
莉子はギリギリまで引き付けて躱す、そして腕を左手で掴みながら右手でアスデリオスの右肩を掴み、前回りさばきでカドモスの背中をアスデリオスの腹に密着させる。
そして姿勢を落としてからカドモスの腰でアスデリオスを持ち上げ、左手を引きつつアスデリオスが攻撃した時の勢いも利用して投げた。
柔道の一本背負投である。
すかさず仰向けに倒れたアスデリオスの口に戦車用アサルトライフルを押し付けて引き金を引いた。
こうして全ての中型奇獣が殲滅された。
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