IV.
――四日前、もしくは五日前。さすがにこの辺りからは時系列があやふやだ。
私は浄化活動中の避難生活を謳歌して、映画を見たり本を読んだりしていた。大抵の人間はシェルターに登録し、そこで生活をしているのだが、消毒液は吸引さえしなければ問題ない事を私は知っている。
つまりマスクさえしていれば、本来は外に出たってさほど問題はないのだ。肌荒れや軽度の炎症くらいなら引き起こされるかもしれないが、わざわざお金を払ってまで狭苦しい牢獄に入る理由などないのだ。
頬をぽりぽり掻きながら、解禁の日に会社へ提出しなくてはならない書類を記入していた。退職願、と書かれたそれを。
ゴミ箱には、掻きむしって剥がれた皮膚がいくつも捨てられていた。
――一週間前のこと。
明日から浄化活動が始まる、というお触れに乗っ取り、我が社もまた休日が組まれていた。精神的に参っていた私は、一週間分の『行動自粛申請』を書き、早々に帰宅していた。
休み一つ取る、しかも国際的なテロ行為まがいを受けている時ですら、七枚分署名をしなくてはならない。そんな前時代的なやり方が、非効率的で凝り固まったやり方が嫌で、帰ってくると同時に退職願をダウンロードしたのだ。
少しずつ思い出してきた。私は今の仕事に耐えられず、一週間をかけて決意を固めた。そして今日、つい先ほど、退職願をもって出社しようとしていたのだ。
避難生活初日、私は夢を見た。どんな内容だったかは覚えていないが、良い夢でないのは確かだった。
しかし目覚めはすこぶる良くて、こんな夢なら毎晩見せてくれ、とまで願っていた。
ゴミ箱には、大量の注射器が捨てられていた。
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