第4話 異世界トリップの基本

異世界といえばファンタジー。

ファンタジーといえば最近は戦闘が多いと思う。

ファンタジーの戦闘は好きだけど、転生、トリップものの戦闘はいただけないと思っていた。

大体の日本人は化け物などと戦えるほどの身体能力を持っているとは思えないのだ。学校の授業の体育、習い事、趣味で動かす程度。ただ、それだけで魔物と戦えるかと問われれば否、できないと思うのだ。

例えばオリンピックの選手でさえ、魔物を相手にするとそりゃあ、身もすくむだろう。私なんか、想像するだけで怖くなる。

一歩間違えれば命を失う。

そんな瞬間に立ち会ったことがない日本人は、異世界トリップをしても、自ら戦闘はできないと思うのだ。

しかし当事者となれば話はまた違ってくる。

どうやらこの世界は、魔物など化け物がそこらにうじゃうじゃ居るそうで。

行き先不安だ。なぜ私はこんな世界に連れてこられたのだろうか。使命などを請け負った覚えは微塵もないし、そもそもトリップした瞬間も夜、一人でぶらぶらと歩いていただけなのだ。

わかるはずが、否、覚えがあるはずがない。


「オウガ、魔物出てきたら私動かないから」

「あはは、大丈夫だよ。俺がなんとかするから…」

オウガは優しいな。

こんな状況ではなかったら惚れていたかもしれない。


こんな状況じゃなかったら、だけど。


「ねえ、ほんとにこの道であってるの!?」

「大丈夫だって!」

そう、今いるのは獣道。

人が通った後なんて全くないような、草ボーボーの森の中。

草木をかき分けるように進み、かれこれ数時間。人工物は見えない。


時は数時間前にさかのぼる。


着いてくるかと問われ、頷いたのちオウガは「じゃあ準備してくるから」と部屋を後にした。

私はこれといって準備するものもないので、華麗に二度寝でもキメようかとも考えた。

しかし、目に入ったのは暗い画面のスマホ。

起動させ、Safariを開き、あの部屋を見てみた。そこには、かいくんが入室をしていた。

『みう が入室しました』

『かい:お』

『みう:かっこいい男の人に着いてくるかと問われおkしたよ』

『みう:どうなるかわからないけどとりあえず着いて行くことに』

『かい:そっか。まあ、何かしないと始まらないしな』

『みう:何かって?』

『かい:中二病的物語が———!』

『みう:バカみたい』

『かい:ひっでw』

そこまでやり取りをして、オウガに名前を呼ばれた。

また後で進行報告をするね、と書き込み、退室をする。相変わらず減らない電池マークをちらりとみて、スリープモードにする。

先ほど試したけれど、ネットは繋がるが電話、メール、メッセージその他機能は使えないものが多い。

ゲームアプリも反応しないし、LINEも使えない。できるのは本当に、Safariと写真機能だけらしい。

親に連絡を入れておきたかったが、これはもう仕方ないだろう。警察沙汰になるだろうが、どうしようもない。

もしあちらに戻れたら、こっちでの話を全部してやる。信じられる信じられないはともかく、話さないと気が済まなくなるだろう。悪いのは異世界に私を飛ばしたどこの誰かもわからないヤローだからな。


オウガに少ない食事と、護身用の短剣を一本、ランプ一つを持たせられた。

対してオウガは大きめのリュックで事足りているらしい。なんでも魔法道具とやらで、四次元ポケット的な機能があるらしい。

制限は一応あるものの、ないに等しいほど大量に入る。リュックの口より大きなものは入れられないらしいが。

この小屋は無人宿というらしい。

人がいない、宿といえばわかるだろうか。要するに、好きに使えということだろう。

自炊さえすれば、寝ようが暴れようが宴会に使おうがカップルの営みに使おうが、用途多彩な小屋。お金は取られない。

なんて便利な場所だろうと聞いた時は感動したが唯一の欠点は水が引かれていないこと。

ここはまだ山から流れている水の綺麗な川があるので困ることはないが、他の場所にある似たようなところでは川さえないという。

まあ、貸し出されるだけいっか。そんな感じらしいのだ。意外とおおらかな旅人たちだこと。


まあとにかく、そんなこんなで小屋を出て、歩いて、歩いて現在に至る。

オウガに尋ねると目的地は一番近い都だそうだが、そんな賑やかな雰囲気はこれっぽっちもなく、むしろ人がいない。

たどり着くのは一体いつになることやらと足を進める。

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