ハンバーガールず!
バンブー
本編
プロローグ
プロローグ
「ボタンは……ここかな?」
◆
ブツッという音と共にボイスレコーダーの中へと、元気な女の子の声が入っていく。
「よし! えっと……おはようございます! 中等部二年、報道部次期部長の
ドタドタと階段を駆け上がる音が収録され、息の上がった美代小豆の声とうっすら心音も混ざる。
「ここが問題となっている女子大学生の部屋……私の姉、
ガサガサと胸ポケットに入れたボイスレコーダーを小豆は抑える。緊張している様子で、心音が更に強く聞こえてくる。
「……これが、私の目指すジャーナリストへの第一歩!」
深呼吸をした小豆は、勢いよくドアノブに手を掛け部屋へと押し入った。
「ん?」
すると、部屋の中に居た女性が何かをくわえたように喉を鳴らす。
「ええええ!? お姉ちゃん、いくら休日とはいえタンクトップにパンツ一丁なの!?」
「おう、着替えるのダルいしな」
「パソコンの前でタバコをくわえちゃって! 女子力のジョの字もなさ過ぎだよ!」
「あ? 急に人の部屋に入ってその言いぐさはなんだ? 根性焼きされたいのか?」
「タバコくっさ! それに部屋汚い! 下着脱ぎ捨ててあるじゃん! カップラーメンの容器も捨ててないの!? ちゃんと掃除しなよ!」
「うるせえ、今小説が良いところまで進んでるんだよ。気が散るからとっとと出ていきなマイ・リトル・バカシスター」
餡子の物言いに、小豆は「ふぅー」と溜息をもらした。
「全くもう……良いネタになると思ったけど、これじゃあ恥ずかし過ぎて記事が書けないかも」
「はあ? ちょっと待ちな。記事ってなんのことだ? 良いネタってお前もしかして……」
「もう……まあいいや! はい! それでは突撃取材の再開です!」
ガサゴソとゴミ袋を退かしていく音が聞こえてくる。
「ひゃー、なんでこんなにビニール袋があるの? ちゃんと捨てなきゃ!」
「おい! その胸ポケットに入ったボイスレコーダーみたいな物は何だ! まさか録音してるのか!?」
「お! これは!」
無視する小豆はビニール袋の中身を漁り始める。そして、何かを見つけだした。
「おーこれは凄い! お姉ちゃんの脱ぎっぱなしの下着の中に、カッコいい男の人二人の絵が描かれた薄い本を発見! どれどれ中身を確認して……」
言葉の途中で大きな鈍い音が響き、録音は中断された。
◆
姉である美代餡子は肩までのばした黒髪を後ろにまとめ、くわえていた輪ゴムで止める。
「おい、これはどういうつもりだ
タンクトップに皺の付いたジーンズ。やる気を感じさせない細目で、頭を抱えてヘタり込む妹を見下ろした。
「
桃色のシャツに黒いフレアスカート、これまた肩までのびた黒髪から腫れ上がったタンコブを涙目で抑えつつ、彼女の妹である美代小豆は声を上げた。その様子を見た餡子は溜息を漏らす。
「どうせまたアレだろ? 取材だとか言ってあることないこと書きまくってる新聞部の活動だろ? 前は確かツチノコ発見だったか? あ、天使少女発見ってのも言ってたな? いい年なんだから、パパラッチごっこはやめなさいな。黒歴史になるよ」
「新聞部じゃなくて報道部! それに私は遊びでやってない!」
腫れたコブが引かないまま小豆は勢いよく立ち上がる。
「私は将来、敏腕新聞記者になって世界に渦巻く陰謀を暴くんだよ!」
「うわー凄く無理そう……」
妹の夢を一蹴する。更に餡子は訪ねた。
「それはともかく、何でアタシの部屋を記事に書こうと思った? こんな部屋のことを知って、誰が得をするんだ?」
その問いに小豆は自信に満ちた表情を浮かべる。
「クラスの男の子達が、女の子の部屋に興味あるって言ってたんだ! だからお姉ちゃんの部屋を特集で記事を書いたら話題になると思って!」
「なんて迷惑なアイディアだ。そして男子達の夢を叶える為に、わざわざアタシの部屋を選ぶのも悪意がある。自分の部屋の記事でも書いてろ。そっちの方が読者も釣れるだろ」
「えー、やだよ。恥ずかしいもん」
餡子は小豆のコブを引っ叩く。
「あ痛い!? お姉ちゃん酷い!!」
「酷いのはお前のモラルだ」
姉は、妹に対して肩をガックリと落とす。
「お前は記者を目指す前に道徳心や常識を学べ、そのまま万が一記者になれたとしてもネット上でマスコミのコの字に濁点を付けられて呼ばれるぞ」
「そんなことない! 私ならきって敏腕記者になれるよ!」
懲りない妹に姉は軽く頭を抱えつつ、レコーダーを奪い取った。
「とりあえず、これは没収な」
「えー!? それは借りてきたやつなのにー!!」
「それじゃあ、音声データを消したら返してやるよ」
「そんなー! 取材のネタがー!」
「ったく、アポなしで録音しやがって……然るべき所に訴えないだけましだと思いな」
餡子はレコーダーをポケットにしまい、パソコンの前に座り直した。そして足下にあった「M」と記された紙袋を机のキーボードの隣に置く。
紙袋の中からマスタードの絡まったトマトケチャップとパンの香ばしい臭いが溢れた。中から取り出した包み紙をバナナのように剥き、白ごまのまぶされたキツネ色のハンバーガーが覗かせる。
「やるなら、もっと健在な取材をしな。例えばスポーツとか……グルメレポートとかな」
そう言いながら餡子は、ハンバーガーを頬張りながらパソコンに向かい直した。
その瞬間、真空の小豆の脳に閃光が走った。
アドレナリンの過剰分泌で視界がスローモーに見え、ドクンドクンと心音が骨と細胞全体に響きわたる。
「グルレポ……ハンバーガー」
過去のどうでも良い記憶が小豆の中で隕石群同士の衝突しあい火花を散らしながらインスピレーションを具現化させる。
健全で、
中学生層に親しまれて、
楽しくて、
美味しい取材!
やがて彼女の頭にある紺色の宇宙が強大な光に包まれ爆発した。
「そうだよ!! ハンバーガーのグルメレポートだよ!!」
「はあ?」
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