第2話 異世界でネットが通じました。
崖から落ちて数時間。
次は絶対落ちないぞと心に決め、足下確認をしながら歩く。
いい加減足が痛い。しかし人の温もりの象徴であると探していた明かりはチラとも見えないのはどういうことか説明をしてほしい。
手に持った懐中電灯機能を発動させたスマホは、自分の持つ温もりだ。
「私は他人の温もりが恋しいの!」
などとほざいたのはどれだけ前だっただろうか。
充電は大丈夫かなと確認すべく液晶を見る。
最初に見た時は60%だったはずだ。
「…えっ?」
100%。満タン。
異世界に来たからバグッたかな?
…バグでないなら、とてもとてもありがたいことこの上ない。どうか、バグでありませんように!
と、ふと反対の角を見て、更に驚愕をした。
「…回線、繋がってんの?」
インターネット回線が繋がっていることを示す青い三本の棒が表示されている。
思わず足を止め、Safariを開く。
読み込みがはじまり、何の抵抗的なものもなくページが開いたとき、私は叫びそうになったほどだ。
——そうだ、ネット民に打開策を一緒に考えてもらおう——
そう思った私は、近くの崖に背中を預け、チャットサイトを開く。
チャットサイトはお気に入りで、使い方もよくわかっている。
2chとかのほうがいいのかもしれないけど、使い方もよくわからないし、少し怖い気がした。
ルーム名は「異世界からの救援要請!」とかにした。
勘違いして小説だと思われたらどうしようかと思ったけど、これしか思いつかなかったんだ。仕方ない。…かっこつけたかったわけじゃいよ!
ルーム作成が完了し、入室した。
しばらくはROMがちらほら来るだけで、誰も来なかったので、少しリアルの足を進める。
相変わらず人の姿はおろか、明かりさえ見えない。
————ピコンッ
スマホから音がした。ふと見ると、私以外に一人、入室者が来ていた。
「お」
『みう:あ、こんばんは』
『かい:こんばんは。ねえ、異世界って、マジで言ってんの?』
まあそうだろうなと、思った。
私だって、突然異世界に居ますなんて言われても信じることはできないだろう。
現に、いまココに居るのが本当は夢で、現実の私は寝ているのではないかと何度も思った。
しかし崖から落ちた時の傷がヒリヒリと痛むので、リアルなのかと軽く絶望したのは数時間前だ。
『みう:あ、マジです。異世界に居ます。人が居ないです』
『かい:とりあえずじゃあ、状況教えてよ』
信じたのか?信じたのか?
わからないが、とりあえず状況を軽く説明しようと文字を打ち込んでいる。
自分で言うのもなんだが、私はオタクオタクと言われ続けてきていたので、文字を打つ速度には自信がある。
『みう:数時間前に森の中に居ました。近くに小川があったので下ろうとしたら崖から落ちて、葉っぱに助けられました。人が居ないかと歩いても誰もいなくて、スマホ見たらネット繋がってたのでルーム作って現在に至る』
『かい:ヤベえな』
『かい:崖に落ちたって…』
『かい:もしかして、崖に沿って歩いてる?』
『かい:崖沿いには民家ないと俺は思うぜ』
おお、まともな返信だった。もっと冷やかされるのではないかと身構えたのに。
しかし、よく考えればそりゃそうだと納得した。
崖に沿って歩いても、民家は無いだろう。
崩れる危険を考えたら、よほどのことでもない限り崖の近くに家を造るわけないよな。
90度向きを変え、歩を進めながらスマホを打つ。
『みう:崖に沿って歩いてました。』
『かい:馬鹿だなー』
ば、バカと言われた。許すまじ。しかし希望は見えた。
「み、民家だ…!!希望の光だぁぁぁ…!」
黄色い光が窓から漏れる、丸太で作られている可愛らしい家が見えた。
周りにはにたような家がちらほらと建っていた。
なんとまあ、暖かい光だこと。
私は喜び勇んで駆けて行く。
どうか、どうか、優しい世界の住民であります様に!
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