三日月ウィルス(300字SS)

 三日月が沈み行くビルの隙間を駆けていく。前行く男は蹴り上がり軒を掴み、ひらりひらりと距離を開ける。

 逃げられる。このままでは。

 腕時計をタップする。周囲の電魔の強制停止――司法組織の切り札を。

「間に合え!」

 男の足が廃材を踏む。僕の手元に月紋様が浮かび上がる。

 ドラッグの効いた筋肉が、淡く輝くMANAに照らされ。

「えっ」

 僕は闇の中にいた。


 三日月の夜に発症するウィルスの噂があった。

 発動者の視覚を聴覚を、触覚までをも奪うと言う。

 犯罪組織の仕業とも、厨二病発症者の愉快犯とも。

 中東の技術者集団の、警告だとも言われている――。


「逃げられたな?」

 声に瞬き見上げれば。

 三日月のような上司の笑顔が。


 月は既に地平の彼方。

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