FK編

FKは男子も入れる

 FK


 日本にて設立されたハンバーガーチェーン店の一つFK。

 季節で変わるメニューとハンバーガーだけでは止まらないラインナップ。メイン顧客は三十代以下二十代以上の若い客層であり、特に女性ユーザーが中心となっている。もちろん男性にも需要はある。

 WDとコラボした統合店も存在している。 橙色をベーストした白い文字の看板が目印である。




 ガコッという音と共に録音は開始された。


「せーの……皆さん! こんにちはー!」

「……」

「こんにちはー!」

「この流れはもういい、それじゃあ今回もハンバーガーチェーン店の食レポを始めるぞ」

「ちょっとお姉ちゃん! 淡々と始めないでよ! こういうのは場を和ませてから始めるものだよ! 久しぶりの取材なんだから!」

「今回の取材店は、日本産ハンバーガーチェーン店の一つのFKで……」

「シカト!?」


 妹の美代小豆みしろあずきの驚きから出た声色に、姉である美代餡子みしろあんこの溜息が入り交じる。 


「なんだ? 前にも言ったが別に良いだろ前振りなんて。このやりとりなんて記事に書かないんだから意味なんてない。そうだろ小豆こまめ?」

小豆あずきだよ! そんなことないよ! こうやってテンションを上げて言いレポートに仕上げるんだよ! それにいつもお姉ちゃんとのやりとりも書いているんだよ!」

「マジか!? 学校とはいえ、新聞にこんなサブいやりとりを書いてるのかお前は……そのうち、もぅマジ無理ぃ。ウチのことゎどぅでもぃぃんだ。って感じの文章まで出てきそうだな……」

「え? 書いてるけど、そういうの書いちゃダメなの?」


 ボイスレコーダーに沈黙が走る。

 しばらくの沈黙の後に餡子が話す。


「……それじゃあ、改めて紹介を始めようか。今回の取材店は、日本産ハンバーガーチェーン店の一つのFKだ」

「うん! 私もFK大好きだよ!」

「おっ! お前もFKを知ってるのか。まあ、お前は好きそうだよな。どうせ、デザートとサラダばっかり食べてるんだろ?」

「そんなことないよ! パスタが主食だよ!」

「まあ、早々なネタバレは置いておいて、ハンバーガー店の中では類を見ない女性受けのお店だ。何だかんだ私も個人的にMSの次に好きなお店だ。MSの次にだ」

「そだね! 私もMS好きだけど、FKの方がだーい好き! あははははは! あ、そうだ。後でMSカードに入金しなきゃ!」


 姉妹のMS談義で笑い声が木霊す。


「それじゃあ、今回頼んだメニューの説明なのだが……今回はハンバーガーと照り焼きバーガーではない」

「え!? そうなの!?」

「ああ、FKにはスタンダードに肉だけ挟んだハンバーガーはキッズセットにしかないんだ。ついでに照り焼きバーガーは店限定商品らしい」

「そ、そうなんだ!」

「てなわけで、今回FKの定番ベーコンエッグバーガーと照り焼きグリルバーガーだ。フレーバーポテトは塩とバター醤油。飲み物はコーヒーとお茶だ。今回は他社比較は少し自重気味だと思う」

「ポテトはお姉ちゃんがバター醤油味、私が塩味だよ。FKはシャカシャカポテトみたいに味付けして食べるからね! なるだけ他のお店に近づけつつ、味の違いも伝えるためだよ!」


 小豆の言葉に、餡子は鼻息を漏らす。


「……小豆こまめ

小豆あずきだよ!」

「お前に質問がある。今回食べるフレーバーポテトだが、MCの出しているシャカシャカの後に出した商品だと思っていないか?」

「へ? どういうこと?」


 小豆は間抜けな声を上げた。


「やっぱりな……実は前から日本のハンバーガー業界に出回っているシャカシャカやフルぽてなんだが、先駆けはここFKなんだ」

「え!?」

「つまり、粉末香辛料をポテトと混ぜることを業界持ち込んだお店なんだ」

「そうだったんだ!? 知らなかったよ!」

「知らない人も多くて、よくフレーバーポテトがシャカシャカポテトのパクりだと言われていたこともあったが、実は逆だったりするんだ」


 言い終わると、シャカシャカと袋を振る音が聞こえる。


「せっかくだから、今回ポテトから食べていくか」

「分かったよ! って……お、お姉ちゃん!? なんで握り拳を掲げてるの!」

「私はこの流れを察した。お前はこれから『おいしい』と、適当なことを言いそうだったからな。先に準備を」

「ヒドいよ! 絶対言わないから見ててよ!」


 小豆が言うと、ガサゴソと紙袋を漁る音が聞こえ、あーんという音声と共にポテトを口に運んだ。


「・・・・・・んー! お!」

「お?」

「お……」

「お?」

「お……お塩の味がするね!」

「当たり前だ!」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。

 そのまま餡子が続けて話し始める。


「解説に移るぞ。FKのフレーバーポテトだが細めで感触は外がカリカリ中モッチリとしている。ジャガイモの皮が付いているので苦みがある」

「あ! 確かによく見たら皮が付いてるね!」

「何かをかける前提で作られているからな。苦みで味を引き立たせているんだ。塩の味が濃いだろ? こっちのバター醤油の味も濃いんだ」

「うん! 確かに味が濃く感じるよ!」


 小豆が納得した上で次に進める。


「それじゃあ、話はハンバーガーに移っていくぞ。最初はベーコンエッグから行こうか」


 餡子がそういうと、包み紙をカサカサと開き咀嚼音が聞こえてくる。


「んー! お……お……お」

「変な生き物の鳴き声になってるぞ。それじゃあ味の解説だ」

「おー!」

「まず、小ぶりではあるが厚みがあるな。具が多いのもあるがパン事態に厚みがあるんだ」

「そういえば、FKのハンバーガーってぺったんこになってないよね! 柔らかいよ!」

「そう、理由は謎だが形は崩れていないからどのバーガーも食べ応えがある。肉は薄めでしっとりとした食感。薄めのトマトケチャップで風味を出している」

「おお! やっぱりお店によって味が違うんだね!」

「そしてここからは、ベーコンエッグに触れるぞ。まずベーコンは焼きすぎない柔らかい食感。卵は全体的に堅焼きで歯ごたえとボリュームを出しているな」

「うん! そんなところも良いよね!」

「そして……このベーコンエッグバーガーの一番主張してくる味であろうタルタルソースだが、これも実は単品では味が濃くない。口の中にタルタルソースの味が広がるがしつこくなく、食材達に混ざり合って中和されていくような感覚に捕らわれる」

「えーっと……つまりどういうこと?」

「後味を残し辛く、非常に食べやすいんだ」


 餡子がコーヒーを啜り、話を続けた。


「それじゃあ、次は照り焼きグリルだ。パンはベーコンエッグと一緒で今までの照り焼きバーガーと違うのは、肉がビーフやポークではなくチキンであるところが注意だな」

「そうだね! 他のお店のメニューにもあるけど今まで流れで比較するのちょっとへんだよね」

「ああ、だから素材単品で話を進めていくぞ。具材の構成は大まかにパン、レタス、チキン、マヨネーズ、照り焼きのたれ。まずパンはベーコンエッグと同じく形の崩れていないふんわりパンだ」

「そこまで、他のお店と具材は変わらないんだね」

「まあな、でも具材単品で結構味が違う。例えばレタスだ。口にすると分かるが青臭さと苦みが出ている」

「……本当だ! 意識してみると何かこう…葉っぱを食べてるみたいな苦さだね!」

「それは……レタスは、ほぼ葉っぱだからな」


 妹の驚きを姉はいなす。


「それじゃあ、調味料類についてだ。まずマヨネーズだが、これは結構薄味だ。単品で舐めると味はするものの濃さはほぼない。そして照り焼きソースだが、これもハッキリ言って独特だ」

「独特?」

「MSのタレに似ているのだが、それ以上に味がしない。どんな味なのか表現しづらい、というか出来ない」


 小豆は包み紙に顔を突っ込み、タレを舐めとった。


「んー……確かに味はするけど、何の味なのか分からないね」

「たぶん、旨味を出すためだろう。それじゃあハンバーガーのまとめだが、全体的に薄味で癖がなく美味しい。小さめだが厚みがあってボリュームがある。とても万人受けな商品だと思うぞ」

「うんうん! そうだね!」

「ただな……安いかと言われるとそうでもない。高いという訳ではないが、安いハンバーガーが三百円程からというのが、他のお店と比較すると微妙な所では……」



「それは違うよ!!」



「!?」


 餡子に突然、小豆が反撃を加えた。


「FKは安いのが魅力じゃないよ! もっと凄い魅力が沢山あるんだよ!」

「急にどうしたんだよお前……金の話をぶった切るなんて、まさかお前……小豆こまめじゃないな……お前、小豆あずきだな!」

「何で小豆あずきが偽物の名前みたいに言うの! それに違うよ! FKはハンバーガーだけが売りじゃないんだよ! パスタとかスイーツが凄いおいしいんだよ!」


 ふむ、と餡子は溜息交じりに頷く。


「ああ、とりあえず小豆こまめの言う通り、FKのメニューにはハンバーガーだけではなくも取り扱っている。そしてデザートとサラダだ。デザートとサラダは何処のハンバーガーのお店にも展開しているサイドメニューだが、FKはこのサイドメニューが結構な本格派だ。もちろんホットスナック類もな」

「そうそう! そして、美味しいんだよね!」

「季節ごとにこのサイドメニューを含めてラインナップも変わるから一年通して飽きないお店とも言えるだろうな。因みに私もFKに行ったらカルボナーラばっかり食べているしな。何よりコスト面が優秀だ。値段が六百円から七百円ぐらいで割とボリュームがあるんだ」

「そうなんだよね! なんか見た目以上にお腹いっぱいになるよね!」

「パスタに関しては、細い皿に入っているから量を感じさせないようになっているんだろう。おしゃれだしな。それと別に値段が高いだけでなくちゃんとFK事態定期的にクーポンを配っているからな」

「私も持ってるよ! MCみたいなチラシのクーポンと期間内なら何回も使えるカードのクーポン」


 机の上にチラシなどを広げる音が聞こえてく。小豆の意気揚々とした様子に餡子は訪ねた。


「……急にどうしたんだお前?」

「え? 何が?」

「FKが好きなのは分かるが、贔屓ひいきしすぎだろ。MCもMSもお金お金言ってた癖に……食レポなんだからもっと公平な立場で評価しなきゃ……」

「……そうだよね」


 急に落ち着いた様子の小豆。


「ゴメンねお姉ちゃん……でも私、FKには凄く思い入れがあるんだ」

「思い入れ?」

「うん……同じクラスのヒイちゃんとの思い出があるんだ……」

「はぁ? ヒイちゃん?」


 餡子の反応を無視して小豆は語り出す。


「ヒイちゃんは小学生の時から同じ学校に通っててね。昔からヒイちゃんに勉強を教えてもらってたんだ。中学生に上がってからも休みの人かはよくここに通ってたんだ」

「……」

「ここには、笑い合ったことや喧嘩したこと沢山の思い出があるの。だから、私はFKのことを悪くなんて言えない。私にとって、ここは大切な思い出の場所なの!」

「ふーん」


 餡子はズズズとコーヒーを口に含む。


「まあ、思い出補正で贔屓したい気持ちは分かるが、読者からはそんな内輪ネタどうでも良いだろ。それに誰だよヒイちゃんって……友達か?」

「え? 彼氏だよ?」

「!?」





<To Be Continued…

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