第8話《藤原信頼》


プワァー、ポワワァー


雅楽の音と小春日和の暖かい日差しに包まれた大内裏では、盛大な叙勲と報奨の宴が行われていた。


まだ二五歳になったばかりの信頼はその才覚と家柄により正四位下を賜ることになっている。

数年前年にはその資質を見込まれて父忠隆の知行国でもあった陸奥と武蔵の守を受領した。


信頼はこの虚栄に満ちた空間が好きではなかったが、父と一族の期待に応えるために品行方正に振舞い続けていた。

しかし既に朝廷の行く末が見えている信頼にとっては、無駄に時間と金銭を浪費していくこの無様な宴から早く解放されたかった。



信頼は生まれながらに藤原北家の再興を期す父に兄達と共に厳しく育てられた。


同じ藤原の子供達が昼寝をしている時も、蹴鞠や石投げや駒で遊んでいる時も一日中、三六五日、学問と武練は休むことなく続けられた。


父忠隆は息子達の学問の為にわざわざ興福寺から僧侶を呼び寄せ、武芸面は桜忍者によって厳しく鍛えさせた。


九歳の時にはすぐ上の信俊に、十一歳の時には次兄の基成に、そして十五歳の時にとうとう長兄の隆俊を学問でも武練でも追い抜き、四男でありながら家督を継ぐことを命ぜられ、更に厳しい修行に明け暮れた。



そして遂にこの日がやってきた。


正四位下を賜る事により名実ともに父忠隆の後継者としてだけではなく、あの藤原信西の対抗馬としても注目される事になる。


天皇の名代として太政大臣により官位が上位から順に六位まで読み上げられると、


プワァー、ポワワァー


更に盛大に雅楽の音が鳴り響き中庭のイチョウもわずかに色付き、信頼の門出を彩る準備を始めたようだ。

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