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音の革命
――概要―― [編集]
音の革命(おとのかくめい、英 : Phonic Revolution)とは、二〇〇八年から二〇〇九年にかけて世界中で勃発した、音楽に関する一連の変革運動のこと。二〇〇八年末に日本の東京で行われた音楽アーティストのライブイベントによって引き起こされた騒乱に端を発する。同時期に発生していた世界金融恐慌(→「リーマン・ショック」の項を参照)に対して民衆が抱いていた不安・不満に飛び火し、世界的な暴動へと発展した。
近現代において大規模な動乱を経験してこなかった日本政府は、この動乱をしずめるのにかなりの時間・人員を要した。二〇〇九年半ばに事態はようやく鎮静化に向かったが、一部の政治家や民衆は動乱の原因となった音楽に対して嫌悪を抱くようになる。これらの音楽反対派は世論での発言力を増し、二〇〇九年一〇月、音楽反対派に圧される形で、「音楽の視聴や演奏の禁止等に関する法律」(以下「音禁法」)が国会にて成立した(なお、日本国内で音禁法が成立してのち、諸外国でも音楽の禁止に関する法案が相次いで成立している)。これにより音楽の視聴や演奏は不可能となり、古来より綿々と続いてきた音楽の歴史は、事実上断絶したこととなる。
音禁法はさまざまな方面に重大な影響を及ぼし、音に対する考え方が根本から覆されることとなり、音禁法に抵触しない範囲で音を使用する方法がしだいに発達していった。そのため、この一連の変革運動はたんに「音楽革命」ではなく「音の革命」と呼ばれる。
――関連項目―― [編集]
・「世界金融恐慌」(「リーマン・ショック」)
・「音楽の視聴や演奏の禁止等に関する法律」
・「MES CHERIS」(変革運動の発端となったライブイベントでの演奏バンド。
音の革命後、メンバーは全員行方不明)
・「LIFT」(バンドがライブを行ったライブハウス会場)
出典 :フリー百科事典
「ふぅん」
ディスプレイに映った文字列を眺めながら、僕は小さく息をついた。握っていたスマートフォンをベッドの上に放り投げ、それに引っ張られていくみたいにそのまま自分の身体もベッドに放り投げる。ばすん、と跳ねたスプリングの上でスマートフォンが躍った。
世界中で音楽が禁止されている。
聴くことも、弾くことも。音楽に関わる事はすべて、法律で禁止されている。
テレビからは音楽番組が消え、CMからはBGMが消え、動画投稿サイトからは「歌ってみた」が消えた。街からはストリートミュージシャンの演奏が消え、駅の発車ベルの音楽が消え、交差点の信号機から流れる青信号のメロディが消えた。腐るほどたくさんいた音楽アーティストはほとんどが引退や解散を発表し、今は別の道で活動をしていたり、業界を退いて一般人の生活をしていたり、行方がわからなくなったりしている。
街はとても静かになった。静かになりすぎて、雑音しか聞こえなくなって、街はとてもうるさくなった。
僕自身、音楽がまだ世界中で息づいていたころのことは、正直あまり憶えていない。けれど、この革命が進行しているあいだ、世の中でなにかとても恐ろしいことが起こっているということだけは、こども心に理解していた。
「音の革命、ねえ……」
何度もなんども読み返したそのフリー百科事典のその記事を、頭の中で反芻する。
音の革命。今から数年前、全世界で発生した変革運動。それは一組の音楽アーティストのライブによって引き起こされたという。バンドの名前は「MES(メ) CHERIS(シェリ)」。どういう意味かはわからないけれど、僕はこのバンドを知っている。このバンドの名前を聞いたことがある。そして、このバンドの音楽を聴いたことがある。二年前に父親の「魔窟」で、僕はそれを見つけたのだ。音禁法が成立してから何年もたって、世の中のだれも音楽を聴かなくなって、音楽を演らなくなって――彼らの音楽によって世界中から音楽が忘れ去られたころ、僕は彼らの音楽に出逢った。彼らの音楽に魅せられ、音楽を忘れられなくなった。文字通り、音楽はこの世界を変え、僕の世界を変えたのだ。
音楽によって変わってしまったのはそれだけじゃない。それはたとえば、怜未の家族。
怜未の家族は音楽一家だった。父親は大学の音楽科の教授で演奏家としても有名であり、母親も歌手として活動していたらしい。歳の離れたひとりの姉、世羽(せいは)さんは、学校を出てから人気音楽アーティストのスタッフとして働いていたと聞いている。そんな環境のなか、怜未自身が音楽に触れることは必然であった。彼女はとても音楽が好きだった。そして家族が好きだった。そんな彼女の環境を、音の革命は変えてしまったのだ。大好きだった音楽に触れられなくなり、大好きだった家族が笑わなくなったとき、怜未の気持ちがどんなものであったのか、僕にははかり知ることができない。
音楽は世界を変えてしまった。
そして、世界は音楽を忘れてしまった。
音楽の素晴らしさに気付いて、それがもう喪われてしまったことを知って、僕はもう、この世界は終わってしまっていたんだと思った。
その時から、僕らのまわりに流れていた時間が、ぱたりと止まってしまったみたいに。
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