希望の聖女 二頁目 恋と盲目
「我が名はアイオーン、人間達よ、もう恐れることはない。何故なら魔物達の神、魔神ローレライは我が倒した! 魔物達よ! お前達の主はもう居ない! 人里から大人しく去るがいい!」
その言葉が世界中を駆け巡った瞬間、魔物達は一斉に何処かへ逃げて行きました。
魔物達が逃げていく光景を目にして、人類は魔物に初めて勝利したのだと理解しました。
世界中で救いの神であるアイオーンを讃え、人々が狂喜乱舞していると、続けてアイオーンはこう告げました。
「人間達よ、だが安心してはならない。魔神を倒すことは出来たが完全に滅ぼす事は我にも出来なかったのだ。いずれ魔神は復活するであろう。しかし、絶望はしないで欲しい。魔神が復活したその時には、人間達よ……我と共に戦い、今度こそ魔神ローレライを討ち滅ぼそうではないか!」
そうして人間達は神の降り立ったこの地に国を築き、神という王を
* * * * * * * *
「ずっと前から貴女が好きです、モニカ――僕と、付き合ってください」
10年来の想い人である彼女を見つめながら、答えを待つ。
何度も練習していたはずなのに、後半は声が震えてしまった。
モニカは勝気そうな瞳を大きく見開いたまま固まってしまって動かない――というか瞬きすらしていない。
沈黙に耐え切れず、僕は彼女の肩を軽く揺らす。
「モニカ? 大丈夫?」
「え? あっ――」
揺らした瞬間、また彼女の瞳から雫が零れ落ちる。
もしかして……泣くほど嫌だった!?
「ご、ごめんモニカ! い、今のは忘れて――」
「違う、違うの……嬉しくて……本当に嬉しくてっ……だから――悲しくて」
「……」
「だって……だってどうせ私が言わせてるんじゃないかって思ったら――」
「そんな事ない! ある訳ない!!」
その彼女の反応は、正直な所予想通りだった。
6年前のとある事件の後、彼女は自分の欲求を表に出さなくなった――いや、出せなくなったのだ。
表面上はいつも通りを装いながら、あの日からずっと自分を殺し続けている。
僕はそんな彼女を解放する為に、村を飛び出したのだ。
あの頃とは違うんだ――今度こそ、彼女を助け出す!!
「ちゃんと証拠があるんだよ!」
「証拠……?」
「君に言わされたんじゃない、これは僕の意思だ! 何故なら――君が僕を好きになるずっと前から、僕はモニカが好きだったんだから!」
「そんなの……分からないじゃない」
「分かるさ! 昔は恥ずかしくて口に出しては言えなかったけど……ずっとずっと、ずーーーっと前から君の事が好きだったんだからっ」
「……たし……って…………」
俯き、体を震わせている彼女を抱きしめたくなる衝動を抑えながら、僕は彼女の言葉を待つ。
どうか僕を信じてくれと、心で想いながら――。
「私っ……だって、昔から! エルクの事好きだったもん!」
「いーや、僕は10年前から君が好きだったから僕の方が先だね!」
「わ、私は11年前から好きだったもん!」
「僕がっ――」
「私がっ――」
ある程度の反応は予想していた僕も、この展開は予想外だった。
モニカ――どれだけ負けず嫌いなんだ君は、というか何の為に争っているんだ僕たちは……両想いなんだからそれでいいじゃないか。
しかし、別の事なら僕がやれやれと言って肩を竦めながら折れる場面だが、今回ばかりは負ける訳にはいかない。
その後も何十回も同じようなやり取りを繰り返した結果、二人の息は完全に上がっていた。
「ハァッ……ハァッ……いい加減認めたらどう?」
「そっち……こそっ」
肩で息をしながらお互い見つめあうというより既に睨みあっている。
ロマンチックなムードなど何処へやら、これでは告白ではなく果し合いと言った方がしっくり来るかもしれない。
次の一手を考えながら息を整えていると、ぽつり――と俯きながら彼女が言葉をこぼした。
「本当に、信じて……いいの?」
さっきも言ったセリフを、彼女は繰り返す。
それは裏を返せば信じたいと言っているのだ、それでも彼女は信じられない、自分を信じられないのだ。
そんな彼女に僕が出来ることは一つだけ――。
「信じて」
信じてもらえるまで、何度だって告白し続けるだけだ!!
彼女が顔を上げる、涙こそ零しているがその表情は――太陽のような、昔のままの輝く笑顔だった。
「私も、エルクが大好きです。ずっと……ずっと一緒に……居て下さいっ」
――。
――――。
――――――。
なんて――なんて最高の一日なんだ今日は!!!
僕は今日という日を一生忘れないだろう、いつもは絶対に言ったりしないが今日ばかりはこう言わずにはいられない。
神様ありがとう! ――と。
「えへへ……えへへへ……えへへへへ」
森の中を二人で手を繋ぎながら村へ帰っていく道中、彼女はこんな調子で終始にやけっぱなしだった。
「モニカ、ちょっと怖いよ?」
「だって~だってさ~嬉しいんだもん!」
「まぁ……僕も人の事言えないけどさ」
村が近づいて来て、手を離そうとした彼女の手を再び掴む。
「エ、エルク?村、もう近いよ?」
「うん、知ってる」
「皆にバレちゃう……よ?」
「何か問題ある?」
「――――っっ! やっぱりエルク、変わった!」
「すっっっごく面倒な女の子を落とそうと思ったから、少しは変わったかもね?」
「面倒って言った! 今面倒って言ったよね!?」
「モニカは素直な女の子だっけ?」
「違うけど……違うけどさーーーっ!?」
手を繋いでいない方の手で、彼女は頭を抱えて唸っている。
今まではモニカの活発すぎる行動力に僕が困らされてばかりだったので、内心彼女の反応を楽しんでいるのは内緒だ。
「ううぅ~まさかエルクなんかに主導権を取られる日が来るなんて~……」
「エルクなんかってひどいなぁ」
「こ、今度は絶対負けないんだからね!」
「だから何の勝負なのさ……ほら、もう村だよ?」
「うわわっ……なんか緊張してきたっ」
顔を赤らめながら手を繋いで傍らを歩く彼女を見ながら、僕は夢が叶ったんだと幸せを噛みしめていた。
でも――そんな幸せは、長くは続いてくれなかった。
Back rank mate 心葉 @reiyon
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