第3話 異世界の住民
民家を見つけて駆け寄る所までは覚えていた。
「…あっ!?」
ふと目を覚ますと、柔らかいベッドの上だった。
自分の部屋かと思ったけれど、この木の匂いは私の部屋ではない。
私の部屋は、もっと紙とインクの匂いと、フィギュアの塗装の匂いに満ちている。
と、いうことは。
「目、覚めた?」
突如として顔を覗き込まれ、私は思わず身を引く。あ、ごめんと謝る相手は金髪の美男子であり、更に混乱をしてしまう。
しばらくの沈黙のあと、あ、言葉が通じるとわかったのだった。
現状整理をしよう。
木製の丸太っぽい素材で作られている家の、柔らかい白いベッドに寝かされており、目の前には金髪の、控えめに言っても美男子の青年が独り。彼が、家の持ち主だろうか。
窓を見ると、明るい。夜は明けてしまったらしい。
そして
「…あれ、傷…痛くない」
「ああ、君、傷だらけだったから、その…手当はしておいたよ」
青年がおどおどと言い、私ははぁ、としか言うことができなかった。
恥ずかしいことに、このタイミングで腹が鳴る。
「あ、俺食べ物持ってくるから」
そう言い残して出て行った親切な青年の背中を見て、近くにスマホが無いかさがした。
ベッドのすぐ側の、小さな棚に、置いてあった。
タップをして、開く。相変わらず充電は100%だ。
Safariを開き、昨日(今日?)作ったチャットルームに行ってみる。
『かい が入室しました』
『無言時間が続いたので かい が退室しました』
繰り返し。下の方にスクロールすると、私の退室のメッセージもあった。
助けてくれたかいくんは、あれから何度もルームに来て、私の発言を待ってくれていたらしい。
優しい。ログがこれほど続いているということは、それだけ待ってくれていたのだ。
『みう が入室しました』
『みう:無事、人に会えました。またなにかあったら、よろしくおねがいします』
『みう:かいくん、ありがとう。昨日はとても助かったよ!』
『みう が退室しました』
スマホをポケットに戻した時、見計らった様に青年が入ってきた。
「どうぞ。俺の得意料理なんだ」
差し出されたのはシチューらしきもの。野菜は地球と同じなのかな。
人参らしきもの、ジャガイモらしきもの、ブロッコリーみたいな物もある。
ありがとうございますとお礼を言って、木のスプーンで口に運ぶ。
「不思議な味」
「そうかな?俺はこれ好きだけど」
「…不思議だけどクセになりそうな味ですね」
甘いのか酸っぱいのかわからないが、おいしいことに変わりはない。
熱いけど、食べれないほどではないし、ふぅふぅと息を吹きかけて食べる。
しばらくして、完食してしまった。
食べている間、青年は楽しそうにこちらを見ていた。
あれか、困ってる人を見るとうんたらな感じの人かな。いつもなら鼻で笑うかもだけど、今はそのありがたみで命を救われてしまった。
「俺オウガ。君は?」
「え、
「ミュー?」
どこの幻のモンスターだよとツッコミたくなるが、ぐっと堪える。
オウガと聞いて、かの狩猟ゲームの猫みたいな奴を思い浮かべた。うん、覚えやすい。
「みゆです。み、ゆ。」
「………ミユ?」
「はい」
わかってくれたみたいだ。でも、ミューでも良い気がしてきた。せめて、もっと可愛い名前だったらよかったのに。
まあでも、お母さんもまさか娘が異世界に飛ばされるなんて思ってもみなかっただろうから、名付け親であるお母さんは悪くないだろう。
「ところで、ミユはなんでこんなところに?」
「…それが、よくわからないんですよね」
隠す必要も無いし、隠したところでなので正直に言う。
「記憶喪失?」
「いえ、気がついたらココに居たんです」
「あぁ」
何故か納得された。何故だろう。よくいるのか?
「じゃあ、俺に着いてくる?」
予想を飛び越えた発言をする人はいるのだな。じゃあ、と彼は言ったが、繋がりがわからない。かといって断ればこれからの目処が建つ訳でもなく。
私は静かに、頷いていた。
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