第四十三話「世界の動き」


 地球連邦。


 第三次世界大戦の頃に、月の独立戦争の頃に結成した国連軍が踏み込んだ末に誕生した組織である。

 

 だが地球連邦の発足には色々と謎が付き纏っている。


 それは現在でも続いている。


 一説には第三次世界大戦のダメージを補う為に利害の一致で成立したと言うのが概ねの見解だ。


 そうして地球上の世界各国は統一され、地球は惑星国家へと脱皮した。

 二十一世紀時代の様々な問題――地球連邦内での派閥抗争とかなどを抱えてはいるが順調に宇宙開発も進み、科学技術も格段に進歩して平和になろうとした。


 その矢先、人類史上、初めてのブレンと呼ばれる宇宙人の侵略を受ける。

 戦いのて手は世界中に広がっているがその中でも一番の激戦区は日本であった。


 ちなみに地球連邦において日本の評価はそんなに良くない。

 特に第三次世界大戦では憲法九条を盾にし、自衛隊を派遣せずに不参加で切り抜け、一人勝ちしたのが最大の理由だった。

 他の国は謎の第三勢力の介入でボロボロになったにも関わらずにである。

 その頃の因縁は未だに続いており、先進国で自衛隊が冷遇され、バカにされるケースがあるらしい。


 そこへ来てブラックスカルの事件だ。

 超常的な力を持っていたとは言え、たかだがカラーギャング如きに国家転覆されかけた上に政府がたかだが学園相手にテロ行為を行った事が暴露されて益々世界からは見放される状態となった。


 更に追い打ちを掛けるようにしてブレン軍の本隊が襲来し、現在も日本を中心に激戦が続いている。


 日本の地球連邦日本支部――つまり旧アメリカ軍も日本の本土にいるのだから当然戦いに巻き込まれ、激戦が繰り広げていた。

 軍用パワードスーツ、ラウンド・ウォーリアーやアサルトライド、戦車や第三次世界大戦に登場した戦闘機もフル投入している。


 だが敵はビーム兵器を標準装備しており、そして敵のデーターを一日も経たずに解析して複製して送り込む超技術を持つ上に、更には戦車砲クラスの攻撃をビクともせず、逆に戦車を引っ繰り返す程のパワーを持つ(*戦車の重量は五十トン以上)を持つ化け物と戦わなければならなかった。


 オマケに空中には飛行円盤。

 敵兵や兵器を次々と吐き出す母艦級の円盤などとも相手しなければならなかった。

 第三次大戦以来の月の王国や戦争末期に現れた謎の勢力との大激戦を連想させる規模の戦いだった。


『クソ!! 倒しても倒してもキリがない!!』


『誰かアベンジャーズ呼んでくれ!!』 


『ウォーマシンなら今いるぞ!!』


『ダース単位で呼んでくれ!! 数が足りねーんだよ!!』


 地上のラウンド・ウォーリアー隊、一つ目のレンズが特徴的なベストセラー機「サイクロプスMKーⅡ」が泣き言を言いながら弾をばらまく。

 12・7mm弾をアサルトライフルや連装のグレネードランチャー(40発入り)などを標準装備としており、敵の複製されたアサルトライドすら撃墜するがそれでも火力不足だった。


 敵の母艦クラスを叩き落とすには戦車の火力を集中させる必要があった。

 戦闘機クラスは早過ぎて航空隊がどうにかしなければならなかった。


『中尉! このままでは!』


『弱音を吐くな! どうにか持ち堪えさせろ!』


 その中にラウンド・ウォーリアーの中でも飛行能力、宇宙空間での戦闘能力を持たせた機種、ファルケン。

 漆黒のカラーリングで背中にウイングパーツを搭載し、手にはシールドやライフルを持ちヒロイックなデザインで人気を集めるラウンド・ウォーリアーだ。

 このファルケンの部隊を率いるのは地球連邦軍のミハエル・シュミット中尉である。


 宇宙人の戦闘機級の円盤を撃墜できるぐらいには腕がいいアクター(ラウンド・ウォーリアーの装着者の意味)である。


 ファルケンは戦闘機並みのスピードが出せる上に小回りが利き、敵の円盤を次々と撃墜しているがそれでもキリが無い。


『まさか日本に来て宇宙人相手にドンパチする事になるとはな!!』


 地上では味方部隊を鼓舞するように灰色のアイアンマンを連想させる機体が奮戦している。

 アメコミに出て来るウォーマシンを連想させる背格好だ。

 内蔵火器が豊富で背中に背負った二つのランチャー、首の両側のの武器ポッド、両肩、両足にも武装ポッドを搭載し、両腕にも武器を内蔵している。

 それでいて重火器を持っていてもう歩く弾薬庫状態だ。


 空中を鳶ながら迫り来る敵を味方と連携して次々と重装備で薙ぎ倒していき、その砲火は敵の母艦級にも届き、動力炉に直撃弾が届いたのか母艦から火を噴いていた。

 

 装着者はブラッド・バーンズ。

 黒人で筋肉質の巨漢の男。ちなみにスキンヘッド。

 今見に纏っているアメコミのウォーマシンを元ネタにしたパワードスーツ「レイジング・バスター」の装着者である。

 階級は少佐。


 元々レイジング・バスターは日本に居るヒーローや月のパワードスーツ兵器に対抗する為に産み出されたと言う経緯がある。

 地球連邦の加盟国であり、最大派閥である米国は何でもNO1を目指す国風である。

 そして軍属ヒーローとして産み出されたのがこの「レイジング・バスター」なのだ。同時にこのヒーローを再現出来たと言う事は、古くから存在するアメコミの技術をある程度再現できるようになった事の現れでもある。



『ブラッド少佐がやってくれたか・・・・・・』


 敵の母艦級の円盤が小爆発しながら煙をあげて墜落するのを見てミハエル大尉は狭いヘルメット内部で一息を付く。、


『ええ、正直少佐がやってくれなければ危なかったですね――』


『増援の気配はあるか?』 


『いえ――その様子は――』


『油断するな。制宙権は敵の手にあるんだ。宇宙空間から突っ込んで来る可能性も視野に入れろ』


『は、はい!!』



 ミハエル中尉が言う制宙権とは宇宙空間でどれだけ軍隊を自由に行動させる事が出来るかと言う軍事用語で宇宙進出した時代ならではの概念である。

 現在地球連邦の宇宙艦隊は再編成準備中であり、また敵の本拠地である巨大円盤の射程が凄まじく宇宙空間にも届くレベルなので現在日本の制宙権と制空権はほぼ侵略者側にある。


『聞こえるかミハエル中尉』


『ブラッド少佐! 御無事でしたか!』


『地球連邦大統領から直々の使命だ。地球連邦軍はブレン軍に対して反攻作戦を行うつもりらしい。手が空いている部隊は参加するようにとの事だ』


『ですがここの守りは?』


『敵は巨大ロボットまで投入しているそうだ。どの道このままではジリ貧になる。珍しく自衛隊も根性入れて頑張っているらしいからな。地球連邦軍は自衛隊と共同して任務に当たれとの事だ』


 その言葉にミハエルは少し不安が過ぎった。


『自衛隊ですか・・・・・・大丈夫でしょうか?』


『ミハエル。お前はまだ若い。どんな軍事組織にも後ろめたい事はあるさ。アメリカだってそうだった。割り切れとは言わんが、ともかくそんな事ではこの先やっていけんぞ』


『分かりました――準備が出来次第、合流準備を行います』


 内心複雑な感情を押し殺しながら命令に従うミハエル。

 ブラッド少佐の言う事も一理はあるが、だからと言って納得出来るかどうかは別問題である。

  


☆  



 欧州には、ある組織が存在する。

 名をソーディアン。

 中国の九龍、日本の天照学園、アメリカの科学都市、ロシアの軍事都市などと並ぶ国家と言う枠組みでは無いが地球連邦に対して強大な影響力を誇る極秘組織である。


 彼達もまた世界存亡の危機の為に動き出そうとした。


 そしてソーディアンには意志決定を決める最高評議会ラウンズと呼ばれる十二人からなる統括部門が存在する。


 大きな円形のテーブル。

 壁には騎士を模した絵画が並び、柱時計なども置かれている。 

 そしてシャンデリアで明かりを点し、高そうなカーテンで飾り付けられた窓ガラス。


 ここは円卓の間。

 ラウンズが集まる場所であり、ソーディアン達の意志決定を行う場所である。  

 

 その円卓の間の中に長い金色の髪の毛の少年ジーク・フリートは忌々しそうにしていた。

 ジーク・フリートはラウンズと言う組織の中で実質NO2のポジションだ。

 時期・時代に応じてジーク・フリートのポジションは異なり、NO1が不在時の場合は時期は代表になる。


 そんな彼は困っていた。

 自分が動くと下手をすれば行き違いで天照学園の勢力と抗争になるからだ。

 

(特に倉崎 稜と戦闘になるのはマズイ・・・・・・)

 

 彼はまだ完全な覚醒には至ってないが、もしも中途半端に覚醒して加減を間違えて力を振るえば地球に致命的なダメージを負いかねない。

 それ以前に宮園 恵理と殺し合いになる。日本に行って可愛い美女と殺し合いになる可能性は避けたかった。

 これもそれもアシュタルとか言う組織に所属しているあのクソッタレが悪い。


 それにラウンズは世界共同戦線で異世界での出来事に対処していた疲れもあり、マトモに動かせる戦力が足りなかった。

 またヨーロッパの国々も地球人の襲来に備え、ラウンズのメンバーに出来るだけ居て欲しいと言う要望が大量に来ていた。

 どの道、ジーク・フリートはアシュタルのせいで今は余り表舞台に出られないので他のメンバーに任せる事にした。


「アーサー、どうする?」  

    

 アーサー。

 そう呼ばれるまだ若い男性こそがラウンズの現代表である。

 いわゆる完璧超人。

 JOKER影浦からエレガント超人の後継者だとか言われている。

 実際それぐらいの逸話を数々持つブラウンの髪の毛で整った顔立ちの男だった。

 

「地球全体の被害を最小限に抑えるためにも戦う他あるまい」


 他のラウンズのメンバーも口を開く。


「しかし日本はよくトラブルが起きるな」


「やはり日本はこの地球・・・・・・いえ、宇宙における特異点となっているのでしょうか?」


「世界樹があの国にある以上、考えられない事ではない」


「今はそれよりも誰を送るかではないかね?」


「で? 誰を送る? アーサー?」  


「ラウンズから一人、そして十三番目からも選抜しよう」


 その言葉にラウンズのメンバー達はざわついた。


「十三番目か・・・・・・」


「だが今回の任は荷が重いのでは?」


 とメンバー達は苦言を呈する。

 ラウンズの十三番目。

 ソーディアンの中でも実力が認められた、いわゆるラウンズの補欠要因だったり何らかの事情でラウンズを辞退した人員が所属する場所だ。

 実力はラウンズの正規メンバーに当然劣る。


「ならば私が一人候補を――丁度学園島にいるので合流させます」


 一人の赤毛のポニーテールの若い女性が立ち上がった。

 名をレヴィ。

 ラウンズの女性メンバーであり、NOは7である。


「名は?」


 アーサーが尋ねる。


「グレース・ナディアです。私も主立ったソーディアンのメンバーを連れて日本に向かいます」



☆ 


 

 地球連邦の大統領「マイケル・ジョンソン」。

 彼は今、地球連邦の本部、旧国連本部に来ていた。

 

 そこで世界中の首脳陣から状況報告を耳にしている。

 ちなみに日本政府は音信不通なので抜きである。

 

 そして異例な事に月の国王である「レオン・アルテミス」国王の姿もあった。

 

 決まったことは内政干渉覚悟で日本に地球連邦軍の総力を叩き付けると言う事である。

 月側も最大限援助すると言う形になった。

 

 そして今はモニター会談で一対一で月の国王と会話していた。


「国王陛下――今は」


『言わずとも良い。あの侵略者とは相容れぬ。未だ第三次大戦の事を覚えている者が多い故に援軍は難しいが――手出しはさせぬように言っておこう』


「英断、感謝します」


『・・・・・・第三次世界大戦――その真相を語る時が近付いているのやも知れぬな』


「・・・・・・私はまだ一介の軍人でしたから。ですが確かに私はあの時、戦争の終わりを告げたあの軍勢を見ました。アレが原因だとすれば下手するとこの戦い、第四次世界大戦の引き金になりかねません」


『我々人類は何と愚かな物だ・・・・・・何時になれば人類は、真の意味で一つになれるのだ』


「・・・・・・」


 国王の嘆きは当然だった。

 第三次世界大戦も真相は超技術の奪い合いだった。

 そしてそれこそが地球連邦本当の発足の理由であり、同時にブレンの様な強大な侵略者の襲来に備えて発足されたのだ。

  

 更に付け加えるならラウンズや九龍、天照学園は万一の為の保険である当時に、バランサーやウォッチャーとしての役割を担っているのだ。


『私は一人の人間として、ご武運を祈ります』


「分かりました。人の未来のため必ず勝ちます」      

 

 そうして会談は終了した。



 こうして世界は明日を、未来を、掴むために動き出す。 


  

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