第四十四話「想いと力、二つ合わされば」

 ブレン軍の本拠地である巨大円盤要塞。


 その周辺では急速な勢いで都市が建造されつつあった。

 武装も配置された要塞都市と言って良い。


 前時代的な宇宙服を身につけたような兵士達が拉致して来た民間人を強制労働させつつ監視していた。

 逃げようとした、あるいは反抗しようとした人間は容赦無く撃ち殺し、見せしめとして死体を晒している。


 重労働に耐えられない女、子供もそれぞれの役割を与えられている。

 ブレンの暴虐を許せばこの様な光景が現実の物になるだろう。

 侵略された星に相応しい絶望的な未来絵図がそこにあった。


 その光景を巨大円盤の広い球体の内側の様な形状の広い司令室のモニターでブレンは眺めていた。


 剥き出しの機械の頭脳。

 銀色の頭部。

 黄色いツインアイ。

 白いローブ。

 銀の両腕。


 昭和の侵略者像然とした容姿だった。


 そしてその背後にブレンが崇める『神』がいた。


 『神』が語りかける。


『この星の侵略は順調か?』


『ハッ、後は予定通りに――』


『うむ――』


『それよりも大丈夫なのですか? マスタージャスティスとの戦いで相当深手を負われた様子――』


 マスタージャスティスは地球の神。

 正義の神である。

 地球降下時にマスタージャスティスが現れたと同時にブレンが崇める神が先陣を切って戦い、激戦であり、本拠地である巨大円盤の一部分はまるで絨毯爆撃を起きた様な空間が広がり、大きなクレーターや一部分が消え去った山などの残滓が残っていて戦いの激しさを物語っている。

 戦いの結果はお互い暫くは動けぬ程の痛み分けと言う形になった。


『時間が経てば問題は無い。それにこの侵略行為も目的は――我らが宇宙の覇権を握るのなら今しか無いからだ。銀河連邦の連中も、宇宙に名高い勢力も、他の神すらも超越出来る力がこの国には集まっている。だからこそ『今』なのだ。だからゴウマと言う輩も動いた。この気を逃せば次のチャンスは無いと思え』


『分かりました・・・・・・』


 ゴウマとは嘗て闇乃 影司に倒された異世界の侵略者である。

 影司を利用しようと目論んだが、その目論見が仇となって力を与えた筈が逆に倒されてしまうと言う皮肉な結果を招いている。


 もっとも闇乃 影司は生き残り、ゴウマが倒される事は避けられない事象である事が闇乃 影司自身の口から語られたが。


 これは未来の闇乃 影司の能力が因果律にすら干渉し始めている程に増大しているのが原因である。


 そう言った未来の人物の時を超えた干渉は闇乃 影司だけではなく、この時空その物に影響を及ぼし、一種の歴史の前倒しや変化が起きている。


『既にもう過去は変わりつつある。それが良いか悪いかは分からないがな』


 例えば天野 猛もそうだ。

 彼がレヴァイザーに変身する理由も本来はハードな過去は無く、悪の組織部があってこそだ。

 理由も半ば遊び感覚で変身する筈だった。


 ヒーロー部も悪の組織部に対抗する為の遊び感覚で誕生する筈でシリアスな理由などは無かった。


『そもそも我々は本来ならば地球にここまで早く接触する事はなかった。本来ならば地球の時間軸において、もう二年以上程先に接触する筈だった・・・・・・だがその結末は悲惨だった』


 それを『神』は予知し、その結末を回避する為に行動を起こしたのだ。


 それを阻止する為には最低でも闇乃 影司や天野 猛、レイ・シュナイダー、大宮 優、倉崎 稜、宮園 恵理、揚羽 舞、天村 志郎をどうにかしなければならない。


 最低でもこの人数だ。

 他の面々は既にこの時点で神に準ずるかそれに匹敵する強さを持っている為に殺害は困難である。


『だからこの地球侵略は最初にして最後の戦いなのだ。時間が経てば経つ程、我々達の勝率は、そして『神』である私ですらも無くなっていく・・・・・・』


『ならば私も自ら動きましょう』


『いいだろう』


 ブレンの黄色いツインアイが不気味に光る。



 そして天野 猛一行はトレーラーで合流地点に急行していた。

 地球に侵略しに来ただけあってその戦略は無尽蔵らしく、現在防衛のために仲間が自衛隊と共同戦線で戦っているらしい。


 トレーラーに護衛を残して、空を飛べる人間が運んだりして現場に急行した。


 向かったのは宮園 恵理、倉崎 稜。

 天野 猛、城咲 春歌。


 ホーク・ウィンドウはトレーラーに残った。

 闇乃 影司は敵に間違われる恐れがあるからやむなくである。

 天村 志郎は念の為ベルゼルオスの調整の為であり、揚羽 舞も残る事になった。


 半々ぐらいで別れた感じである。

 天野 猛は城咲 春歌の両腕を掴んで鉄棒にぶら下がるように抱えられながら現場に急行した。

 レヴァイザーに飛行能力は無いからだ。


 倉崎 稜と宮園 恵理のペアは競い合う様に二人で現地に突入している。

 何も抱えてない分二人の方が早いからだ。二人の速度は現代の(今更解説は不要かと思うが、本作の地球は宇宙開発が進出し、第三次世界大戦が月と地球の国家の戦争だったぐらいに進んだ科学力を持つ世界観である)ジェット戦闘機よりも早いので既に現地に急行して戦闘に突入しているだろう。


 情報では戦闘機級円盤や母艦級円盤、恐竜型大型ロボットを中心に部隊が展開されて激戦になっているようだ。


「着きました!」


 二人は荒れ果てた道路に降り立つ。

 雑居ビルが建ち並ぶ都市部だが彼方此方が紛争地帯の建造物の様に吹き飛んだり、瓦礫の山になったりしている。

 今は日本各地全体がこんな感じだ。


「とりあえずあの銀色の恐竜型メカをどうにかしないと――」


「そうですね――」


 全長40m以上だろうか。

 ティラノサウルスに近代兵器の武装を施した様な外観のロボットが暴れ回っていた。背中に大砲を背負っており、両腕や胴体に連装砲、口から火炎光弾を発射して暴れ回っている。

 後ろにはブレン軍の円盤や戦車や兵士が取り囲み、デザイアメダルの怪人や地球制のパワードスーツやロボット兵器の姿まであった。


『おっと、こっから先は通さないぜ?』


「な、何物ですか!?」


 電子音声が聞こえる。

 雑居ビルの上の方だ。

 そこに五つの影。

 暗めのカラーリングながら五色の戦隊ヒーロー、いやアンチヒーローがいた。

 デザインはシンプルな昭和と平成の変わり目前後のデザイン。

 そして戦隊ヒーローにしては珍しいツインアイのヘルメットだった。


『ブレンレッド!』


『ブレンブルー!』


『ブレングリーン!』


『ブレンイエロー!』


『ブレンピンク!』


 次々と名乗って決めポーズを取り、そしてビルから飛び降りて道路に着地し、更にポーズを取る。


『『『『『我ら! 五人揃ってブレン戦隊ブレンジャー!』』』』』


 そして彼達の背後で謎のそれぞれの色に対応した大爆発が起きる。

 春歌は呆れ、猛は謎の感動を覚えていた。


『さて、戦隊お約束の謎の名乗りを終えたし、さっさと始めるか』


 ブレンレッドが剣を片手に言う。


「自分から謎の名乗りとか行ってますよ猛さん・・・・・・」


「う、うん・・・・・・何か新鮮なパターンだね」


 戦隊を名乗っておきながら戦隊のお約束に突っ込みを入れるのは正直謎だった。

 だが相手はやる気満々でブルーは弓矢、グリーンはブーメラン、イエローはハンマー、ピンクはリボンを構えていた。


「とにかく、増援は期待出来ないから僕達で乗り切るよ!」


「は、はい!」


 五対二。

 数の上では此方が不利だ。

 レッドとグリーン、ピンクが猛に来る。


 ブルーとグリーンは春歌に向かった。


『おらおらどうした!!』


「クッ!!」


 ブレンレッドを含めた三人の攻撃を裁きながらフォームチェンジを行う。

 アクアフォーム。

 三又の槍、トライデントを持った水色のレヴァイザーに変身して槍で上手く立ち回って攻撃を裁く。

 フレイムフォームやサイクロンフォームなども考えたがジリ貧になるのは目に見えている。


 あの体に多大な負荷を掛ける銀色のフォームはもっての他だ。

 だから防御力と攻撃力が増加する長期戦向けのアクアフォームを選んだ。


(こいつら外見はアレだけど一体一体の実力が凄く高い!)


 悪役戦隊の宿命か、連携は今一だがそれを補う以上の強さがあり、中々に反撃に出れなかった。

 変わる変わる隙を狙って攻撃を仕掛けてきて、徐々にではあるがダメージが蓄積されていく。


「私も何時までも猛さんばかりに頼ってばかりではいられません!」


 春歌の方は相手のブーメランや弓矢を避けながら、小型拳銃型のエネルギー銃「ハートデリンジャー」による激しい遠距離戦になっていた。


『其方の状況は分かった! どうにか持ち堪えてくれ!』


「なるべく急ぐようにお願いします!」


 蘭子からの通信が入る。

 急行しているようだが時間が掛かっているようだ。

 倉崎 稜と宮園 恵理は恐竜型マシンを中心とした部隊相手に手一杯らしい。

 カルマやティリアなども参戦しているがそれでも状況は余談を許さない状態だった。援護は期待出来ないだろう。


(勝負に出たいけど、ここは我慢して持ち堪えるんだ――)


 そう思いつつ猛はカメの様に防御に徹して堪える。

 勝負を急いではならない。

 春歌が心配だがそれでもである。



 春歌はある悩みを持っていた。

 猛の助けになるため。

 そのために戦っている筈なのに助けられてしまっている。


 校舎での戦いでもそうだった。

 あの時も猛がどうにかしなければ今頃は――


「こんな時に考え事か!?」


「余裕だな!」


 グリーンのブーメラン。

 ブルーの弓矢を避けながらハートブラスターを撃つ。


 遠距離では必殺技のハートバスターがあるが、それを撃つには隙が生じるし相手の実力を考えれば間違いなく避けられるだろう。

 レヴァイザーの近距離用の必殺技も放つしかない。

 一応レヴァイザーパンチやレヴァイザーキックなどが使える。


(問題はどうやって近付くか――)


 当然強力な近距離攻撃を叩き込むには近付かなければならない。

 だが相手は絶え間なく遠距離攻撃をぶっ放してくる。

 それを空中を飛び回って避けながらハートブラスターで応戦する。時偶当たるが対してダメージは与えていない。


 グリーンの大きなサーベルとしても使えそうな二つのブーメランの切れ味や速度も抜群。ビルを苦もなく切り裂いている。

 ブルーの弓矢は矢継ぎ早と言うより機関銃の如く弓矢を乱射してくる。貫通力も高く、アスファルトの地面を容易に連ぬいていた。

 外見はアレだが奴達も宇宙人が送り込んだ強力な刺客なのだ。


 それにどうしても気になるのは猛だ。

 彼は三対一で相手取っている。

 本当は助けに行きたいが分断されていた。


 ここは増援を待つべきか――


『悪い知らせだ。こっちにも敵が来て救援には行けそうもない――』


 その矢先に蘭子から爆音交じりの通信が入る。

 どうやら向こうにも敵が来たらしい。

 つまりもう暫く持ち堪えるか、この場を自分達で切り抜けなければならないようだ。


 倉崎 稜と宮園 恵理の二人は敵の巨大兵器などを相手取っている最中だから助けは期待出来ない。


 あの生徒会室での戦いの時と同じだ。

 やるしかない。


 腹を決めた。


『おいおい特攻か!?』


『蜂の巣にしてくれる!!』


 ブーメランを回避したタイミングで突撃を駆ける。

 そしてブルーが弓矢を構えて機関銃の様に矢を乱射した。

 構わずその乱射の中をかいくぐる。


『なに!?』


『ば、馬鹿な!?』


 二人は驚愕した。

 ブルーの弓矢は確かに強力な制圧能力を持った武器だ。

 だが距離が離れれば離れるほど、中央に行けば行くほど弾幕の密度が薄くなると言う欠陥を抱えていたのだ。

 熟練の戦士でもない春歌はそれに気付いたわけではないが、ともかくその無謀とも言える覚悟が怪我の功名となって春歌に千載一遇のチャンスをくれた。


「レヴァイザーパンチ!!」


「グォオオオオオオオオオオオ!?」


 ブルーは咄嗟に弓矢で防御する。

 しかし緑色の粒子を纏った拳がその弓矢を打ち砕き、そのままブルーの腹部まで殴り抜いた。

 吹き飛ぶブルー。

 春歌は地上を滑空してそのままドロップキックの態勢でレヴァイザーキックへ移行する。


「レヴァイザーキック!!」


「俺を忘れてんじゃねえぞ!!」


「ッ!?」


 グリーンのブーメランが春歌に襲い来る。

 それが体を切り裂いた。


「いやぁああ!!」


 激しい火花と激痛が春歌を襲い、ゴロゴロと勢いよくアスファルトの地面を転げ回ってその辺に駐車してあった自動車をクッション変わりにしてどうにか止まる。 

 急いで起き上がろうとするが


「少し痛い目を見ないとな!!」


 そこをグリーンは追い打ちを掛けた。


「あああ!? あぁあああ!? ああああああ!!」


 両手にブーメランを持って近接武器の様に振る舞い、春歌を一度、二度、三度と切り裂いていく。

 激痛が彼女の体が駆け巡り、春歌の悲鳴が上がった。


「こいつでトドメだ!」


 そしてグリーンの片方のブーメランが禍々しい紫色の光を纏う。 

 それを躊躇いなく振り下ろそうとする。

 直感的に春歌はこれで死ぬと思った。

 恐怖や悲しみとかそんな物など考える暇がなかった。

 ただ目の前の現実を受け容れるのに脳が追い付かなかった。 


「何!?」


 だが救いの手が現れた。

 天野 猛ではない。

 意外にもソレは宮園 恵理。

 アウティエルだった。

 白い翼を勢いよく羽ばたかせ、膝蹴りでグリーンを吹き飛ばしたのだ。


「大丈夫!?」


「え、ええ――」


「呆けてないでしっかりしなさい! 死ぬとこだったのよ!?」 


「それは――」


「どうしてあんな無茶な真似したの!?」


「私がしっかりしないと、何とかしないといけないって思ったから・・・・・・」


 まだ意識がハッキリしないままポツポツと本音を漏らす。

 恵理は「馬鹿ね」と行った。  


「貴方には、大切な人や仲間がいるでしょう? もう少し頼りなさい」


「で、でも――私、そんなに強くないから」


「その気持ちは分かるわ! 私だってそんなに強くなかったら!」


 そう言って迫り来る敵から逃れるために春歌を抱えて上空に一旦退避する。

 春歌は恵理に抱えられた状態で、バイザー越しからの強い眼差しと悲しそうな表情を眼前で見た。 


「私は陵辱されて、こんな体や胸にされて、その怒りで何もかも捨てて、一人でアシュタルを滅ぼそうとしたけど、けど出来なかった。弱かったのもあったけど、けど、違う。人として大切な事を忘れてた!」


「大切な事?」


「人ってのはね、多少強くなった程度でも出来る事なんてたかがしれてるのよ。強ければいいってわけじゃない。弱いからダメなんかじゃない! 強さの種類は違うのよ!」


 早口で捲し立てられたその言葉の意味を理解するのに春歌は時間が掛かった。

 だが言わんとしている意味は分かった。


「弱ければいいわけでもない。強ければいいってわけじゃない――大切なのは――」


 大切なのは。

 そこまで紡いで春歌は上手く言葉には出せなかった。

 ふと、彼女の脳裏に猛や舞の悲しげな顔が過ぎる。


 まだアーカディアがあった頃。


 初めて猛の正体を知った頃。


 猛がどうしてレヴァイザーとして戦うのか。

 舞がどうしてセイントフェアリーとして戦うのか。


 その時の事を、感じた事を思い出した。


「弱いのは悔しい! でも傍にいて支えたい! 戦いたい! 悲しい思いをさせたくない!」


 それが変化の兆しだった。

 春歌の桜レヴァイザーに変化が訪れる。

 カラーリングが白基調になり、ヘルメットには角飾りが、アーマーも戦国武将が身に付ける陣羽織を連想させる意匠となり、背中に桃色の蝶の羽を連想させる桃色の光の羽が追加された。

 この変化に驚いたのはブレンジャー達だった。


『な、何だあの変化は!? 妖精石にこんなシステムが!?』


『エネルギー値が――五倍、七倍、十倍・・・・・・信じられん! まだ上昇している!?』


『これがブレン様が恐れていた事なのか!?』


『地球人と妖精石が組み合わさった結果なのか!? それとも妖精石に独自の改良を!?』


『とにかくこの場は――』


 目に見えて動揺していた。

 この場にいた誰もが信じられないと言った顔だった。


「凄い――春歌ちゃん凄い――私達の力も増していっている――」


 恵理は自分の力が増しているのを感じ取った。

 それは稜も。

 そして猛も同じだった。


「力だけでも、想いだけでも――だけど、その二つが合わされば――!!」


 桜色の粒子を放つ刀がハートのブレスレットから抜剣される。

 それを構えた春歌。

 そして春歌のスーツ、桜レヴァイザーの姿も元に戻る。発せられるエネルギーは増幅しているが妖精石の常識の範囲内の範疇に収まっていた。

 スーツの傷も修復され、体の疲労も痛みもなくなっていた。


『ええい、あの少女にメガックスをぶつけろ!』


 ブレンレッドは未だに猛威を振るっている恐竜ロボをぶつける事にした。

 攻撃を無視し、その巨体を春歌に向けて突進させる。


「大丈夫春歌ちゃん?」


「大丈夫です――もう心配ありません」


 そして春歌はその刀と共に更に上空へと上昇した。

 恐竜ロボは春歌に釣られるように上を向く。


「隙あり!!」


 そこをすかさずアウティエルが大気を切り裂き、首元を一閃。

 手に持った片刃のブレードが巨大化し、大きな首元を吹き飛ばす。


「でやあああああああああああああああああああああ!!」


 続いて春歌が刀を振り下ろした。

 桜色の粒子を身に纏い、刀身が巨大化した桜レヴァイザーの刀。

 それは40mの巨体を誇る恐竜ロボを跳ね飛ばされた首諸とも一刀両断した。

 両断された線をなぞるように爆発が起きる。


『ええい、撤退だ! 撤退しろ!』


 ブレンレッドは撤退を決意した。

 他のブレンジャーも残存した戦力も続く。


 地上に降り立った春歌は――恵理に真っ先に言葉を向けられた。


「凄かったじゃない! 春歌ちゃん!」


「ううん、違う。私だけの力じゃない。未来と、そして今の猛君と、舞先輩、このスーツを作ってくれた志郎先輩、支えてくれた皆、そして――」


 そこで一呼吸を置き、恥ずかしげな表情をしながら春歌は恵理に笑みを見せた。


「それを気付かせてくれた恵理さんのおかげ」


「そ、そう」


 内心恵理は照れくさそうになりながらふと近寄ってくる猛を見た。

 レヴァイザーの姿で表情は分かり難いがたぶん慌てているのがありありと分かる。

 それを見て恵理はクスッと笑って席を外した。


「あ、猛君!」


「す、凄かったね!」


「ううん。皆の御陰だから。当然猛君の御陰でもあるんですよ?」


「え? どゆこと?」


「こう言う事です」 


 そして春歌は猛の口元にキスをした。

 僅かな短い時間だが。

 それでも猛には刺激が強かった。 


「ごめんなさい。だけど今しかないと思ったから」


「え? え? え?」


「猛君の事、大好きだから」


 その時の春歌の笑みは口元だけが露出したヘルメット越しでも分かるぐらいの爽やかな笑みだった。

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