赤い霧
赤い霧:提
唐突の転校生(甲)
****前書き****
横書きで読みやすい改行の入れ方を模索中です。それと、(甲)で察して欲しいのですが、この話は長いです。上中下には収まりませんでした。
****本文****
4月、遅咲きだった東京の桜が散り始めた頃である。入学式が1週間ばかり前に終わり、後輩が入ってきて「遂に高校2年か」などと俺は思っていた。
その日は朝から快晴で、春らしい陽気であった。昼休み、
同日、放課後、俺は「文化部」なる謎めいた部活の部室を前にしていた。
部室は部室棟の最奥を半不法的に占拠している。さすがは現生徒会長の
生徒会長のどこにこんな権力があるのかなんて知ったこっちゃない。だが現にこんな部活が存在してるんだから、権力があるんだと思う。
俺はドアを開けた。去年できたばかりの新校舎のドアは簡単に開いた。まだ錆びてないんだな。
「来たわね。」
ああ、埃っぽい。
「急に呼び出して何なんですか。」
靴を脱ぎながら聞いた。無意味に畳敷きにされた床のせいで、部室に上がるには靴を脱がねばならない。俺は
「
唐突に聞いてきた。そもそも部室に来いと連絡をよこしたのも唐突だったから驚くようなことじゃ無い。どうせ
「そりゃまあ。」
「じゃあ話が早いわ。」
「これよ。」
「編入手続きのやつじゃないですか。一体どこからこんなものを……」
俺は
「それは内緒よ。そんなことより彼の名前、見てみなさい。」
転校生の入学手続き書類なんて、
呆れながらも言った。
「
「……そういうわけで
何に気をつけるのかは察しがついた。失われた音のことに違いない。どうやら今回の呼び出しはただの思い付きではないようだ。
となれば、一つ問題がある。
「
「まだよ。
戸を引く音がする。
「いきなり呼び出してなんなのよ。」
妹の方も改善の余地は大いにありそうだ。
ただ
冗長的な婉曲表現を余りしないというか……。ただ単純に気が短いというか……。どういうわけだか、いつも人を見下しているというか……。とにかくいつも微妙に上から目線で、人を弄るのが好きなのだ。ああ、結局、性格がよろしいのか。
10、いや、20秒ほど沈黙が続いた。そして
「幡宮が来るわ。」
「そう。それを私に伝えて何か?」
と言った。
「
「分かった。じゃあ私、今日、巡回があるから先に帰ってて。」
ピシャリとドアが閉まる。ことごとくツンツンしている奴だ。
窓の外には黄昏の空が広がっていた。カラスに混じって良く分からない何かが飛翔していた。
「
「ん? あ! 忘れてました。行って来ます。」
俺は荷物を持って、慌てて部室から飛び出した。
巡回の当番は18時から20時——
俺は自転車を飛ばす。
前を走る自転車の少女がウエストまで伸ばした黒髪を
「
少女に尋ねた。
彼女は
少女が自転車の速度を落として並走してくる。
「何? 今、急いでるの。」
素っ気なく言った。
ああ、やっぱり
そっか、
「分かってるよ。俺もだから。」
「でしょうね。だって今日、私とだから。」
衝撃的な言葉が
「え? 今日、
記憶を辿るが思い当たる節は無い。ただ、言われてみればそんな気もしてくる。
「むしろ誰だと思ってたのよ。」
「
「あの人は本町の時しか出てこないでしょ。あら、それとも
「なんで
断言しよう。俺はロリコンではない。というか、そもそも、中3はロリじゃない。
「キモい。いっぺん死ね。」
どこから取り出したのかよく分からないカッターナイフをいきなり後ろに振りかざしてきた。刃の厚さが1ミリ近くある大きいやつだ。
「ぅおい、危ないな。」
俺は慌ててハンドルを切る。その反動で転倒しそうになるが、なんとか体勢を立て直した。
「——俺を
俺は冗談めかして言った。
キッ——
「酷いのね。
後ろから
そういえば
「ああ、悪い悪い。冗談だよ。」
とりあえず、こういう時は謝るのが吉だ。
「分かってるわよ。」
そう言って、今度は唐突に、
「——それでも嫌なものは嫌なのよ。」
珍しい物でもないのだ。特に差別されているわけでもない。だから、
────────
なんとか時間までに持ち場に着きた。俺と夏織、二人揃って息を切らしていた。毎日、大体1分遅れの6時の鐘がちょうど鳴り始めたから、ギリギリ遅刻というのが正しい。
考えてみれば、タイムカードも監督官もいないのだから多少サボってもバレない気がするし、実際、以前はそうだった。最近はシステムが少し変わって以前のように30分とか1時間とか遅刻するとバレるのだが、5分やそこらじゃバレないと聞いている。それに
「
人避けである。夜中ならまだしも、夕方の住宅地は人通りが多い。術を見られると後処理が厄介なのだ。まあ、専門職の人を呼ぶだけなのだが……。
俺は人避けを受け取る。発煙筒のようなそれに手持ちのマッチで点火した。まるで筒に吸い込まれるようにしてマッチの火は消え、代わりに筒が青白く光りだす。
「人避け、1本で良いの?」
俺はそいつを自転車のカゴに放り込みながら聞いた。
「私がもう一本持ってるから。」
「結界、張っちゃうわ。」
続いて
「うーん、3匹。……こいつらが全部敵対性の
「そりゃ
「
「そんな強力な術はねぇよ。あったとしたら禁忌にでもなってるでしょ。」
「一撃の威力が小さい。全体攻撃もできない。術師ってほんっと弱いわね。こんなのが
術師は
「で、どこから行くの?」
「着いてきて。」
いつの間にか自転車にまたがっていた
────────
1匹目は近くの公園にいた。1人目とした方が正しいかもしれない。どちらにせよ、
「あ、
「あらあら、
「
「
「ふーん、式神、あなたがそんなに離れて大丈夫なの? ここから店まで500メートルはあると思うけど。」
「あら、私を誰だと思って?」
「そう。まあ、別に私が知ったことじゃないわ。」
「外れ」だったことが悔しいのか、無駄足を
変電所がある細い通りで、
「あの女。」
「人避け」をしているにも関わらず、この距離まで近付いている時点で十二分に怪しい。女の背後だけ陽炎のようなものが見えた。不定形の
「確認してきてくれる?」
「分かった。下は着替えなくて大丈夫?」
上を着ても、スカートが汚れるんじゃないか?
「
結界からは
俺は溜息を一つ吐く。自転車を止めて女の方に歩いていった。
「あのー、すみません。」
そう言いながら女の肩に手を置いた。触れて初めて
とにかくこれで、
「え? 何?」
女は驚いたように俺の手を振り払った。おお、中身はまだ人間なのか。中々気が強そうな人だ。
俺はこう言う時のお決まりの台詞を言う。
「いえ、怪しい者では無いんですけど……」
御免なさい。怪しい者です。
女が抵抗しないうちに俺は特にこれといった効果を持たない弱い
倒れる女が傷つかないように支えて、路肩の比較的綺麗な場所に女を置いた。
それと同時に、何かそれなりの大きさの物が一瞬にして背後を通過した。ビュンと通り過ぎたそれは、風という余韻を残して、女から分離された
俺は
「
俺は言った。そして、女を負ぶって歩いく。幾ら何でも路肩に放置するのは可哀想に思えた。
変電所の隣にあるアパートの階段に女を座らせた。数分もすれば気がつくだろう。
「
俺は
「ん?」
まだ
「大丈夫?」
俺は聞く。
「大丈夫よ。
残念ながら真意は理解してくれなかったようだ。
「うん。俺がしたのはこの人から
簡単に剥がれたときは、中に残っていることがあるのだ。
「大丈夫。それも確認してあるわ。」
「そう……ああ、そうそう、最後の一匹は?」
「そこ。」
「とりあえず、それ、食うのか捨てるのかはっきりしろ。」
「ん。」
「来て。」
そう言われて、俺も柵をよじ登った。
「ここ、よく出るのよね。」
確かにこの変電所はよく出る。週1回程度の割合でここに
3匹目は、1人目に続き3人目とした方が良さそうなタイプの
「下がって。」
「——人型は厄介よ。」
「言われなくても。」
俺は制服の懐に忍ばせてある札をすぐに出せるよう構える。
3人目の
人型は7割型友好的だが、残りの3割程度の敵対的な
「
「ええ。」
「少し話してみる。
「え、ちょっと、危ないでしょ。」
「大丈夫、多分あの子、危なくない。」
と思う、と小さく付け加えた。
「勝手にしなさい。」
少女の
「ねえ君。」
話しかけてみる。今度はちゃんと少女がこちらを見た。青に近い目をしていた。細部を見れば見るほど人間でないことが分かる。
「えーっと……、ここ、何処かわかる?」
意味不明な質問をする。俺は話しかけると言いながノープランであった。少女は静かに首を振った。
「名前は?」
またも少女は首を振った。
少女が空を見上げる。俺もつられて見るが、特に何もない。既に暗くなった空に
「……
唐突に少女は呟いた。
「え、何?」
意味の分からない俺は聞き返した。
「
少女はまたもそう呟いた。
その時、横から強い風が吹いた。見れば体調3メートルはあろうかという白い狐がいた。
「
俺は言った。
「この子?」
「はい。」
答えたのは
「結界、解いてもらっても良いかしら?」
「蛇の道は蛇。大丈夫よ。私が言うことを信用できなくて?」
「怖かったわね。」
そう言って、
暫く少女の鳴き声が聞こえた。それから
「眠っちゃったみたい。この子は私に任せてもらえるかしら?」
「別に良いけど……。こっちで生活をさせるなら、ウチに連絡を入れてちょうだい。
「分かってるわ。」
「疲れたわ。
「
「何って……、便利なパシリでしょ?」
「お前な……」
「そこに自販機あったでしょ。何か買ってきなさいよ。」
さっきのアパートの近くに自販機はあった。既に女はいない。
「あいつ、まさか、これを買って来いという意味で160円渡したのか?」
自販機の商品なんていつ確認したんだよ。ちゃっかりしてるだよな……
ん、と買ったサイダーを
「よく分かったわね。偉いわ。」
「160円の物はこれしかなかった。」
「そう。」
「飲む?」
「ああ。」
俺はそれを受け取って飲んだ。
「間接キス。」
「は?」
キャップを閉めながら俺は言う。始めからそう言うために俺に飲ませたのだろう。こいうのには乗らない方が良い。
「ヘンタイ。」
「おい。」
「
「いつストライクゾーンが広いと言った? それに、お前は絶対ウブじゃ——」
唐突の腹パンを
「ウブで可憐な少女。」
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