BK編

BKは止まらない

 BK


 MCによる激安競争について行けず、一度日本から撤退したBK。

 現在は再建を果たし、有名チェーン店として新たに展開している。

 肉の調理法に特徴があるのと、ワッパーと言われる他社ハンバーガーチェーン店にはない魅力的なラインナップが多い。徐々にだが評判を上げており、ネット上でも評価が高い。 青い丸に黄色のハンズに赤い文字が目印。




「うーん……お姉ちゃん遅いなあ……」

 BKの前にて美代小豆は、姉である美代餡子と待ち合わせをしていた。

「いつもは十分遅れで来るのに、四十分ぐらい待ってるよ……」

「おーい! すまない、待たせた!」

 スマホを見ていた小豆に、遠くから餡子の声が響いてくる。

「もー! お姉ちゃん遅すぎ! お姉ちゃんいった・・・・・・」

 小豆の視線の先には、見知らぬ姉の姿があった。

 黒いライダースジャケットに白い水玉の付いたショート丈のワンピース。太ももから足首まで色白の生足をむき出し、その先には厚底の黒いサンダル履いている。

 そして、今まで黒かった彼女の髪は焦げ茶色に変わり、癖のついたフェアリーボブにセットされていた。サングラスをかけ、薄く塗られた口紅はニッと笑みを浮かべる。

「どうした? 狐に摘ままれたような顔だぞ? マイリトル・アホ・シスターよ」

「……お姉ちゃん!? いったいどうしたの!?」

「ちょっとオシャレにチャレンジしてみた」

「ちょっとどころじゃないよ!? 誰なのか最初分からなかったよ! 凄いよ! 大変身だよ! 大人の女性って感じだよ!」

「ああ、このままの自分じゃダメだと思ってな。この前は悪かった。そして、ありがとうな。小豆あずき

小豆あずきじゃないよ! 小豆こまめだよ!」

「いや……それは修正入れちゃダメだろ」

「????????????」

「ほら、どでもいいから中に入るぞ。BKの注文の仕方、分からないんだろ?」

 餡子はツカツカと出来る女のオーラを放ち、お店の中へと入っている

「ま、待ってよー!」

 続いて小豆も中へと入っていった。



◆ 


「えー、コホン! それでは今回もハンバーガー店の取材を始めます!」

「イエーイ! ドンドンパフパフ!」

「!?」


 餡子の合いの手に、小豆は意表を突かれてしまう。


「え、えっと……こ、今回の取材元はよくショッピングモールとか都心でも見かけるBKを……」

「ウェ――――――イ! 小豆こまめウェ――――――イ!」

「……」


 餡子のテンションに、小豆は怯え始める。


「お、お姉ちゃん……お店では静かにしよ……」

「お前が言うな!? いつもテンション上げろって言ってたのお前だよな!?」

「違う! こんなのいつものお姉ちゃんじゃないよ! お願いだからいつもの怖くて高圧的なお姉ちゃんに戻ってよ! 失敗した大学生の真似するのは止めてよ!」

「失敗した言うな!」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。


「お、お姉ちゃん!? 戻ってきてくれたんだねお姉ちゃん!」

「もう、テンション上げるのは止めた。さっそくBKの解説に入ろうか。BKは有名バーガーチェーン店……だが、一回日本から撤退している。確か大本の社長が変わって心機一転してきたはずだ」

「へー、そうなんだ! 凄いね!」


 小豆の相づちを餡子は流す。


「そうだな、ネットで話題になったのは、キョンペーンで始めたイカスミの入った黒バーガーで一時期有名になったな。私も食べたが辛くて美味しかった覚えがある」

「へー、そんなことがあったんだね! 実は私、BKに入るの初めてだからどういうお店か全然知らないんだよね」

「確かに、BKに女子高生が居る所を私も見たことがないな。そして、所見ではちょっとメニュー一覧が分かりづらい所があるのは否めない」

「そうそう! よく分からない名前のが沢山あったよね! わっぱ~とか、もんすた~べいべーとか! 頭おかしくなりそうだったよ!」

「お前は元からだから安心しろ。さあ、さっそく今回注文したメニューを言っていくぞ」


 おー! という小豆の掛け声の後に餡子が説明する。


「注意点と謝罪はいつも通りなので以下略だ。今回注文したのは、BKの定番はワッパーという他の店舗と完全な差別化を誇る特殊なハンバーガーの為、単価の一番低いチーズバーガーを採用。そして皆大好き照り焼きレタスバーガーだ。サイドメニューはポテトとドリンクとなっている。ドリンクの中身はそれぞれお茶とコーヒーだ。因みに今回は、小豆の分だけ頼んである。理由は追々説明しよう」

「ちょっと、お姉ちゃん。食べる前に一つ言いたいことがあるんだけど良い?」


 恐る恐る小豆は訪ねる。


「私達ドリンクは、Mサイズを頼んだんだよね? なんかさ……入れ物のせいかちょっと大きく見えない? 気のせいかな?」

「BKだからな」


 餡子は頷く。


「因みにLサイズを頼むと映画館で出されるような訳の分からない大きなサイズの容器が出てくるぞ」

「ひぇ!?」

「フッフッフ、驚くのはまだ早い。さあ、さっそくハンバーガーを食べていってくれたまえ。妹よ」


 言われるがまま、包みを手に取る小豆。


「それじゃあ、チーズバーガーから食べていくね!」


 かぶり付く小豆は、租借音を立てチーズバーガーを飲み込む。


「うーん! んまい!」

「あー、なんか、そんな言い回しのCMあったなー」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。


「痛い!? 何で!? 言い回しはいつもと違うのに!?」

「ほぼ変わらんわ! それじゃあいつも通り分析していくぞ。まず、具材の分析だが、ハンズ、チーズ、マスタード、トマトケチャップ、肉、ピクルスだ」

「あ、本当だピクルスが入ってる。お姉ちゃんにあげるね!」

「好き嫌いせずに食え」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。


「味の解説だ。まず大きさだがMCとそこまで変わらない。少し厚みがある程度か? マスタードが少なめで、基本はトマトケチャップがベースになっている。チーズが全体的に味をマイルドに薄めており、トマトの風味を強調しているんだろうな」

「なるほどー! なるほどー!」

「実はまだ違いがあるのだが、先に照り焼きレタスバーガーに行こう」

「わかった! いただきまーす!」


 新たにかぶり付いた小豆は、租借音を立て照り焼きを飲み込む。


「うーん! んまい!」

「あー……」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。


「あー……で、済まさないでよ! まるで適当にやってますみたいじゃん! お姉ちゃんはプロでしょ!?」

「プロじゃあねぇよ。何のプロなんだよ。適当なのはお前のコメントだろうが!」

「良いよ! 良いよそれ! 良いの撮れてるよこれ!」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。


「照り焼きレタスバーガーの具材だが、他の店とほぼ同じだ。ハンズ、レタス、肉、マヨネーズ。ハンズが非常に柔らかめで、レタスが堅く、歯ごたえがある食感だ。旨味が凝縮した味わいになっている。ついでにこの流れでポテトも話しておくと、太さはMCとMSの中間って所だ。中がホクホクの塩が適度に塗され薄味となっている」

「うーん……何か、他のお店とこれだって言う程違いが分からないね。ちょっと高いMCって感じがする」


 うーんと唸る小豆に餡子は言ってくる。


「BKの特徴。それは、ハンバーガーの肉が直火焼きって所だ」

「直火焼き?」

「ああ、直火焼きは鉄板焼きより油が落ちる。他のお店より肉はヘルシーなんだよ。ファーストフードで気になるのは、やはり脂分やカロリーだろ?」

「うーん……でも、なんか味に特徴がないよ。油が少ないって言われても素人目線じゃ全然分からないよ! こんなんじゃBKの良さが分からないよ!」





「私を誰と思ってやがる!!」




 餡子はバーンと机に何かを置いた。


「天の光は全て星。同然だ、人間はそこまで愚かじゃないのさ」

「お、お姉ちゃん!? な、何なの!? この大きな包み紙のハンバーガーは!?」

「これがBKの看板メニュー、ワッパーだ! 開けてみろ」


 小豆はガサガサと包みを開けた。


「え、デカ!?」

「一度価格競争に負け、日本から撤退したBKは他社とは完全な差別化を計っている。それは"量"だ」

「りょ、量?」

「そう、他社より少し値段が高額な分、一つの商品に対して異常な大きさと量にある。因みにこれがBKのキャンペーン中のチキンナゲットな」


 餡子はドーンと机に箱を置いた。


「お、多いよ!?」

「BKのナゲットはMCのナゲットの二倍の量を誇っている。しかもこの量で百円高いだけだ」

「ヒェ……」

「しかも味もかなり美味しい分類に入る。MSの次に旨いと私も思ってしまう程、味も保証されている。そしてアプリ配布クーポンも異常な割引率を誇っている。まれに四十パーセント引きの時があったりする」

「ええ……で、でも、こんなに量が多かったら体に悪いよ。野菜をもっと取らなきゃ……」

「オール・ヘビー……」

「へ?」


 小豆の言葉が止まる。


「BKの最終兵器、裏メニューだ」

「う、裏メニュー!?」

「そう、ハンバーガーの後にこの言葉を言うと無料で野菜とソースの量を増量してくれるサービスがあるんだ。これで野菜不足も解消だな」

「な、なんでそこまでしてるの!? そんなの聞いたらBKしか皆行かなくなっちゃうよ!」

「そうだよ。BKはネットの陰で囁かれているんだ。完全に他社を潰しにかかっているんじゃないかって……」

「ヒィ!?」

「一度潰された怨念が、BKを本気にさせたのかもしれない。今それ程のポテンシャルを秘めているお店なんだ」

「す、凄い……そんな凄いお店だったんだね」

「よし、それじゃあワッパーの試食と行こうか」

「……へ?」


 一瞬にして小豆の声は、絶望へと裏返る。


「む、無理だよ!? そんな大きいのもう入らないよ!?」

「無理を通して道理を蹴っ飛ばすんだよ!」

「無理だよ! こんなの入れたらお腹破裂しちゃうよ!」

「お前を信じろ!」

「へ?」

「私が信じるお前でもない。お前が信じる私でもない。お前が信じる、お前を信じろ!」

「そう言われても、無理なものは無理なんだよ!」

「あばよ……ダチ公……歯ぁくいしばれ!!」

「いや――――――!?」



 ワッパーの味は、実際にお店に行って君の味覚で確かめてみよう!

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