第四十二話「勝利を掴むために」
天野 猛達一行が休息をしている一方。
自衛隊達はブレン軍をどうにか退け――いや、勝手に敵が引いていったので取り合えず体勢を建て直す為に必死だった。
その傍らで救助活動などを行う。
しかし隊員達の士気は低い。
そりゃ当然だ。
第三次世界大戦・・・・・・月との戦争も何だかんだで憲法9条のゴタゴタで巻き込まれずに済み、今になってようやく初めての実戦なのだから。
憲法については修正程度に留まり、第三次世界大戦を乗り切った今となっては憲法9条は不可侵の平和記念碑となり、同時に自衛隊にとっては呪いと化した条文である。
ブラックスカルの一件で自衛隊の名声や実績に泥を塗り、そして挙げ句の果てに待っていたのは宇宙人との戦争である。
世界基準で見れば旧式の武器は多いが、ある程度此方側の武器は通用するのが救いだった。
飛行するUFOも敵母艦の対空砲火に比べればどうにかなる。
防御力も、まあ魔法少女や飛行するパワードスーツでも落とせるので別におかしい話ではないが・・・・・・
この時代の自衛隊の戦闘機は月との戦争に備えられた最新型と型落ち機のハイローミックス構成が中心だ。
月との戦いで投入された戦闘機は当初は宇宙空間に対応するための過去の戦闘機を宇宙空間仕様に改造してノウハウを得て、新造機の開発を着手すると言うやり方を得た。
その為二十一世紀前後の時代に製造された多くの戦闘機の改良型沢山産まれ、性能的に今でも通用するために第一線を飛んでいる。
天照基地で飛んでいる戦闘機はそれを更に独自に開発、改良した物であり、彼達の独自の技術で製造コストも格段に安いので数も揃えられる。
自衛隊も過去の戦闘機の改良機を使っているのもコストや信頼性を吟味した結果で、Fー4やF-15、Fー35などのアメリカ製戦闘機の改良型や国産のF-2戦闘機の改良型などが飛んでいる。
地上では戦車と戦闘用パワードスーツ、ラウンド・ウォーリアーやロボット兵器アサルトライド、歩兵達が必死にブレン軍の襲来に備えていた。
襲撃を逃れた自衛隊達も警察や消防などと協力して避難、救助活動を行っている。
そこにカルマとティリアの姿があった。
カルマは流線的なフォルムの背中に二門の大砲を背負ったグリーンカラーのツインアイのロボットの様な形状をしている。
武器も右腕にガトリング砲、左腕に円盤型のシールド、肩にはマイクロミサイルを仕込み、額にはビームガトリング、胸部のクリアパーツはビームキャノン、足の側面にもミサイルを詰め込んだコンテナを装着していた。
しかもバリア機能まで搭載している。
ティリアは、背中に一門の大砲、左側にセンサーパーツ、右腕に汎用機関銃、左腕にレーザーマシンガン、肩部にスモークディスチャージー、足の後ろ側にキャタピラと此方も重装備仕様の白と黒のパワードスーツだ。彼女はワイルドリンクスと呼んでいる。
二人は宮園 恵理と行動していたが別れた後、半ば事後承諾で自衛隊達と合流してブレン軍と激しい戦闘を繰り広げていた。
どうにか倒せるが厄介なのは 敵の母艦クラスの円盤や巨大ロボット、そして隊長格、そして圧倒的な物量だ。
天照学園の方面から謎の超エネルギー反応を探知した後、不自然に敵が引き上げていったが正直助かったと言える。
今は臨時基地として使われている学校に来ている。
ここには大勢の避難民がいるが、また襲われたらたまらないのでトラックを使ってピストン輸送している。
しかし自衛隊のトラックもかなりの車両がやられており、民間から大型車両を徴収して移動手段として使っている有様でまだ完全避難には時間が掛かると言うのが現実だ。
それに戦力も心許ない。
また襲われたら二人が加わったとしても守りきれないだろう。
「すみません――どう言って良いのか・・・・・・」
スーツを外し、外で休憩している二人に若い自衛官がよって来た。
頼りなさそうだが今は彼が現場指揮官である。(部隊全体を指揮しているのは校舎内にいる)
防衛大学出で階級は三等陸尉。
名前の木藤から木藤三尉と呼ばれている。
馴れない実戦に翻弄されながらも必死に現場を動かしていた。
「気にするな。正直見捨てるのもアレだったし、それにあの場で生き残る為に最善の選択をしたらこうなっただけだ」
ややぶっきらぼうにカルマが言う。
「そう言うこと。自衛隊のお兄さんは気にしないで」
ティリアもカルマに習って明るい調子で返す。
「そう言って頂けるとありがたいです。これからどうするつもりですか?」
その問いにカルマは困ったように視線を泳がせた。
「それはこっちの台詞なんだがな・・・・・・正直俺達だけじゃこのまま戦い続けるのは無理だ。て言うか次襲撃されたら撤退するしか無くなる。普通の敵が相手ならもう二、三回は戦えるんだがな・・・・・・」
と言って校外に目をやる。
そこには戦いの余波で倒壊した建物や敵味方入り乱れて機械兵器の残骸が道路を埋め尽くすように大量に倒れ伏していた。
「ねえねえ、分かる範囲でいいから自衛隊の状況を教えてくれない?」
「――」
ティリアの提案に三尉の青年は悩んだ。
軍規に触れる内容であるのか少し考え込んだ後口を開いた。
「国会議事堂が攻撃されたため、指揮系統は完全に麻痺しています。かなり無茶な法解釈をして現在自衛隊は政府の指示を無視して独自に行動を取っている状態です。テロリストと呼ばれても仕方のない状態ですね」
「ブラックスカルの事件で評判悪くなってるのに大丈夫なのかよ?」
「ティリアさんの仰る通りなんですが、どの道今動かなければ自衛隊の存在意義に関わると上が判断したんでしょう。不幸中の幸いですがブラックスカルの事件で大規模な組織改革が起こったから自分達もこうして素早く動けたんです。それに国民から冷遇されるのは自衛隊の伝統ですから・・・・・・」
「イヤな伝統もあったもんだな・・・・・・」
とカルマが言う。
三尉は「そうですね」と苦笑していた。
自衛隊にとって守るべき国民から悪く言われたりするのはもう悪しき伝統の様なもんである。
二十一世紀の十年代ぐらいにはある程度改善しているがそれでも「自衛隊の存在が悪だ」とか「自衛隊がなければ戦争は起こらない」と言う倫理を平然と振りかざし、批判する平和主義者達が後を絶たなかった。
それでも自衛隊の入隊者数が後を絶たなかったのは自衛隊が自ら掴み取った数々の実績があるからである。
「話を戻しますね。手の空いている部隊は皆、体勢が整い次第反攻作戦を行うつもりです。地球連邦軍も参加します」
「地球連邦軍も動くのか?」
意外そうにカルマが尋ねる。
「みたいです。とにかく敵の対空砲火が凄まじい為、陸路で出来る限りの距離まで進軍を行い、敵の本拠地に潜入して対空砲火を黙らせ、捕らわれた民間人を救出した後に総攻撃を行う作戦です」
「自衛隊じゃ無理だな」
キッパリとカルマは断言した。
「ああ、私もカルマの意見に賛成。幾ら何でも無茶すぎる。あの宇宙服みたいなロボット兵士はともかく敵の士官級が後何体いるのかも分からないんだぜ?」
ティリアもカルマと同じ調子で断言する。
木藤三尉はそれを分かっていたのか目線を逸らして悔しげな表情をしていた。
「ですがそれしか現状案が思い浮かばないのが実情でして・・・・・・せめてお二方の様な人達がもっといれば話は変わるんですが・・・・・・」
「なら、心当たりはある」
「え? 本当ですかカルマさん?」
「ああ――まあ年齢はともかく、頼りになる連中が今学園島の出島から此方に向かって移動している。ブラックスカル事件の功労者達だから戦力としては期待していい」
カルマの言葉を聞いて木藤三尉は慌てて問い掛けた。
「い、今此方に向かって来てるんですか!?」
「カルマ? それ本当なの?」
「さっき確認を取った。敵側にターゲットにされてるからここから離れた場所で合流するつもりだ。出来れば其方の上の方と交渉して大規模反攻作戦に協力したいんだが・・・・・・」
「わ、分かりました。スグに司令に連絡を取ります!」
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