第四十一話「それぞれの想い2」



 SIDE 闇乃 影司・天村 志郎



 天村 志郎は今後どう動くべきかを考える為に様々な情報を収集していた。

 

 とにかく空路と海路はアウト。


 逃げ道は無くなるし、それに敵の本拠地は巨大な宇宙船で砲撃の射程距離がとてつもなく長い。


 それに宇宙人の宇宙船相手に地球のステルスも通用しない。

 反応兵器の類いも通用しないと見て間違いないだろう。


 空路で一気に殴り込みは幾ら何でも無謀過ぎる。

 仮に出来たとしても敵の大部隊が待ち構えていて、連れ去られた住民の救出ミッションもやれと言うオマケ付きだ。


 戦力をどうにか集めて体勢を整えつつブレン軍の宇宙船に急襲すると言うのが今後の方針になるだろう。


 それに関しては天村 志郎達の知り合いなどが既に動いているようだ。


 少し暇が出来たのか志郎は影司を呼び出していた。

 場所はトレーラーの真横だ。

 どうして? と影司が尋ねる前に志郎がこう聞いた。


「ずっと聞きたかったのでしょう?」


「うん・・・・・・」


 影司は志郎の問い掛けに自分が年上でもあるにも関わらず何処か緊張気味に返した。

 勿論、天村 志郎が天村財閥の御曹司であり、何時もの人当たりの良い笑みを抑えてクールに接しているせいもある。だが闇乃 影司はどちらかと言うとコミュ症であり、原因も「イジメられてて二次元に走った」と言う過去を持つ。


 ようするにどう接すれば良いのか分からないのだ。


「大丈夫ですよ。襲い掛かる様な真似はしません。妖精石と貴方の体に埋め込まれたと言う鉱物、それを所持する一派についてです」


「うん。僕もそれが聞きたかった・・・・・・」


「長い話になりますが・・・・・・私の父、天村あまむら 愁しゅうは学園長のJOKER影浦と一緒にある女性とその女性が所持していたオリジナルの鉱物を見付けたのが全ての始まりです」


「その鉱物が妖精石のオリジナル?」


「そうです。そしてその適正だけでなく、高い反応を示していたのは地球人である筈の揚羽 舞さんでした。この辺りは話は後回しにして・・・・・・当時の財閥はこの鉱物を持て余していました」


「確かにアレ程軍事利用に適した鉱物は無い。確かホーク・ウィンド、城咲 春歌さんのスーツはそのオリジナルの複製なんでしょう?」


「ええ。そして最初に複製に成功したのは――自分です」


「・・・・・・理由は僕を襲撃した勢力の存在を予見して?」


「母から聞いた話と妖精石の由来、そして地球に来た経緯を聞いて私は外宇宙勢力の存在の、それも攻撃的な文明の存在を予見していました。ブレンよりも既にこの地球に潜伏し、今も何処かで活動している・・・・・・」


 そう、闇乃 影司を化け物に変えた勢力はこの期に及んでも未だに大きな動きを見せてない。


「しかし、外宇宙勢力にしては人間の姿をしていたけど?」


「貴方の様に姿形程度なら変えられるのかも知れません。周りにいたと言う子達もマインドコントロールによって支配下に置かれていると考えるのが自然でしょう」


「まあそれぐらいの技術はあると考えるのが自然か・・・・・・」


 あのファンタジー小説に出て来る女王様みたいな格好をした、薄気味悪い恐さを漂わせる美女の周囲にはパワードスーツを着た少女達がいた。

 アレも全員何かしらのマインドコントロールを受けているのなら納得だ。


「正直に言うと私も闇乃さんが追っている敵の正体――黒いセイントフェアリーの事も余り知らないのです。揚羽 舞さんはセイントフェアリーとして昔から活躍していましたし、ブラックスカルの事件前後でも知名度は高い方でした。それを模して産み出そうと言うのは何かの当て付けなのかも知れません」


「そうか・・・・・・」


 これで影司は手掛かりが途絶えた事が分かった。

 分かったのは天村財閥の最重要機密と敵が宇宙人である事ぐらいである。


「最初、どうして俺が狙われたのか不思議に思っていた・・・・・・」


「あ、一人称俺なんですね?」


「え、ああこれは――」


「遠慮しなくてもため口で構いませんよ?」


「わ、分かった・・・・・・」


 シリアスなムードに水を差され、影司は顔を赤らめながらも咳払いしてこう尋ねた。


「あの橋で見た光景、覚えてるか?」


「ええ。覚えてます」


「顔が暗くて良く見えなかったけど、アレは確かに未来の自分だった――そして自分の未来を知っているかのようだった」


「私もベルゼルオスに選ばれたと言われました。つまり、それを知っていたと言う事ですかね?」


「恐らくは――皆が何かしらの形で戦う事を知っていたのかも知れない。ホークだけはあの場にいなかったのは恐らく、何かしらの超エネルギーに導かれた、もしくは関わりのある人物と関わって無いからだと推測できる」


「私も同じ事を考えていました。闇乃さんもですか?」


「ヒントはゲームとかのサブカル知識だけどね」


「成る程」


「そして未来の俺は揚羽 舞にこう言っていた。闇の女王に気を付けろと。つまりこれは闇の女王と揚羽 舞は戦う運命にあると言える――そう遠くない未来に戦う事になるんだろう」


「・・・・・・」


 志郎は苦い顔をしていた。


「ど、どうした?」


「い、いえ、自分の最悪な推測が当たってしまった事についてちょっと・・・・・・それに、昔から謎だったんです。どうしてただの地球人である筈の揚羽 舞さんに妖精石の適正があるのか。最初から決まっていた運命だったんですね」


「・・・・・・」


 もしくは一度死んだとかどうとか関わらず、セイントフェアリーになって闇の女王に戦う事自体が運命だったのかも知れない。

 そしてベルゼルオスの誕生も未来の影司の言葉から察するに決まっていた様な口振りだった。

 全てデタラメだと切って出来るが、本当に未来を見て来たかのようにあの人物は知り過ぎている。


 そしてそれは闇乃 影司に関しても――


『最後に――闇乃 影司・・・・・・この場で既に想像を絶するような耐え難い未来を垣間見ただろう。この場の中で一番辛い試練が待ち構えていると言って良い。もしまた――大切な人が出来て失っても、それが幾度も繰り返されようとも足掻け。足掻いて足掻き抜け。そして忘れるな。失われた人の命は――お前に受け継がれるんだって――』


 一時一句、影司は全てを覚えている。

 同時にあの時、影司は絶望の未来を垣間見た。

 ボンヤリとではあるが・・・・・・


(俺は一体どうなるんだろう・・・・・・)


 自分の未来を暗示したあの光景を思い出す度に不安が強く心の中にのし掛かる。


 自分はどうなるのであろうか?


 影司はそう思わずにはいられなかった。



 SIDE 城咲 春歌・嵐山 蘭子


 トレーラーの運転席。

 まるでSF物の宇宙船のブリッジとかにも見えなくも無い未来的な内装だ。

 そこに嵐山 蘭子は運転席でパネルと睨めっこしていた。


 そして春歌が現れた。

 コンビニの袋と一緒にやって来た。

 日本は何だかんだで食料は捨てる程ある近代国家である。

 今の騒動になってからまだ一日も経過していないので現地での食料の調達はある程度可能だった。

 出島の街は人々が避難したのか人気が全くなかったが。


「食事お持ちしました」


「おお助かる。てかお前何時も猛と一緒にいるもんだと思ってたんだけどな」


「ええちょっと色々とありましてね」


「そか――」


 そう言って食料を受け取る。

 典型的なコンビニ飯だ。


「何をしてたんですか?」


「今後の方針とか練ってた。まだニュースとかも生きてるんだけど、どこもかしこも酷いもんらしい。特に自衛隊は敵の砲撃のせいで手も足も出ないそうだ」


「まあその辺りは志郎先輩から聞いていた通りですね」


「普通に考えれば当然だよな。宇宙空間も、それも外宇宙を旅する船だろうし、射程もそれ相応だろう。対抗するには波動エンジン搭載艦とかじゃないと無理だな――ジェネシス時代に研究されてたらしいが」


「え? 先生もジェネシスと関わってたんですか?」


 その事に春歌は驚いた。


「まあな。お前達の事も、上からそれとなく見守ってくれって頼まれてた。つってもどうすれば良いのか分からんからほったらかしだったが・・・・・・猛に関しては別だ。アイツ、友人殺されたんだろう?」


「ええ・・・・・・」


 天野 猛がレヴァイザーとなって戦うキッカケになったあの事件は時期的には中学一年の終わりぐらいだ。

 春歌は身近にいてその事に気付けなかったのがとてもショックだった。今でも悔やんでいる。


「私は正直教師に向いてないと思ってる。つーか人様に説教出来るような生き方なんかしてないし、教師になった理由も殆ど成り行きだしな・・・・・・だけど、まだ十年ちょっとも生きてない子供があんな経験するなんざどう考えても間違えてる。だけど私には止められなかった。いや、経験則で知ってたんだろうな。止めても無駄だって。下手に押さえつければ何しでかすか分からなくなるから好きにさせといた方がいいって・・・・・・」


「――それは」


「言ってもいいんだぞ。教師の資格なんてねえって」


「いえ、謝るのはこっちです。ずっといい加減な人だと思ってました。だけど猛さんの事、そんなに思って――」


「だけど何もアクションを起こさなきゃ意味ねぇっての」


 そう言って食べ始める。

 コンビニ弁当は種類によっては具と御飯をベツベツにしてボリューム詐欺していたり、味が濃かったりするがそれでもカロリーを手早く摂取できる点では優れている。

 もっとも毎日となると、種類を変えるなりサラダとかを挟まないと体が悲鳴を上げるのだが・・・・・・


 平和休題。


 嵐山 蘭子は悲しげな表情で割り箸で飯を口の中に流し込んでいく。


「本当に、ずっと見守る事しか出来なかった。幸い猛は賢い奴だった。暴走する様な事は無かった。もしも暴走したら教師として力尽くで止めるつもりだったが杞憂だったみたいだ」


「猛君は今でも加島君の事を想っています。同時に加島君の想いの為に戦っています。だからヒーロー部の活動での猛君は――正直見ていて嬉しかったです。まるで心の底から楽しんでるようでしたから」


「――そうだな。こんな戦い、さっさと終わらせてヒーロー部再会と行くか。私はいないだろうがな・・・・・・」


「えと・・・・・・先生・・・・・・」


 嵐山 蘭子はクビを覚悟で生徒達を引率している身だ。

 恐らく今回の一件が終わったらヒーロー部の風景に蘭子の姿は無いだろう。


「そんな顔すんな春歌。それに――今の状況を終わらせないとヒーロー部も何もあったもんじゃないだろ?」


「は、はい」


「じゃあ春歌もさっさと食べる。飯食わないと戦いは出来ねーぞ」


 そう言って蘭子は何時もの調子で食事を春歌に急かした。 



 SIDE 天野 猛・倉﨑 稜


 天野 猛と倉﨑 稜が街の中を歩いていた。

 珍しい組み合わせである。


 猛は先程まで春歌と。


 そして稜はホークと一緒に居た。


 春歌とホークはトレーラーに戻り、二人は巡回ついでに街からこれからの戦い――と言うか旅に必要になりそうな物資をかき集めつつ、逃げ遅れた住民がいないかどうか見て回っている。


 ついでに立ち話だ。


 二人はアーカディアに所属していたが稜は専ら裏方要因で主に志郎の下で動いていたために、あんまり接点がなかった。

 アーカディアは解散し、ヒーロー部と悪の組織部とで別れた今はより接点は少なくなった。


「何か珍しい組み合わせだね?」


「そうですね――自分でもそう思います」


 と返しながら両手にカゴを持つ二人。

 食料だけで無く、色々な生活必需品などが入っている。

 出町の街中からかき集めた物だ。

 勿論徴収した店には天村財閥の小切手やら手渡された現生の軍資金を置いてある。


「一つ聞いてよろしいでしょうか?」


「な、なに?」


 稜は猛と違い一つ年上である。

 更に事務的な口調である上にクールで綺麗な容姿をしているせいでより年が離れているようにも感じていた。


「貴方は城咲さんの事を愛しているのですか?」


「え? と、突然何を聞くの!?」


 顔を真っ赤にして聞き返した。


「僕は恵理さんを愛しています。ですけど、どうして愛しているのか分かりませんでした」


「そ、それは僕だって――ずっと近所だったし――」


「幼馴染みと言う奴ですか? 余程幼い頃から近所ぐるみの付き合いが無ければ中学生になってまでも関係が続かないと聞いてますが?」


「妙に詳しいんだね倉﨑先輩って・・・・・・」


 何だか背後に志郎の影がちらつく説明の仕方だった。


「稜で構いません。その代わり、猛と呼んでも構いませんか?」


「い、いいけど――」


「では猛。貴方にとって城咲さんとはどう言う存在なんですか?」


「え、えと? 言わないとだめ?」


「無理にとは言いません。ですけど、ここで「ただの幼馴染みで恋人じゃないから」とかホザいたら取り合えず殴ります。ハーレム系ラノベの主人公かテメエはかと」


「恐いよ!? そ、そんなんじゃ無いから!? その――えーと――」


「つまり反応から察するにキッカケさえあればラブラブ状態になるんですねと解釈します」


「も、もうそれでいいです・・・・・・」


 この人は何が言いたいのだろうかと顔を真っ赤にしながらため息をついた。

 猛がこう思うのも何だが強ち間違いでも無い。


「では、愛する物を戦いに巻き込む事についてはどう考えてますか?」


「それは――」


 猛の顔から赤味が引いていく。


「僕は恵理さんには本当は戦って欲しくない。安全な場所にいて欲しいと思ってます。だけど恵理さんはきっと戦うでしょう。僕に出来るのは傍で戦い、支える事だけでしょう」


「・・・・・・稜君は偉いんだね。正直僕は春歌ちゃんが戦う事が反対なんだ。特に学園での戦いなんかでは危険な目に遭ったりもして・・・・・・」


「それが普通何ですね。僕もそう思います。そして春歌さんも恐らくはそう思っている筈です」


「え?」


「自惚れかも知れませんが恐らくは恵理さんも同じ事を考えてるでしょう――そして舞さんも、志郎さんも」


 稜の言う通り皆不思議と考えている事は同じなのかもしれないと、不思議と納得している自分がいた。


「愛する者を全力で守りたい。互いにそう想っているからこそ共に危険な、命を落とすかもしれない戦いの場にいる。いっそ、戦いの場から逃げられたら楽なのでしょう」


「・・・・・・稜君はどう思っているの?」


「嘗ての自分なら恵理さんやその周辺の人物さえよければ他はどうでも良かったかも知れません。だけど今の自分には、学園島で暮らしているウチに守りたいモノが沢山出来ました。そして自分には幸か不幸かそれを守る力があります。その上で愛する者も守りたい。言ってる事はメチャクチャだと理解はしています。だけどそれが正しいと思うから戦いから逃げたくないんです」


「凄いんだね稜君は・・・・・・」


「いえ、僕はただ理想論を述べているだけです。実行に移して実現できるかどうかは分かりません」


「それでも凄いと思う。僕は一時期戦いに逃げてたから」


「逃げてた?」


「友人に庇って貰って――そのショックから逃れるために戦いに安息を求めていた時期とかあったんだ。学園ではちゃんと何時も通りに振る舞って、わき上がる悲しみや怒りの感情を押さえ込むためにね」


「自分と同じなんですね」


「え?」


 猛は目を丸くした。


「僕も恵理さんを助けられなくて一時期は戦いにその感情をぶつけていました。だけど影司さんと出会えて変われました・・・・・・」


「影司さんってあの美少女みたいな男の人?」


 付け加えるなら、ヒーロー物の最後辺りに出て来そうなラスボス臭が漂う怪人みたいな変身出来る人とかは言わなかった。

 あまりのギャップに最初は猛を含めて皆驚いた。


「はいその人はまるで嘗ての自分のようで、そして自分は何をやってるんだろうと思えるようになって・・・・・・とても強いのに、心はとても脆くて、何時もうなされて・・・・・・それがとても可哀想でした。同時にそれと向き合おうとする強さもありました」


「かなり繊細な人なのかな?」


「そうなのかも知れません・・・・・・」


 ふと稜は腕時計に目をやった。


「さて、少々話し込み過ぎましたね。一旦皆さんに合流しましょう」


「うん」


 そして二人はトレーラーへと戻っていった。

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