魔女の遺言(300字SS)

 絵の隅のQRコードにタブレットをかざせば、ダウンロードは自動的に始まった。

 画面に魔方陣が描かれると、電子魔術書は光の魔女を召喚した。

 彼女はその姿に息を呑む。溢れた雫が頬を伝った。

『愛しい妹と、その憎たらしい婚約者殿へ――』

 結婚する時に読み込むこと。シンプルな遺言書の開封だった。


 魔女が言葉を重ねるたびに絵は薄くなっていった。彼女は気付く様子もなくすっかり魔女に魅入られている。魔女は生きているように僕へと目を向け、視線を合わせ。

『よろしく頼むよ』

 その姿を宙に解かした。

「絵が……」

 白いキャンパスが広がっていた。そして、銀行名と十数桁の数字列が。


 ――結婚おめでとう。さよなら。

 魔女の声が、最後に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る