VI.

 ――そして、今。

 私は血の海の中にいる。

 一週間と少し前。私は呪いあれと祈った。

 その願いは、果たされたのか。

 その数日後に見た夢。

 「内部破裂する人間の群れ」。目覚めのすこぶる良かったあの夢。

 それが叶ったのか。

 ここに住む人間たちが次々と爆発し、撒き散らされた血が建物を満たし、私がこの手で地上へと排出させたのか。

 『ギムナリア』という冠を付けた、私の職場。遺体廃棄をするための会社。遺体を運ぶ死神。それらは皆『浄化』され、あの夢のように、正しく清潔に処分されたのか。



 これは夢なのか。ひどく静寂な街も、体中を濡らした血の海も、すべて幻なのか。私は混乱している。

 そういえば、と尻もちをついていた身体を起こし、辺りを見渡した。

 そしてふと、道の少し向こうに立つ影を見つけた。

 目を凝らし、ああ、全てはたまたまなのだと安心したがっている私に対して、その影は一、二歩前へ踏み出して、手を伸ばした。少しぎこちない歩き方だ。



 その影は、少女だった。

 右脚はあらぬ方向へねじ曲がり、指先は明後日の方向へ折れており、頭からは血を流し続けている、病的なまでに美しい顔立ちの少女だった。

 彼女は私を見つめ、手を伸ばし、小さく笑った。あまりに美しく、あまりに恐ろしい笑みだ。

 その姿を見て、私は血の波で満たされた地面を強く叩いた。

 そして笑った。



 ああ、夢であってくれ、と。

 ああ、現実なのだろうか、と。

 どちらにせよ、覚めることはないのだろう、と。

 あの赤子はきっと、彼女にやどり、今まさに私へ報復しようとしているのだろう、と。

 百円玉を失う悲しみ。

 行き場のない怒り、悲しみ。

 それらを携えて、今、この街には、私と少女だけが立っている。

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