第6話 穏やかな帰路
ゆっくりと、ニルヴァーナは目を開ける。
地面に直接寝そべるような感触のする、普段なら最悪の寝心地の寝袋でも、なぜか今日はよく眠れた気がする。それは身体的な疲れと、精神的な疲れが合わさった結果だろう。
それと、何よりも近くに頼れる仲間がいたということ。それが何よりも大きかったかもしれない。
「ん……、あー……」
気だるげに起き上がり、大きく伸びをする。凝り固まった体からいくつも音が鳴ったが、特に気にすることは無い。
それから辺りを見渡し、イーヴァがいないことに気が付いた。
「あれ、イーヴァー?」
寝起きのぼやけた頭と、がらがらの声で叫んでみるが特に反応は無い。まあ、どこかで狩でもしているのかもしれない。
「とりあえず、水、水……」
そばに転がる荷物をあさり、顔を洗うために水と、簡単な歯磨きを取り出す。重苦しい足取りで野営した場所から離れると、ニルヴァーナは顔を洗い、不快な口の中をすすいだ。
「ふー、やっと目覚めた気分だ」
先ほどよりはクリアになった視界で、ニルヴァーナは辺りを見渡した。やはりイーヴァの姿は見当たらない。音も特に聞こえないし、どこか遠くへ行っているのかもしれない。
しかたない、と一人呟くと、ニルヴァーナは辺りを片付け始めた。テントは流石にたためないが、他の片づけはある程度行っておく。それと同時に、馬車を引いてきてくれた馬をねぎらうように、やさしく馬を撫でる。
そのまま暇を持て余すように馬を撫でて、数分経ったころだろうか。遠くから、誰かの足音が近づいているのに気が付いた。
「ん、イーヴァかな?」
「おお、ニル。起きてたか」
案の定、草をかき分けながら現れたのは大剣を担いだイーヴァだった。その体は、汗で覆われて少し光っているのがわかる。
「なにしてたの?」
「いや、少し素振りをな。今日は大事な実験だし、体は少しでも温めないとと思ってな。近くでやれば、風切り音でニルが起きるかもしれんし、離れていたのさ」
「あー、なるほど……」
そういえば、今日は大事な実験をするんだったか。忘れていたわけではないが、そのことは少し頭の隅にやっていた。
「む、片付けも済んでるな。すまない」
「いやいいよ。そろそろ出発する?」
「そうだな。テントだけさっさと片付けて、朝飯は移動しながらでいいだろう」
そう言うと、まずイーヴァは担いでいた大剣を、分厚い革でくるんでいく。その後に、荷台の中に、しっかりと結びつける。その後に、二人はテントの片づけを始めた。
一人で展開から片付けまでできる様に改良されたテントだが、布を畳むくらいの手伝いはニルでもできる。準備は一人でやらせたのだから、せめて片づけは手伝いたかった。
「よし、これでいい。行こうか」
イーヴァは御者台に乗り、それに続く形でニルヴァーナは荷台に乗り込む。
小刻みに揺れる馬車の中、ニルヴァーナは近くに転がる荷物から二つほど食べ物を取り出すと、馬車を操縦しているイーヴァに一つ渡す。
軽く礼を言ってから、イーヴァはそれを受け取り、馬車を進める。その後は、二人して無言のまま、朝ごはんを食べていた。
二人とも食べ終わり、そのまま無言で十分くらい走ったころだろうか。外に広がる木々の景色を見ながら、ニルヴァーナがイーヴァに話しかける。
「実験はどこでするの?」
「ん? あー、そうだな。ある程度はロムレイアスに近づいておきたいから……。この速度なら、このまま三十分は走ってからだな。その間はしばらくこのままだ」
「うげ、まじか……。暇だー」
そう言って、ニルヴァーナは荷台に仰向けで寝転がる。狭い荷台だったが、一人が寝転がるくらいのスペースはある。
小刻みに揺れ、時折強く揺れる荷台はお世辞にも寝心地はよくなかったが、気にせずニルヴァーナはその場に寝転びながら、後方の空を見つめた。
上下逆に広がる光景でも空は青く、どこまでも続いているのがわかる。隔てるものと言えば、上を見たときに見える荷台の屋根と、遠くに広がる山脈くらいか。
それくらい何もない草原を今は走っていたが、イーヴァはここでは実験をするつもりはないらしい。まあ、確かにクライスは遠い。近づいておきたい気持ちは分かる。
ニルヴァーナは、このどこまでも広がる青空が好きだった。
飛んでいく鳥の行く先を見たり、壮大な雲の全体像をしっかりと見渡せる、そんな青空。アングマールで見たあの空では、飛ぶ鳥すら見つけられないし、雲だって全体像を拝めないこともあった。
「ふー……」
そんな青空を見て、ゆっくりとため息を吐き出しながら、ふとニルヴァーナは昨日のことに思いを馳せる。昨日アングマールから脱出した時もそうだったが、それ以上に現実感がまるでない。
一度寝てしまうと、その前にあったことが本当かたまに怪しくなる、そんな感覚。
だが、あれは現実だ。夢なんかじゃない。そんなの、嫌と言うほどわかっている。
「どうした、ニル」
昨日のことを思い返し、少し気分が曇ったニルヴァーナに気づいたのか、イーヴァが声をかけてくる。
「え、いや、なんでもないよ。……それよりも、ちゃんと名前で呼ぶなんて珍しいね」
「うーん、なんとなくな。特に理由は無い。とにかく、あまり考え込まないことだ。この風景を見てれば、少しは気持ちも落ち着くだろう」
「そうだねー……」
そう言ってから、ニルヴァーナは体勢をうつ伏せに変えた。
視界に広がったのは、先ほどとはまるで違う、一面緑の光景。
一面に広がる緑の中、一本だけ太く茶色い線が引かれていて、この馬車はその上を走っている。タイヤの跡が茶色い線に残るのも、なんだかおもしろい。
それから右を見ても左を見ても、特に代わり映えすることのない光景。遠くの木々に阻まれて今は見えないが、視線の遠く先にはアングマールのあの壁が広がっていることだろう。立ち上がれば、壁の上の方は見えるかもしれない。
だが、ニルヴァーナはそれをする気はない。壁を見るよりかは、この不快な乗り心地の馬車で寝ていた方が心地よい。
「気分は落ち着くけどさー」
そう、気分は落ち着くのだ。間違いなく。
だが、暇は潰せない。
代わり映えのない景色。路上に生える草の数を数えようにも無理があるし、かと言って他にすることもなさそうだ。
「暇だよイーヴァ。何かすることはないかね」
ゆっくりと起き上がり、御者台に移動する。転んで落ちる危険はあったが、なんとかイーヴァの隣に座った。
「ないな」
「ないかー……」
「……そうだな、一つ、楽しみは作れるが」
「お、何さ」
イーヴァの思いがけない提案に、ニルヴァーナは楽しそうに身を乗り出す。それを見たイーヴァは、不敵に微笑んだ。
「とりあえず、荷台に戻れ。そして荷物をすべて一つにまとめて、抱きかかえろ」
イーヴァにそう命令され、よく分からないながらもニルヴァーナは指示通りに荷物をまとめた。少しかさばって二つになってしまったが、抱えられないことは無い。
「よし、まとめたな。……吐くなよ」
「え?」
そう言うと、イーヴァは馬に鞭打ち、命令を送る。
すると段々と、馬車はスピードを上げていく。
「え、これって……」
「何、こいつは比較的大型だし、うちの連中に鍛え上げられたいい馬だ。多少無理はあるが、ちゃんと走ってくれるさ」
「え、でもこれ本当に移動用の、使ってなかった古い馬車じゃん。いつも遠征で使ってるしっかりしたやつじゃないじゃん。それって大丈夫なの?」
「ん、ダメだ」
ニルヴァーナが不安そうにつぶやく中、どんどんと馬車の速度は上がっていく。その間にも、荷台の揺れは大きく、激しくなっていった。
「うあ、ちょ、イー、ヴァ。やばい、やばいって」
大きく荷台は軋み、よくない音を立てる。まだしっかりと舗装された道だからいいが、もし凸凹の道に入ったらどうなるか。
「はっはっ、耐えろ、ニル、ヴァーナ!」
余りにも揺れる荷台は、今にもニルヴァーナを落としてしまいかねない勢いできしんでいる。ここまで不安定だと、逆に馬も走りにくいんではないかと心配になる。
しかし、馬は速度を増していく。こっちのことなど構うことなく、ただただ足を進める。
そして、草原に野太い笑い声と少し甲高い悲鳴がこだました。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。ニルヴァーナはぐったりと寝そべり、息も絶え絶えだ。
馬車の速度はすっかり元に戻り、先ほどに比べれば小気味よい振動をニルヴァーナに与えている。もっとも、時折どこかから不安な音が鳴っているが。
「はっはっはっはっ。楽しかったろう。まあ、こんなことすれば馬は休ませねばいかんから、少し到着は遅くなるだろうがな」
「……じゃあ、なんでこんなことしたのさ」
「いやあ、お前が暇だ暇だとうるさいからな」
「あんなん……、死ぬって……」
ニルヴァーナが絞り出したその声は、馬車の揺れる音にかき消される。
「いつもなら兵士たちには人気なんだがな。まあ、荷台がそもそも違うが」
「じゃあやるなよ……」
先ほどまで、まさに地獄絵図だった。
荷物が飛び出さない様にしっかりと抱えなければいけない関係上、ニルヴァーナはどこかに掴まることも難しい。
掴まることが出来なければ、ニルヴァーナの体は振動に任せて上下左右自由自在に動き回る。正直、大剣が飛び出すのではないかと気が気ではなかった。体だって、一体何箇所ぶつけたことか。
「だがまあ、これでロムレイアスまで一気に近づいた。ゆっくり行って、待機時間を考えなければおおよそ一時間もかからずクライスにたどり着ける。……よし、この辺りで実験を行うか」
そう言うと、イーヴァは馬車の方向をずらす。道から外れたために、一気に乗り心地が悪くなる。
「えー……、今からやんの……」
「ここでやるしかあるまい。あまりロムレイアスに近づけば被害が出る恐れもあるし、この辺りがちょうどよい」
「へーいへい、っと」
どうにもやる気の起きない体を無理やり起こして、ニルヴァーナは立ち上がる。辺りを見渡せば、先ほど見ていた草原とは違う、少し大地がむき出しになった広野だった。
「……ま、確かにこの辺りで隠れるようにやれば、安心かね」
そう言うと、ニルヴァーナは自分の手のひらを見つめた。大げさに言えば、今から命をかけた大実験をする、というわけだ。緊張で、汗がにじむのがわかる。
「よし、この辺りでいいだろう」
馬車が止まり、二人とも同時に馬車から降りる。ニルヴァーナは若干の気持ち悪さはあったが、体に鞭打ってなんとか大地を踏んだ。
その間に、イーヴァは馬を休ませる準備を進める。馬車に備え付けてあった、大きめのタンクを取り外し、それに手持ちの水をありったけ注ぐ。正直もったいなくはあるが、あんなことをさせてしまったので、大盤振る舞いの気持ちでイーヴァは水を注いでいった。
馬が水を飲み始めたのを確認すると、イーヴァは大剣を荷台から取り出した。巻きつけられた革をゆっくりと取り外すと、太陽光をしっかりと反射する、大きな刃が露出した。
「うむ、問題なし」
イーヴァは満足そうに頷くと、馬車から距離を取る。
ニルヴァーナは、すでに馬車からかなり離れた位置で待機していた。馬車に背中を向ける形で、不安そうに大地を見つめている。その頭を軽くはたいてから、イーヴァはニルヴァーナと向かい合う形をとった。
二人の距離は、おおよそ十メートルといったところか。ニルヴァーナに届くように、イーヴァは少し声を張り上げる。
「よし、始めようか。……マギエのことは分からん。とりあえず、任せる」
「え、ああ、うん。わかった」
ニルヴァーナは頷くと、右手をイーヴァに向けた。正直何か発動してしまうのではという不安はあったが、やらないことにははじまらない。
右手をあげたニルヴァーナを見て、イーヴァはゆっくりと剣を構える。いつ何が来てもいい様に。
右手をイーヴァに向けながら、ニルヴァーナは少し不思議な気分になっていた。まさか、町一番の強さを誇るイーヴァとこうして向かい合う日が来るなんて、思ってもいなかった。
「……」
「……」
そのまましばらく静寂が流れる。その間もニルヴァーナは右手に全神経を集中していたが、特に変化はない。
「……っあー、だめだ。何もない」
耐えきれなくなったように、ニルヴァーナが声を上げた。それを聞いて、不安そうにイーヴァが剣を担ぐ。
「むう、特に何も起こらないか……」
「どうする?」
「そうだな……。もう一度、そのまま集中していてくれ。一度だけ、ニルに剣を振ってみよう」
イーヴァが言い放ったその言葉を聞いて、ニルヴァーナはあまりの驚愕に目を見開いた。
「え、ちょ、大丈夫なの、それ」
「もちろん寸止めだ。少しでもお前に敵対の意志があることを見せた方がいいかもしれん」
「いや、それは、そうかもしれないけど……」
なんとか止めようとするニルヴァーナを無視して、ゆっくりとイーヴァはニルヴァーナに近づいていく。
ニルヴァーナは諦めたように大きくため息をつくと、もう一度、右手をイーヴァに向けた。しかしすぐに思いなおし、左手も一緒にイーヴァに向けてみる。
自らの体内に意識を集中し、技が発動するのをただ願う。もし何か起きても、イーヴァなら避けてくれると信じながら。
その間も、イーヴァはゆっくりと近づいてくる。あの屈強な男が、大剣を構えて近づいてくるのだから恐怖でしかないが、寸止めできるほどのイーヴァの実力を信じるしかない。
いよいよ、イーヴァが目の前に迫る。イーヴァは息をゆっくりと吐くと、剣を上段に構えた。ニルヴァーナは、歯を食いしばる。
「行くぞ」
そう言うと、イーヴァは剣を振り下ろす。ニルヴァーナは目をつぶり、迫る風切り音に体を震わせる。
風切り音は急に止まり、その刃先はニルヴァーナの脳天すれすれで静止していた。あまりにも大きな緊張がニルヴァーナの体から抜け、ニルヴァーナはその場にへたり込む。
「あー、死ぬかと、思った……」
「むう、これでもダメか……。もっと何か条件がある、ということか……?」
何でもないことのように、イーヴァは大剣を担ぎなおした。
「よし。となると、次は俺に攻撃してみてくれ。パンチでも何でもいい。ああ、寸止めじゃなくていいぞ。本気で殴ってくれて構わない」
「あー、わかりましたよ、っと」
ニルヴァーナは立ち上がり、イーヴァの体を思いっきり殴った。抵抗もなく殴ることが出来たのは、イーヴァを信頼してのことだったし、先ほどの緊張で頭がうまく回らなかったせいもあった。
本当に思いっきり殴ってしまったことに後で気づき、ニルヴァーナは慌てふためく。
「あ、ちょ、ごめ、大丈夫?」
「何、こんなことなんでもない。……しかし、これでもダメか」
イーヴァは、殴られた箇所を軽く掻く。本当に何でもない様に。ケガも何もなかったのは良かったのだが、ニルヴァーナにとっては少しだけショックだった。
「よし、次は……」
それから、二人は幾度となく実験を重ねた。
軽く組み手を組んでみたり、少しだけ本気でニルヴァーナを殴ってみたり。ニルヴァーナには気づかれない様に、気配を殺して襲い掛かってみたり。それ以外にも、色々と思いつく限りの戦闘パターンを試してはみたが、特に成果は得られない。
「ふう、はあ、……、っんあー……」
ニルヴァーナは地面に仰向けで寝転がり、上がった息を整える。
一通り終わるころには、すっかりニルヴァーナの息は上がっていた。緊張の連続に、少しだけ痛めつけられた体。それに、体を多く動かしたことによる身体的疲労。もちろん、イーヴァが痛めつけたのはそこまで痛いものではない。
「とりあえず、実験はこのくらいにしておこう。……俺では試せないこともある」
「試せない、こと……?」
「ああ。相手がマギエ、もとい魔法を使用していた場合、乗っ取りが発現する可能性だ。こればかりはどうしようもない」
「あー、……そっ、か……」
確かに、マギエや魔法を使うものなど近隣にはいない。いても、移動魔法で商売している人たちくらいだ。その人たち相手に実験は、さすがに行えない。
「ニルの息が戻り次第、クライスに帰ろう。……何、ちゃんと話せば、皆納得してくれるさ」
「……うん」
頭上に広がる空を見ながら、ニルヴァーナは少し不安になる。
故郷に帰ることは何よりも嬉しいことだが、この現状で帰るのは、さすがに何か言われても不思議ではない。きっとイーヴァのように許してくれるかもしれないが、わずかな不安はぬぐいきれない。
その不安を振り払うように大きく首を振ると、ニルヴァーナは立ち上がった。まだ息は上がっているが、このくらい馬車に乗っていれば大丈夫だろう。
「行けるか?」
「うん、大丈夫。帰ろう。故郷へ」
それから二人は馬車に乗り込み、ロムレイアスへと向かう。
ロムレイアスとは、転移魔法を使う魔法使いが住んでいる町だ。金をもらい、人々を転移させることで生計を立てている。町とはいっても、その魔法使いが住む家の近くに、いくつか待機所や馬の休憩所があるだけ。町とは呼べたものではないが、皆が便宜上町と呼んでいる。
魔法使いが転移させてくれる場所は、同じように魔法使いが住む町だけ。イーヴァたちは、クライスに最も近いロムプリエストという町に転移させてもらい、そこから馬車でクライスまで移動することになる。
一人の魔法使いに大勢の商人が集うため、いつもその町は大混雑だ。作業効率は高いために不満はそこまで出ないが、流石に待ち時間はどうしても出てしまう。そして待機する人々で溢れかえる町は、遠目にもわかりやすい。
「ほら、見えて来たぞ。……今日はそこまで混んでいなそうだ」
馬車の荷台で寝そべって休憩していたニルヴァーナであったが、イーヴァのその一声に体を起き上がらせる。イーヴァの背中越しに見えるその景色は、流石に商人で溢れかえっていた。
「おー、確かアングマールに行く時もここ来たよね」
「ああ、そうだな。ま、行きはすぐに通り過ぎてしまったがな」
そんな会話を交わしながら、二人は町の中心部へと向かった。その道中辺りを見渡せば、多くの馬車で道路は埋め尽くされ、たくさんの商人が楽しそうに話しているのが見える。それを横目に、ゆっくりと受付へと向かっていると、突然近くから大声が響いた。
「イーヴァ! イーヴァじゃないか! 何してるんだ!」
一人の男が、イーヴァの名前を呼びつつ駆け寄ってくる。その顔は、ひどく険しい。
「お、モーナグ。久しぶりだな。げんき……」
「そんなあいさつしてる場合じゃない! お前、知らないのか!」
モーナグと呼ばれたその男。状況から察するに、イーヴァの旧知の仲らしい。だが、様子が普通じゃない。
その慌てふためく様子に、イーヴァやニルヴァーナだけでなく、周囲の視線が一気にモーナグに集まった。イーヴァは怪訝な顔をしてモーナグを見ていた。ニルヴァーナも同様に、どうしたのかと少し身を乗り出す程度だった。
しかし、まだ楽観的とも言えた二人の態度はこのすぐ後、一変することになる。モーナグの衝撃的な一言を皮切りに。
「クライスが、クライスがやばい!」
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