前のエピソード――４－１　日曜の昼過ぎになってようやく雨は止んで、にわかに夏の気配が漂い始めた。

　どうして殺したのか、ですか？

　ううん、ちょっと難しい質問ですね。一般常識とか、社会通念とか、そういうつまらない話を差っ引いて聞いて貰いたいんですけど、そもそも殺人に動機って必要だと思いますか？　あ、いや違うかな。動機から殺人という行為に至るまでの過程を、筋道立った理由に基づいて行動しているひとって、一体どれだけいるんでしょう？

　わたし、人間の理性だとか良心をそんなに信じてないんです。人間不信ってことではなくて、わたしたちは自分の行動を思ったように制御できないんじゃないかって、思うんですよ。

　思考し、理解して、行動に移す。当たり前のプロセスみたいですけど、普通そんな悠長なことしてられないでしょう？　脊髄反射っていうのがありますけど、生き物の本質はあれに近いんじゃないかって。

　人間には知性がある？　まあ、そうですけど。知性って、あなたが言うほど神聖で偉大なものですか？　人間みたいな知性がない虫や動物でも、高度な社会を作ることはできるんです。行動するのに必要なのは、知性じゃなくて本能――もっと言えば、衝動なんですよ、きっと。

　人間は、実のところ衝動的ないきものだから、生きるにも殺すにも、すべては衝動のままなんです。だから、どうして殺したのかと言われれば、答えは単純で。

　さっちゃんを殺そうとする衝動を、抑えられなかっただけなんです。