”0=1”

0.

 「死ねばいいのに」と空耳が仰る通り、私はいらない子なのです。邪魔者、目障り、

 何だって一緒。



 私はダメになったのです。どうやらそうらしいのです。

 私にはその理由が分かりませんが、あなたから見ればきっと合っているのでしょう。

 私はダメになったのです。私以外の誰もが、きっとそう思っているのです。

あらゆる雑音を私は嫌います。おこがましい事でしょう? 生きている限り、死ぬま

で苦痛を伴うというのに。



「じゃあ死ねばいい」。言葉にすれば容易いでしょう。ではその靴紐で首を吊るとし

ましょうか。もしも紐が切れてしまったら、誰かに目撃されたら、そもそも死に場所が見つからなかったら……。不安が脳内に溢れ出ます。変な話ですが、これが真実です。

 不安から逃げたいというのに、その不安が故に死ぬことを選べない。



 私はダメになってしまいましたが、実は貴方だってダメになっているのかもしれませんね。いえ、失礼なことを口走ってしまってしまいました。すみません。

未来など、知る由もないことです。タイムマシンでも完成しない限りは不可能な話で

す。



 ところが何故でしょう、時にその未来を「知りたくない」と拒むのです。私は知りたい。

 でも、五年後、十年後だとかそういった未来ではありません。死んだ後の話です。この目に見えるものは何も無くなり、耳に届く音は一切絶え、何が残るのでしょうか。私は怖いです。怖いのです。わからないから怖いのです。



 ああ、また誰かが大声で叫んでいます。正直うるさいです。私の知ったことじゃない。思ったことをそのまま口にするって、そんなに気持ちのいいことなんでしょうか。私はあまり喋らない方なので、よくわかりません。

 いま、こうして貴方に向けて話している言葉だって、いつ変なことになるかわかりません。

 話が逸れました。すみません。何かイライラすることがあったら、「わー!」とか「あー!」とか、いかにもイライラしていますよーって声を出す人がよくいますが、あれは何なんでしょうか。あてつけ――って言えばいいんでしょうか。私にはそれをする意味がわかりません。だって不愉快ですから。自分自身も、それを聞く周りの人も。



 それでも、仕方がないことだとは思います。そういう声を聞いてしまったら、私だって「ぎゃー!」とか「うるさーい!」とか、叫びたくなりますから。

 あ、また何か喚いています。うるさいです。

 窓の向こうで、鳥が飛んでいます。時々考えるのですが、鳥は死ぬ時どんなことを思うのでしょうか。犬や猫なんかの目をじっと覗くと、私の顔が映り込んでいるのが見えます。  



 彼らは、私達と同じように『私』を『私』と認識しているのかな、と考えています。

 それと同じです。

 うるさいなーってちょっと蹴ったって、みんなきょとんとするんです。

 それで、ああって納得しました。この子たち、生きているとか死んでいるとか、わからないんだって。

 私も鳥になりたかった。



 最近寝られなくなってきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る