MS編

MSは遅くない

 MSバーガー


 有名ハンバーガーチェーン店MCに次ぐ有名ハンバーガーチェーン店。

 日本創業のチェーン店であり、高価格、高品質と味にこだわった(特に日本人の味覚)経営理念を掲げている。

 サービスの質も良く、ネット上ではMS愛好家や愛好家ではない利用ユーザーからも味への評価が非常に高い。MS信者など言われるユーザーも多数存在する人気店である。

 「M」と白い文字で書かれた緑の看板が君達を待っているだろう。





「お待たせいたしました。照り焼きバーガー二つと、ハンバーガー二つ、セットのポテトが二つ、以上でお揃いでしょうか?」

「はーい!」


 店員さんの確認に小豆あずきは返事をする。「ごゆっくりお召し上がりくださいませ」と店員さんはその場を離れていった。


「と言うわけで、ハンバーガー店の食レポの二回目! はっじめるよー! おー!」

「……」

「おー!」

「……」

「お姉ちゃんもコーヒー飲んでないで、おー! ってやってよ!」

「……いや、別にテンションは高くなくて良いだろ。別にこの収録をそのまま記事にしないだろ? 小豆こまめ?」

小豆こまめじゃなくて小豆あずきだよ! ダメだよ! こういうのは気持ちが大事なんだよ! 楽しい気持ちじゃないと美味しい物も美味しくなくなっちゃうよ!」

「そんな訳ないだろ。お前はファーストフード店に行くために、わざわざテンションを上げてから行くのか?」

「うん行くよ! 友達と入る時なんてテンションが勝手に上がるよね!」

「JC達が店の中でワイワイ大音量で騒いでるのを想像した。周りのお客さんに迷惑はかけるなよ……まあ、この前は私も思わず声を上げてしまったがな……」


 気を取り直して餡子あんこが、説明を始める。


「今回の店は、MCとよく比較されるハンバーガーチェーン店。MSバーガーだ」

「高いけど美味しいって所だよね!」

「先に言われてしまったが実際確かに美味しい。美味しさだけのアンケートを取れば、個人差はあるが知名度もあって上位は必ず取れるレベルだ。しかも、万人に受ける美味しさなんて物ではない。かなり緻密な調整が施された味が出ているんだ」

「おお! そう言われると期待しちゃうね! それじゃあ、さっそくやっていきましょうか!」


 小豆達が姿勢を整えたようにガサゴソと音が入ってくる。

 初めに小豆が話し始める。


「それじゃあ、まずは今回頼んだメニューの詳細だね!」

「ああ、その通りだ。今回も他社比較をかねてMCの時と同じ選出でいかせてもらった。言っていくと、ハンバーガー、照り焼きバーガー、ポテト、飲み物は先に来ていたがアイスコーヒーとお茶だ。フィッシュ派とライスバーガー派には申し訳ないと思っている。でも後悔はしていない」

「そう言えばさ! MSにってあったんだね! 私はてっきりお店のメニュー欄に大きく出てるトマトを挟んだっていうのが、MSにとって定番のハンバーガーなのかと思ったよ!」

「まあ、間違えではないよ。実際この普通のハンバーガーもMCと同じくメニュー欄の端に隠れたメニューだからな。だけどこの二百円代で単価の低いのをデカデカと書くよりも、MSの名を持った看板メニューMSバーガーを前に出すのは当然だ。お店としても単価の高い物を買ってほしい。味の保証もあるからな」

「そうだよね! その方が儲かるもんね!」

「儲かるとか、金の話は止めるぞ! それじゃあちゃっちゃと食べる!」


 仕切り直して、まず二人は通常のハンバーガーを口にする。

 しばらくの咀嚼そしゃく音の後に小豆が声を上げた。


「うーん!! 凄くおいしい!!」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。


「痛い!? 何するのお姉ちゃん!」

「まるで成長していない」


 餡子は眉間にシワを寄せる。


「なんちゃってアイドルレポーターからジョブチェンジ出来ていないぞお前! だからどう美味しいのか具体的に言え!」

「言ったじゃん! 私は全ての真実を伝えたよ! 凄く美味しいんだよ!」

「語彙力……まあ、お前にとっては文章に副詞が付いたのでも、少しだけ成長したと言えるかもしれないな」

「そうだよ! 敏腕ジャーナリストに向けて、私は日々進化し続けてるんだよ!」

「いや、今のは納得した訳じゃなくてけなしたんだからな?」


 餡子は溜息を一つ吐き、渋々解説を始めた。


「話が進まないから、また私が説明していくぞ。まず、MSのハンバーガーには歯応えがある」

「あ、そう言えばちょっとカリカリだったかも!」

「そうだ。ハンズの外側のみを軽く焦がしているみたいだ。そのため歯応えを感じつつ、中身は柔らかいんだ。さあ、今度は味についてだ」


 小豆を気にせず、餡子はスルスルと説明を続ける。


「具材は見た感じ、肉にタマネギ、ケチャップにマスタードだろう」

「え? それだけなの?」


 餡子の言葉に小豆は驚く。


「なんかもっといろいろ入ってるような気がするよ。いろいろな味がするというか……言葉では表せられない不思議な美味しさ」

「ほぉ……小豆こまめにしては良い意見だ」

小豆あずきだよ!」

「それじゃあ、今度は照り焼きを食べてみるか」


 その言葉に小豆は「え!?」と驚いた。


「ハンバーガーの解説はしないの!? しないまま照り焼きバーガーに行っちゃうの?」

「ああ、実はMSバーガーの美味しさにはある共通点があるんだ。まとめて説明してやろう。よし、それじゃあさっそく食べてみるぞ」


 次に二人は、照り焼きの包み取りカブリツく。咀嚼音の後に小豆が声を上げる。


「うん! おいs……お姉ちゃん!? 何で叩く準備してるの!?」

「いや、また懲りもせず適当なコメントを言うと思ってな」

「言わないよ! 私は日々レボリューションしてるんだよ!」

「進化してるって言いたいのか? それならエボリューションだろ?」

「ち、違うよ! 私はいつも革命を起こしているんだよ!」

「お前はナポレオンか! どうでもいいわ。グダグダ言ってても埒があかないから、また私が言っていくぞ」


 餡子が一つ咳払いする。


「MSの照り焼きバーガーの大まかな素材構成は、原産地とか細かい調味料などはもちろん違うだろうが、MCと実はあまり変わらない。肉にレタスにマヨネーズだ」

「ええ!? そうなの!? MCと同じなの!?」

「強いて言うならレタスが多いことだろう。水分で味を薄めてしつこくなくしている。ボリュームも出るしな」

「でも、味が全然違うよ? あ! タレが違うのかな? MCの照り焼きは甘かったし、きっとタレが違うんだよ!」

「ほほう、それじゃちょっとタレだけを舐めとってみろ」


 餡子に言われるがまま小豆は包み紙に付いたタレを舐め取る。


「……」

「どうだ? どんな味がする?」

「……うーん、なんだろう? 甘くはないけど、何か味がしない気がする」

「それじゃあ、次にマヨネーズだけを舐めとってみろ」


 小豆は同じようにマヨネーズを舐め取る。


「うーん・・・・・ちょっと味の薄いマヨネーズって感じかな?」

「そうだろう、そうだろう」

「お姉ちゃん何か楽しそうだね?」

「ああ、素直な反応で何よりだ。それじゃあ、今度はタレとマヨネーズを一緒に食べてみろ」


 小豆は同じように舐め取った。


「ん!? 何か美味しいよ!」

「まあこの際ボキャブラリーは置いておこう。そう、この液体達を掛け合わせることで、食材のを強調させているんだ」

旨味うまみ?」

「ああ、聞いたことないのか?」


 聞いたことないよと小豆が答えると、餡子は鼻息を一つ吐く。


「味覚というのには、現在五種類に分類されている。甘味、酸味、塩味、苦味、そして旨味という物が存在する。詳しく話すと話題が脱線するから簡単に言うけど、この食べ物は旨いと感じる器官が人間の舌に存在する。舌の奥の方にあるんだ」

「そうなの!?」

「MSバーガーのハンバーガー達は素材が元々持っている旨味成分を引き出す為の組み合わせで作られている。どのハンバーガーを食べても味は違えど旨いと感じてしまうのは、厳選された素材調合のたまものだ。これを全国店舗で再現しているのだから凄まじい」

「そうなんだ! 凄いね!」

「絶対凄いって思ってないだろ? まあいい、次はポテトだ。ポテトに関してはMCとは見た目からして全然違うな」

「うん! 太くて短いね! 食べやすそう!」

「ああ、とにかく食べようか」


 二人は包みからポテトを摘みだし、口の中へと放り込んだ。


「うん、美味しいね!」

「今日はもう突っ込まないぞ。そうだ、塩の味がベースだが基本的には薄味だ。中身がアツアツのホクホクで肉厚がある。ジャガイモ本来の食感を楽しめるようになっているんだ」

「へー、そうなんだ! カリカリシナシナのMCのポテトも好きだけど、こっちもまた美味しいね!」

「好みは人それぞれだからな。MCのポテトの方が好きだって人は結構多いが、MSの方が好きだって人もいる。これも一つの差別化の一種だな」

「なるほど、なるほど、よく考えられているんだね。あ! でもさ!」


 小豆は思い出したように呟く。


「美味しい理由は分かったけど、やっぱり高いよね。それにくるのが遅いよ」





「待った!!」





 その時、餡子は机を叩き声を上げる。

 小豆は思わず、ヒィと小さな悲鳴を上げた。


「お前、さっき普通のハンバーガーを食べさせただろ! いくらだったか覚えているか!」

「二百二十円……」

「私の名を言ってみろ!」

「美代餡子……」

「ハンバーガーの値だは!」

「二百二十円……」

「この味を二百円代で食べられるんだぞ! 他にも三百円代、四百円代、更には五百円代と種類は豊富だ! 何もかも総じて高いわけではない! MCと同じく自分の財布と相談できるようなメニュー構成になっているはずだ!」

「で、でも! 今回のセットメニューも、ハンバーガーと照り焼き、ポテトセットで九百七十円! 特別なメニューを選んでないのに千円いきそうだよ!」

「確かにな。ハンバーガー単品の値段は普通だが、セットメニューは四百円越えと、安いハンバーガーを選ぶと余計に高いように思える」

「でしょでしょ!」

「なら、水を頼めばいいんだ」

「ええ!?」


 小豆は驚きの声を上げる。無視して餡子は続けた。


「ほとんどの飲食店で頼めるが、MSも水を無料で頼むことが出来る。そもそもセットで頼まなければいけないルールなんてないし」

「でもでも! これはハンバーガー屋さんの比較であって……そんなセットを頼まないなんて」

「味の比較ならまだしも、値段の比較なんてされたそのお店自体の方針という物がある。味の比較を抜かしてしまえば、お世辞にもMSを安いとは言い切れないのは確かだ。しかし、高くて行かないという固定概念があるのなら、私は予算にあった注文の仕方を提示するまでだ。それに、MSにはMSカードという戦略がある」

「MSカード?」


 ガサゴソと餡子は何かを取り出した。


「このトマトの柄が付いたカード。MSで配布している電子マネーカードだ。電子マネーはMSでしか使えないものとなっている」

「へーそんなのがあるんだ! あれ? でもその電子マネーってMSでしか使えないんだよね? それじゃあ、あんまり汎用性がないよ? そのカードを作る意味がないんじゃない?」

「いいや、意味ならあるぞ。まず、このカードに入金すると一パーセントのMSポイントが貯まる。そのポイントは一ポイント一円として扱える」

「ほー、それならMSをよく使う人ならお得だよね!」

「月の下旬にポイントの付与率が上がることもあるから、MSユーザーなら必需品だ。ギフトカードとしても使えるしな」

「そっか! 確かに商品券みたいなものだし、元々高級感があるMSのカードをもらったら喜ばれるかもね!」

「そしてだ!」


 餡子は声を大きく張り上げた。


「最大の特徴は、webでの手動入力になるがMSの公式ホームページにクレジットカードの番号を入力すると、クレジット経由でMSカードに入金出来る。つまり、なんだ!」

「……え? クレジットカードでって、お金を払う額と変わらないよね?」

「ああ、でもクレジット決済出来るというのは何かと便利なんだ。深くは言わないがな」

「へー、まあいいや! 何かお得にする方法はいろいろあるんだね! でもさ、注文した物が来るまでに結構時間が掛かるよね」

「それは、注文してからハンバーガーを作ってるからな。作りたてを提供しているからだ」

「でも、ファーストフード店としては欠点だと思うよ! お腹がすいてるから来てるのに、待たされたらファーストフードの意味がないよ!」





「それは違うぞ!」





「!?」

「私は、いつからMSバーガーをと言った?」

「え? 言ってないけど、MSバーガーってMCとかと同じハンバーガーのファーストフード店でしょ?」

「違う! ここはハンバーガーだ!」

「……へ!?」

「MSの経営理念は、早く食べ物を出すことではなく、顧客により美味しいものを提供することを掲げているんだ。世間的にMS事態ファーストフード店と分類されているが、MSは自身のことをレストランと名乗っているんだ。MSに早さを求めるなんてお門違いだ!」

「ええええええ!?」

「さあ、これでMSの良さがわかっただろ? わかったら早くMSカードを作れ! MSをお前の書いてる記事で宣伝するんだ!」

「お、お姉ちゃん!?」

「MSのハンバーガーを食べれば、誰だってMSの虜になる。この美味しさを伝染させ、MSに金を捧げるのだ!」

「ま、まさか! お姉ちゃんはMS信者だったの!?」

「ふはははは! MSは良いぞ……照り焼きソースが体に馴染むの感じる!」

「そんな……優しかったお姉ちゃんが、生粋のMS信者だったなんて……そんな……そん……な……」





 餡子の高笑いと共に、ボイスレコーダーが途切れた。

 その後、姉妹は何事もなかったように帰宅していったのだ。

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