MC編

MCは高くない

 MC


 赤い看板に黄色い「M」のマークが目印で、世界各国で展開されているハンバーガーチェーン店。

 最も有名なハンバーガー専門店と言っても良いだろう。

 とある兄弟が経営していたアメリカ合衆国のホットドック屋から始まったのは有名な話である。

 そんな有名店のMCは、日本でも多くの人達から慕われている。今でも

世界各国で黄色いつなぎを来たピエロが君達を待っているだろう!



「それじゃあ、録音を開始しまーす!」

ハンバーガーの乗ったお盆二つを席に置き、二人は着座する。





 ブツッというスイッチ音の後、明るい声である妹のの美代小豆みしろあずきと低めのトーンである姉の美代餡子みしろあんこ。そして、老若男女問わない多くの客の話し声が入り込んでくる。


「と、言うわけでお姉ちゃん! とっても有名なハンバーガーチェーン店。MCのグルメレポートを始めるよ! お姉ちゃんは解説役ね! 結構ハンバーガー好きだし詳しいでしょ?」

「ちょっと待て、何で私もお前の記事を手伝わなきゃならんのだ小豆こまめ?」

小豆こまめじゃないよ! 小豆あずきだよ! だって一緒に着いて来てくれるって言ったじゃん!」

「それは言ったが、お前がまた変なことやらかさないか心配して来ただけだ。最近非常識な行いをツ○ッターで晒すのが流行ってるだろ?」

「私はそんなことしないよ!?」


 一頻り突っ込んだ後に、餡子の息がマイクに吹きかかる。


「ふぅ……まあ、ある程度は手伝ってやるよ」

「ありがとうお姉ちゃん!」

「それじゃあまず、このレコーダーで録音した内容を記事にするんだろ? 手始めに、何でハンバーガーチェーン店の食レポをやろうと思ったのかを言っておけ。決意表明みたいな奴だ」

「え? そういうのって言った方が良いの?」

「とりあえずな。私も小説を書く為に取材調査はしているが、こういうのは今お前がどういうことを考えているのかも結構重要だ。細かく素直な気持ちを記録していけ」


 わかったと小豆が意気込む。


「今回、私が皆に馴染み深いハンバーガー屋さんを取材しようと思ったのかというと……私の予算お小遣いの都合で出来そうだと思ったからです!」

「そんな内情は素直に答えなくて良い! もっと読者に伝えたいテーマとかだ!」

「子供から大人まで幅広く愛されているハンバーガー屋さん。普段何気なく食べている美味しいお店のハンバーガーですが、どうして美味しいのかってあまり考えたことありませんよね? という身近な疑問に迫って行きたいと思い取材を始めました! よろしくお願いします!」

「あと、注文した商品とそれを選んだ理由を言っておけ。後で聞き返したとき便利だからな」


 小声で餡子が呟き、うんと小豆が答えた。


「今回注文したのは普通の百円のハンバーガーとお姉ちゃんのを利用して……」

「だから金の話はしなくて良い! めんどくさいから私がするぞ」


 餡子は一つ咳払いをする。


「今回の記事はMCのというのが議題だ。全てのメニューの味の批評をしたら記事に書ききれなくなってしまう。そこで我々はどのハンバーガーチェーン店でも取り扱っている(一部例外有りの)オーソドックスな商品、ハンバーガーとネット上で一位の人気メニューとして話題の照り焼きバーガー、そしてサイドメニューは定番ポテトを選んだんだ。飲み物は今回評価はしない、めんどくさいからな。チキフィレ派やフィッシュ派の読者には申し訳ないがこの方針で行かせてもらうか」

「と、いうことです! それではさっそく食べましょー!」


 いただきますと二人は食べ始める。

 二人はまず普通のハンバーガーを同時に口にし、包み紙をバリバリ言わせて頬張った。そして、記念すべき最初のコメントを放ったのは小豆だった。


「うん! 美味しい!」

「アホか!」


 その言葉同時にスパンと小豆は餡子に叩かれる。


「いったーい! いきなり何するの!」

「お前は適当にコメントするなんちゃってアイドルリポーターか! 美味しいだけじゃ読者に伝わらないだろ!」

「でも、美味しいし!」

「どう美味しいのか伝える。それがお前の仕事だ!」


 餡子はアイスコーヒーをチュルチュル啜り話し始める。


「いいか。まず音声だけの収録だから形や見える具材を説明しろ、厚さ約一二センチぐらいの肉、肉はパティと呼ぶらしい。薄目の円型のパン。パンのことはハンズと言うのだが、全体的に薄型の形状をしたハンバーガーだ。肉上部とハンズの間には黄色いマスタードとケチャップ、微塵切りのタマネギ、そしてピクルスが入っているんだ」

「ほう!」

「マスタード、ケチャップ、ピクルス、この具材達は全体的に酸味があるんだ」

「酸味?」

「酸っぱいんだよ。MCのハンバーガーは、まろやかで酸っぱいのが特徴なんだ」

「へーそうなんだ! あ、私ピクルス苦手だからお姉ちゃんにあげるね!」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。


「お前話を聞いてたのか! 今お前は、MCのハンバーガーの美味しさの要素を一つを潰したんだぞ!」

「えーだって苦手なんだもん!」

「まあ、確かにピクルスが苦手だって人は多いな。だが元々アメリカのホットドック屋から始まったお店だ。この酸味をタマネギとケチャップで殺さず包み込んだ味わいこそ、ある種伝統に近い形式のハンバーガーとも言える味だ! よし、これに続いて照り焼きバーガーの味を説明するぞ」


 いただきまーすと、二人は照り焼きバーガーにカブリツく。しばらくした後、小豆が声を上げた。


「うん、美味しい!」


 スパンと小豆は餡子に叩かれる。


「痛い!」

「お前ワザと言ってるだろ? そんなに叩かれたいのか?」

「なんで! だって美味しいじゃん」


 餡子は溜息をついて説明を始める。


「さっきと同じ流れで説明しようか。まずは大きさはさっきのハンバーガーと一緒だ。ゴマのかかったハンズ、照り焼きソースで包まれた肉、レタス、そしてマヨネーズで具材は構成されている」

「確かに、言われてみればパンの上にゴマがかかってるよね。何でなの?」

「私も正確なことはわからんが、水分の多いメニューを挟む際に適しているとか、店員が単価の高いハンバーガーを見分けるためにあるとか、いろいろな説がある」


 へー、と小豆が納得しつつ照り焼きにカブリツく。それを気にせず餡子が解説を続けた。


「まず、お前が食べてるその照り焼きだが……甘くないか?」

「あ! そう言えば甘いね!」

「ああ、甘ダレのソースを使われているからな。更にマヨネーズでコクを出し甘さを強調させているんだ。そこにあえてレタスを入れることで水分を作り出し、甘さが口の中で浸透し過ぎないように薄めてくれているんだよ。つまりMCの照り焼きは甘いのが特徴なんだ」

「そうなんだー、凄いね!」

「お前、凄いって言ってるだけだろ……まあ良い。それよりこの二つのハンバーガー、価格帯の違う商品ではあるが味の方向性が全然違うんだ」

「そうだね。酸っぱいのと甘いのだもんね」

「今回は文字数の関係で二つしか紹介出来ないが、他のハンバーガーも全く違う方向性の味ばかりだ」


 ここで餡子は一間おき、


「それと、残りはサイドメニューの定番であるポテトだ。細目でスティック状で塩を多めに塗してある」

「うん! しょっぱくて美味しいよね! 私はシナシナになってるやつが好きだよ!」

「ああ、ポテト一本一本の油の濃さが違うからな、一つの商品で二つの触感が味わえるな……こんな感じでいろんな味のバリエーションを用意し多くの需要、主に玩具なんかでファミリー層なんかを獲得する為にMCの商品は味が昔から極端に違うんだ」

「へー気づかなかったよ! でも、昔に比べると値段が高くなったよね」


 意気揚々と話す餡子だが、小豆は否定を差し込んでくる。

 淡々と語っていた餡子は一瞬間を開け、


「異議あり!!」


 餡子がバンと机を叩いた。


「!?」


 小豆は突然の姉の変貌に毛が逆立つ。


「お前、今言ったことを記事に書く気なら……その言葉を斬らせてもらおうか!」

「か、顔が怖いよお姉ちゃん! でも実際そうだよね。昔は十個ぐらい勝買っても千円いかなかったじゃん」

「円高の影響で最高二百円前後、最低百円以下の値下がりも確かにあった。しかしだ! 百円から二百円代商品の数が多いのも現状確かだ。そして他社チェーン店よりも安い! クーポンを何処よりも配布している上に五百円代バーガーの味は好評なのは事実!」

「えー……でもでも! クーポンを使っても高いよ。だって今回使ったクーポンだって六百十円を五百八十円になったんだよ。三十円しか変わってないよ! 全然安くなってないよ!」

「言うて単価の元々低い商品の値引きだぞ! しかも大勢の顧客に配布しているんだ。MCは身を削ってくれているのにお金お金と言うな! 昔に近づけるように経営努力をしていることに感謝しろ!」

「うう……私達の家にお金がないからこんなにひもじい思いをするだね」

「いや家には金はあるからな、お前ががめついだけだよ」



 その後、録音を終了し取材を終えた。

 後日、小豆はこの取材を記事にした所、そこそこの評判を受けたのであった。

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