第四十話「それぞれの想い」
SIDE 宮園 恵理・揚羽 舞
二人は昼食――と言ってもコンビニに代金置いてそのまま食事したものだがで済ませた。
皆も同じ感じだ。
天村 志郎や嵐山 蘭子は今後の計画を練る為に大型トレーラーで今後の方針を話合っている。
二人は気晴らしに海岸に来ていた。
彼方此方で煙の手が上がっている。
ネットのニュースもどこもかしこも地獄のような状態で政治機能は完全に麻痺しているようだ。
自衛隊は現場の判断で政治家の指示を待たずに独自に行動しているらしい。
憲法違反だが戦える力があるのに座して死ぬのは嫌だったのだろう。
世界中で敵の円盤は猛威を振るい、そして日本国内では本拠地がある巨大円盤が鎮座している中部地方を中心に人間を集めて円盤に連れ去っているらしい。
何を目的に集めているか分からないがその人達の救出も考えなければならない。
「こうして二人きりで話すのは久し振りね」
そうね、と舞は返した。
今二人は自衛隊の基地近くにある海沿いの綺麗に舗装された道にいる。
海と陸地では柵で仕切られ、当然人気は少ない。海の先には学園島の天照大橋と商業地区が見え、夜になれば都市の光による夜景で素敵なデートスポットになるだろう。
「私も正直驚いている。だけどどう返せば良いのか・・・・・・」
正直恵理の変化は舞の比ではない。
特にワンピースの私服越しでも恵理の両胸はいやらしく膨らんでいてその存在感を主張している。
それでいて恵理は目鼻建ち整った美少女だ。並大抵の男を容易にケダモノに変えてしまうだろう。
稜はよく平然といられるなと舞は思っていた。
一方で恵理も舞の事を羨ましく思っていた。
舞は一緒の女性の理想像と言うか、格好いい女性その物なのだ。
それでいて自分と比べて清潔路線な変身ヒロインとして頑張っていて羨ましく思っていた。
人気もメディアの露出が多い分、圧倒的にセイントフェアリーが上である。
「舞ちゃん。やっぱりその・・・・・・あれこれ想像しちゃってるでしょ?」
「あ、あの・・・・・・」
「いいよ。舞ちゃんなら――こんな体になって色々と辛い目にあったけど、けどそれでも悪い事ばかりじゃないし、それに――その、舞ちゃんなら揉んでもいいよ?」
「え!? ちょっ!?」
舞は顔を真っ赤にした。
自分は森口 沙耶の様なレズビアンでは断じてない。
だが何故だかその誘いを断り切れない自分がいる。
「あ? 私の胸・・・・・・触りたくないの?」
「いや、その――」
「ごめんなさい。でもこうでもしないと打ち解けられないかなって思って」
「恵理さん・・・・・・心臓に悪いわよ」
「ごめんごめん。でも揉みたかったら何時でも言ってね?」
「あ、そこは否定しないんだ」
「うん。心許した相手なら良いかなって思ってるから。勿論同姓限定で。稜からも承諾済みだから」
「あの子にも許可取ったんかい・・・・・・てかあの子本当に不思議よね。すっかり志郎に染められてる感あるけど」
「でしょ? 悪の組織部とか言う訳の分からない部活に入って・・・・・・」
「あの? 恵理さん?」
恵理は顔を真っ赤にしてブツブツと何かを呟いている。
「あ、ご、ごごご、ごめんなさい。ちょっとその――あーんな事とかこーんな事とか考えてただけだから」
「う、うん・・・・・・深くツッコンだらダメな事よねそれ」
あんまり深くツッコムとRー18指定になる。
それにお互いまだ中学生である。
どうしても性に興味を抱く年頃だが程々にしないとキリがない。
「それで稜はどう? 同じクラスなんでしょ?」
「不思議な子で世間ズレしてる所もあるけど悪い子じゃないわね。最近は志郎とコンビ組んでよろしくやってるわよ」
「そう・・・・・・」
「それよりも闇乃 影司なんだけど・・・・・・恵理さんは何処まで知ってる?」
ふと話題を闇乃 影司に切り替える。
「闇乃 影司の事、徹底的に調べ上げたけど――分かったのは日本の・・・・・・いえ、私達と同じ世界の裏側の中の裏側の存在よ――宇宙人が存在している今となってはおかしくないけど、ちょっと前までは妖怪とか退魔師の存在なんて信じられなかった。けど今なら何となく信じられる」
「志郎曰く、妖怪は和風戦隊物だかに出て来る感じの奴ららしいけどね。アイツその手の業界でも顔効くみたい」
「そ、そう・・・・・・」
志郎の顔の広さに恵理は苦笑した。
「で問題なのはアイツが追っているらしい黒いセイントフェアリー・・・・・・そして闇の女王・・・・・・志郎と同じく何かしらの方法で妖精石を製造してそれをばらまいて戦力を集めている連中が確かにいるみたい。闇乃さんによると紫色の禍々しい鉱物を闇の女王って奴に植え付けられて化け物同然の姿になってみたい。軽くトレーラーの施設で検査したけど細胞単位でほぼ人間とは別物に変化しているそうよ」
「そんな人でも稜は受け容れるのね・・・・・・あの子らしいわ」
「そうね」
恵理の呟きに舞も同意した。
二人とも稜との付き合いは個人差があるが人となりは分かっている。
不思議で独特で時折何を考えているか分からない所があるが良い奴なのは分かっていた。
「さて、戻りますか」
「ええ」
そして二人は海岸沿いの道を後にした。
☆
SIDE ホーク・ウィンドウ・倉﨑 稜
ホーク・ウィンドウと倉﨑 稜は始めて会った場所に来ていた。
彼達が最初に出会った場所は今拠点としている出島から少し離れた場所にいる。
人気が少ない脇道へと続く入り口。その先には建物に囲まれた大きな空き地がある。
そこでカラーギャング、ワイルドウイングの警備員として一人見張り番をしていた。
今となっては過去の話である。
「ここだったな。お前達と始めて会った場所は」
と、ホークは固い地面を見下ろす。
後ろには稜がいた。
「ええ――未だに疑問なんですがどうしてカラーギャングの用心棒なんかやってたんですか?」
「さあな。今は正直俺でもわかんね――」
「そうなんですか?」
「大体の人間がそんなもんだと思うぜ? 上手くいえねえけど・・・・・・大体何でお前俺に付いて来てんだよ」
「恵理さんは何か舞さんと話があるみたいでしたから。この前一緒にカラオケとか行きましたけどある程度腹を割って話せる良い機会だとかで・・・・・・」
「まあ確かにな」
ホークは人生で挫折は味わっているが、彼女達二人と比べればよくある自業自得な不幸話程度だ。
その事に改めて気付いてホークは恥ずかしくなる。
特に宮園 恵理なんかは下手なアメコミヒーロー真っ青な不幸なオリジンがある事だろう。
ちなみにオリジンと言うのは日本語訳で起源、アメコミヒーロー用語ではヒーローが力を持った、ヒーロー活動を始めたキッカケ全体を指す言葉である。
「病院入れられてスグ後の殴り合いに負けて、最初俺は悪の組織部とか訳の分からん変な部活に入れられて後悔したけど・・・・・・犯罪に手を染めてるカラーギャングの用心棒よりかはずっとマシだったんだろうな・・・・・・」
「かなりネーミングとかで愚痴ってませんでしたか?」
「幾ら何でも子供でも思いつかんネーミングだったからな。正直、名前考えた奴の正気を疑った。ヤクでもやってんじゃないかと思ったぐらいだ」
「ボロクソな評価ですね」
この場に天村 志郎がいたら何て言うだろうかと稜は思ったが、たぶん「いやあ、それ程でも♪」とか返す気がした。
「だけどあのままカラーギャングにいたら間違いなく、何時か警察にパクられてたのは確かだし、それに悪の組織部に入れる事でヒーロー部と同じく学業とかに+に働くようになってるんだろう? そこら辺はちゃんと感謝してる」
「そうですか・・・・・・何か今日はやけにお喋りですね。普段はあまりそう言う感謝の言葉は述べないのに」
「だろうな。皆の前ではああ言ったが、何だかんだで宇宙人と真正面から殺し合いとか訳の分からん状況に混乱しているんじゃないのかってな」
「・・・・・・それが普通だと思います」
「お前はあの胸が大きい嬢ちゃんが関わらないと変わらないな」
「そ、そうですね。それとあまり恵理さんの事をそう言う風に言わないでください」
珍しい事に稜は照れくさく顔を朱に染めた。
ホークは苦笑しながら「分かったよ」と返し、建物の壁に背を預けてもたれ掛かった。
「・・・・・・昔はこれでもボクシング真剣にやってたんだけどなぁ」
「突然なんですか?」
「いやな。やっぱり俺恐いみたいだ。こんな緊張感久し振りだ。はき出せるウチに吐き出して置きたいんだわ」
「何か死亡フラグっぽいですよ」
「お前、本当に天村の大将に毒されてんだな・・・・・・」
ホークは目を細めて稜を見詰め、呆れた感情を抱いた。
「聞くのか? 聞きたいのか?」
死亡フラグとか言うので少し興を削がれたので両目を瞑り、少し怒気を含みながら稜に尋ねた。
「聞きます」
「そうか」
気を取り直してホークはコホンと咳払いする。
「俺は幼い頃からボクシングやっててな。アメリカでは一時期人気は低迷してた頃はあったんだが日本がプロレス人気が再燃しているみたいにボクシングも再燃している状態だな。世界選手権の試合を見て、何時かあのリングに立ちたいとか思うようになってボクシングを始めたんだ」
「成る程――」
一般的なプロアスリートになるキッカケは稜には分からないが、ホークらしい理由だと思った。
「それに日本の昔のバトル漫画作品とかにも嵌まってな、特にドラゴンボー●とか。それに影響されたのもあった。何だかんだで俺もオタクらしい」
「いや、世界規模で大ヒット飛ばしている週間連載漫画とかに嵌まるだけならまだオタクのカテゴリーには入らないらしいですよ。志郎さんが行ってました」
稜の返しを聞いて「曖昧な基準だなオタクの世界って・・・・・・」とホークは苦笑する。
「話戻すぞ――んでまあ運良く才能はあったらしい。努力した分だけそれに見合った成果を叩き出して順風満帆にボクサーとしての人生を歩んでいた。必死頑張ってプロボクサーになってチャンピオンベルトを巻く。それしか考えて無かった・・・・・・だがある出来事がキッカケに俺はリングから離れた」
「それが――」
「ああ。中学の頃の話だ。科学都市のジュニア・ハイスクール部門でのボクシング大会に参加した時の事だ。科学都市も天照学園みたいにクリーンとは言い難い負の側面みたいなもんがあってな、ギャング連中が出入りしたりしてたのさ――」
ホークの言わんとしている事は分かる。
天照学園も一時期はブラックスカルと言うカラーギャングが出入りしたり、メダルを薬物の様に売り捌いたりしていた。
そして学園の上層部の中には政府ぐるみでその動きを黙認する人間すらいた。
結局のところ、こう言った犯罪が起きるのは大勢の人が集まる場所の宿命みたいなものなのだろう。
それが国家と言う枠組みであれ、都市と言う枠組みであれ。
「そのギャング連中は科学都市にある学校中にも入り込んでいた。そして俺にある儲け話を持ち掛けて来やがったのさ」
「八百長ですか?」
「ああそうだ」
ホークは「話の流れで大体分かるよな」と呟き、言葉を続けた。
「俺は当然拒否した。それにスポーツマンにとって八百長って奴は選手生命が絶たれるぐらいの重罪だからな。二度と表舞台に上がれない。死刑とも言って良い。それにボクサー云々以前にプライドがあった。だから拒否した。しかし考えが甘かった。アイツら俺の周辺の人間を人質にとって脅迫して来やがったんだ」
「そんな惨い事を・・・・・・」
「だから八百長に応じるしか出来なかった――だけど何もかも投げ出したくなって俺はリングから降りた。んで人質にとった連中をボコボコにしてやった。二度と病院のベッドから立ち上がれないぐらい、拳がイカれるまで殴り倒した。だが例えどんな理由があれ、八百長して更にはリング以外の場所で拳を振るったんだ。ボクサー云々以前にスポーツマンとしての俺はあの時死んだも同然さ」
「・・・・・・その後は?」
「その後はお前も知っての通りさ。怒りが収まらず、八つ当たりするように暴れて暴れて暴れ回った。そして両親の手で天照学園に飛ばされた頃にはある程度落ち着いたが、どうしても未練がましくデザイアメダル無しのストリートファイトに身を投じて、でも俺バカでさ。何時か生身でもデザイアメダルで変身した奴を倒せるぐらい強くなろうとか密かにトレーニングしたりもしてたけど心の奥底じゃ無理だって思って燻ってた。結局のところ俺は相手云々以前よりも自分に負けてたんだよ」
ホークは青空に視線を移す。
「お前が現れたのはそんな時さ。そして自分の知らない世界を知った」
「自分の知らない世界?」
「そうさ。お前やレヴァイザーと学ラン仮面とかの試合とか・・・・・・あれ以来、俺はハヤテに頼んで稽古付けて貰ってる。日本ではこう言うんだっけ?「井の中の蛙、大海を知らず」って・・・・・・確かに俺は蛙だったらしい。そして知った大海は素晴らしかった。もう子供の頃夢見た、チャンピオンベルトを巻いた元のボクサー戻れないかも知れないが・・・・・・それでもまあ楽しくやってたよ」
「ボクシングには戻らないんですか?」
ホークは嬉しそうに語っているが稜はそこが気になった。
「ボクシングに戻るにしては余りにも罪を犯し過ぎた。ケジメみたいなもんだこいつは――」
「はあ・・・・・・」
それにとホークは一人思う。
あの時見たレヴァイザーと学ラン仮面の戦いは何故だか昔見たボクシングの試合のあの熱気を感じる事が出来た。
もしかしたら自分はチャンピオンベルトよりもあの熱気を求めているのかも知れない。
「まあ、これで俺の話はしまいだ。また今度で良いから何時かお前の話も聞かせろよ」
「え? 僕のですか?」
「何だ? お前も何かヤバイ内容なのか?」
「いえ・・・・・・正直人に信じて貰えるかどうか分からない内容なんですけど」
稜は真面目に言ったのだがホークは笑った。
「宇宙人が現れたご時世に何言ってやがるんだ。あ、だけどホラーなのは勘弁な?」
「どうしてホラーはダメなんですか?」
「あ、そこ言わなきゃダメ?」
「?」
恥ずかしげにホークは視線を稜から逸らす。
「それよりも、そろそろ戻りますか?」
「ああ。今後の活動方針が纏まったかもしんねーしな」(助かった・・・・・・)
そうして二人は帰路についた。
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