述懐2【取調室にて】

 大磨上無銘おおすりあげむめい花散里はなちるさと


 ええ、たぶん県指定文化財の目録にはそういう名前で挙がっていると思います。すりあげ、というのは刀の長さを切り詰めることです。刀の根本、なかごの方を切って短くするんですが、刀の銘はこの茎に刻み込まれているんです。大磨上というのは銘が消えるほどの長さを切り詰めたもので、ですから花散里はもともとかなり長い刀だったと言われているんです。

 花散里という名は後から所有者に名づけられたもので、茎に銘の名残りの草冠が残っているのと、この刀の刃紋が橘の花に似ているということで、源氏物語の一帖の名を借りて名づけられたとか。このへんはさっちゃんの方が好きだったかな。ん? ああ両方の意味ですよ。意外に刀が好きで、恋愛小説が好きなロマンチストだったので。

 それはともかく、花散里のことでしたね。大磨上で刀身を短く切り詰めたのも、こんな風雅な名をつけられたのも、前の所有者が女性だったからなんです。

 『包丁さま』の養女に、かたみの姫と呼ばれる美しい姫君がいたんですが、この姫が武道を嗜んでいたそうで。『包丁さま』も娘の見事な腕前に感服して、秘蔵の鎌倉期の名刀を引っ張り出してきて磨上げさせたというわけなんです。それだけなら大したこともない普通の話なんですが、この話には続きがありまして。


 筐の姫は、どうやらこの刀で領民を斬っていたようなのです。

 それも、かなりの数を。


 『包丁さま』の子孫の家にこの姫の日記が残されていて、そこには斬った相手の背格好やその日の天候、斬り方なんかが書いてあるらしいんです。もちろん、後世の創作かもしれませんが、少なくともこの刀を肩身の姫が持っていたことだけは間違いありません。

 だから、というわけではありませんが、花散里が再び人斬りの刀となったのは、ある意味必然だったのかもしれないと思うんです。


 妖刀……そうですね、もしかしたらそんな呼び名が相応しいのかもしれません。

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