第四十五話「過去」
SIDE 宮園 恵理・カルマ・ティリア・マクシミリアン
日は夕日は差し掛かった。
今も尚日本各地ではブレン軍との戦いが繰り広げられているが、少なくともこの場では静かになった。
春歌の覚醒により、疑問符は残る物のどうにかその場を凌いだ一行達。
避難所――今は自衛隊が曲がりしている都内の学校で一行はその場の自衛隊の代表者とカルマとティリアに合流した。
「しかし危なかったぜ。あのままじゃ全滅もありえた」
「そうだね。カルマの言う通り悔しいけどあの戦力相手だともたなかった」
運動場の一角を借りてカルマとティリアはそう述べる。
周辺では自衛隊の隊員たちがせわしなく動いていた。
時折珍しそうな視線を向けてくるがそれぐらいだ。
「巨大ロボットに円盤に機甲兵器だもんね――ほんと、二人でよく頑張ったわ」
と、恵理が述べる。
二人のパワードスーツは特注だがあの大部隊相手に真っ向から戦う為の装備ではない。
それでも戦えたのは思わぬ援軍と言う運もあったが、それまで持ち堪えた実力もあるのだろう。
「そうだぜ。相手が相手だから自衛隊下げてなきゃとっくの昔に自衛隊全滅してたぜ」
「ま、ティリアの言う通りだな。残って戦うとか言う馬鹿はいたが……クソ」
サングラスで目元は分からないがカルマは忌々しそうに言い、口元を歪める。
ティリアは申し訳なさそうに俯いていた。
どうやら少なからず自衛隊に被害は出たようだ。
その事について恵理はあまり聞くつもりは無かった。
「ともかく、こんな状況だが無事で何よりだ」
「援軍も引き連れてくれたしね。送り出した甲斐があったってもんだよ。動機はどうアレね」
「もう、ティリアってば……それは言わない約束でしょ」
傭兵として戦地を回っているせいなのか二人とも気持ちの切り替えが早い。
恵理はティリアに茶化されて顔を真っ赤にした。
「そう言えばその稜は?」
ティリアはてっきりと恵理は稜とベッタリくっついているとばかり考えていたが恵理の傍におらず、ティリアは不思議に思った。
カルマも口には出さないがその点は疑問に思っていた。
恵理はとにかく稜への依存度が高い。アウティエルになった頃は特にそうだった。
今は稜との関りが増えて改善して行っているが今でも時折、稜が傍にいないと精神的に不安定になる精神状態になる。
だから二人は危険を冒して犯させて恵理を稜と合流させたのだ。
「ああ、あの子なら今ちょっと友達の傍にいるみたい」
「稜の友達?」
カルマは色々な顔を思い浮かべ誰かまでは分からない。
「闇乃 影司って子――最初、私も警戒して、そりゃまあ稜と一緒にいていい気はしなかったけど、悪い子じゃないみたい」
「ああ。あの童話に出てくるお姫様の様な男の娘か」
直ぐに思い当たったのかティリアは闇乃 影司をそう評した。
実際恵理もそう思った。最初は稜の新しい彼女かと思って激しく動揺してしまい、さらに性別が男だと知った時はもう訳が分からなかった。
何しろ闇乃 影司は世の女性達が羨むような一種の理想的な容姿をしている。
もっとも恵理も胸が大き過ぎるのもあるがそれでも世の男子達が見惚れる美少女であり、胸が小さかった頃は女性にも人気があったり羨ましがられたりもしているが……
それでも恵理は影司の事が羨ましくて、もし彼が女性だったら諦めて身を引いていたかも知れない。それ程の容姿だと認めていた。
いざ接して見れば年下の女の子相手でも初心な反応見せたり、小動物の様な可愛らしさがあったりしてそのギャップがいいとか恵理は思ったりもしているのだが――
「確か変身するとアメコミの敵役にしか見えない容姿になるんだよな」
カルマの言う通り、影司は変身すると可愛らしい容姿に反して漆黒の禍々しい怪人(しかも強い)になる。
そのせいで稜と影司が接するのは気が気でなかったが……
カルマの問いに恵理は苦笑しながら「そうね」と返してこう答えた。
「影司君が住んでた町がこの近くにあるみたい。だから一緒にって」
☆
SIDE 闇乃 影司 倉崎 稜
関東はもはやブレンの勢力圏内である。
西の方では関西県内にもブレンの軍勢の手が伸びている。
一日でこの有様だ。
日本全土が勢力下に置かれるのは時間の問題だろう。
そんな状況下で、二人が強いからと言って独自に行動するのは危険と言えたが、だからこそ行動を起こした。
何時死ぬか分からない状況だ。
やり残しは無いようにしたい。
もっとも影司は今の行動にあまりノリ気ではなかった。
稜は単純に興味を持ってしまったからその責任ついでに一緒に付いていっているだけだ。
「ここは?」
「遂最近まで住んでた町だよ・・・・・・」
凛堂市。
嘗て闇乃 影司が通っていた凜堂学園があった町であり、生まれ故郷であり、そして自分自身の手で成り行きとは言え壊滅させてしまった場所だ。
ここでも激しい戦闘が繰り広げられたのか、一方的な戦いがあったのか町は酷い有様だった。
何処まで復興したのかなど分かりようもない。
「ここが影司さんが住んでたところなんですね?」
「ああ、嫌な記憶しかないんだがな・・・・・・」
影司はここに来るのは正直イヤだったが稜がどうしてもと言うので承諾したのだ。
何というか影司は稜にはとても甘い部分があり、それに居候先の家主と言う事もあり頭が上がらないと言う事情もある。
「で? どうするんだ? ノンビリと観光する時間はあんまないぞ?」
凛堂市事態あんまり観光スポットは無い場所だ。
それに影司自身、行きたい場所なんてあまりない。
強いて言えば自宅と実家と学校がどうなっているか気になるぐらいだ。
「うーん。僕自身は心の衝動に従って来てみたのですが・・・・・・そうですね。影司さんの家に行ってみたいですね」
「この戦場跡地で原型が残ってたらね・・・・・・」
「影司さんは行きたい場所は無いんですか?」
「あ~正直言えば、いらんトラブル背負い込みたくないしあんまりこの町には帰りたくなかったんだよな・・・・・・」
「そうですか・・・・・・」
「ま、家の状態がどうなってるかぐらいは確かめておくか」
二人は影司の家に向かった。
☆
影司の家は残っていた。
窓ガラスが割れたのでシャッター閉めてそのまま放置していたが、以前の状態は保っていた。
奇跡的だ。
二階建ての庭付きの一件屋。
今にして思えば高そうな家に住んでいたものだ。
「変わらないな・・・・・・」
守善 霞。
愛乃 小春。
たった二人の自分だけの味方。
特に守善 霞は親代わりでもあり、同時に肉体関係を持つまでの仲に至った。
それ程までに当時の自分は弱っていた。
恐らくも何も霞や小春がいなければあの日を迎える前に死んでいただろう。
だがそれすらも運命だったのだろうか?
天照大橋で見た断片的な記憶の数々を受け取ってそう思わずにはいられない。
これではまるで二人は無駄死にだったかのように感じられる。
「なあ・・・・・・稜、今花屋開いてるかな?」
夕焼け空を眺めて涙を流しながら影司は言った。
「・・・・・・空から探せば」
「悪い」
そして二人は花屋を探し出す。
手分けして探したところ、思いの外近所に見つかった。
花言葉とかは知らないので綺麗そうな花を見繕い、無人の店のレジに金を置いてその場を後にし、凜堂学園の跡地を尋ねる。
仮設校舎が建造され、避難住民や自衛隊がいた。
「注目されてますね」
「うん・・・・・・」
何度も語るが稜と影司はとても綺麗な容姿をしている。
アイドルやモデルとして食っていけるレベルだ。
そして二人は花束を持って入り込む物だから自然と注目が集まる。
影司は内心とても緊張していた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫・・・・・・この体になってから色んな能力が染みついてね・・・・・・中でも完全記憶能力だと思う能力があって・・・・・・いじめられてた過去とか、ここで自分が何をやったのかとかそう言う過去まで思い出してしまうんだ・・・・・・」
「・・・・・・大丈夫です。僕が傍にいます。一緒に行きましょう」
「うん・・・・・・」
影司は稜に支えられながらも、仮設校舎の裏側に辿り着く。
瓦礫などはもう全部撤去されて、ブレンとの戦いが無事に終われば新しい校舎が建築される事になるだろう。
「遺体はどう言うわけか俺の体の中に収納されたけど、ここで、自分を守って――二人は息絶えたんだ・・・・・・だからここに花束を捧げる」
そして何も無い場所に花束を捧げる。
花束は枯れて、何れ誰かに撤去されるだろうがそれでも影司は満足だった。
暫くその場に佇む影司。
彼の頭の中では霞や小春との思い出が渦巻いていた。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・ああああああ・・・・・・」
どんどん悲しみが溢れ出してくる。
あの最後の瞬間。
あの時自分が何を思ったのか。
あの時、二人はどんな表情で自分を見送ったのか。
克明に思い出していく。
影司は泣いた。
人目など関係なく泣いて泣いて泣き続けた。
それを聞きつけたのか人がよってくる。
稜は慌てて変身してその場から立ち去った。
☆
そうして稜と影司は元の自衛隊の拠点となっている学園に戻る。
屋上で影司はフェンスを背にして顔を覆って座っており、稜はとても申し訳なさそうに顔を俯かせていた。
「僕は――」
「言わなくていい」
稜が何かを言おうとしたが影司は言葉を遮った。
「何時かやらなきゃいけない事だった。それを今やっただけだ。悲しいけど、後悔なんかしてないから」
「・・・・・・」
「大丈夫。だから一人にしてくれないかな?」
コクリと頷いて稜はその場から変身して立ち去った。
「なあ・・・・・・どうして自分だけは生き残っちまったのかな? こんな想いをこれから先もしなくちゃいけないのかな? 教えてくれよ、未来の俺――」
夕焼け空を見上げて影司は語りかけるように言った。
当然だが返事は返ってこない。
☆
Side 倉崎 稜・宮園 恵理
珍しく稜は拠点としている校舎の人気の無い場所に呼んで稜は泣きながら恵理に飛びついた。
最初は困惑したが稜の話を聞いているウチに恵理は「そう・・・・・・」と答えた。
「稜って私以外の人の事でも泣くのね・・・・・・」
「ダメですか?」
「ううん。複雑な気分だけど、安心した――」
「?」
「正直言うとね。私闇乃さんには嫉妬してた。私はどうしてこんなに辛い目に遭ってるのに彼は貴方を独占してるんだって・・・・・・」
「恵理さん・・・・・・」
その本音を聞いて稜は戸惑う。
「ごめんね稜。前も言ったけど、私は貴方が思ってるような、綺麗な人間じゃないのよ。内心はドロドロしてる。気をシッカリしてないと今の状況を楽しんでいけない事をしようとしてる。それぐらい私は狂ってしまってるの」
「・・・・・・それは」
「闇乃さんの気持ち分かる。大切な人を失って、それで貴方に出会って助けられて――私が愛している人だもん。稜はとっても優しいんだから――そんな貴方だから私はきっと大好きになったのよ」
「恵理さん・・・・・・」
満面の笑みで涙を流しながら稜に告げた。
「ごめん。今は影司の事だったわね――彼も私も同じで、心の苦しさに耐えられなくて、誰かに理解してほしかったんだと思う。だけどそれは中々打ち明けられない。だって簡単に打ち明けたらまるで甘えてるみたいになるから――人の心って複雑よね」
「・・・・・・」
「私の事は構わず、稜のやり方で支えてあげて。私も天照大橋で記憶の断片を受け取ったから分かる。彼は私達の敵として立ちはだかるのかもしれないけど、けどその時が来るまではせめて・・・・・・」
稜も恵理と同じく天照大橋で記憶の断片を受け取っていた。
自分に訪れるであろう未来の一シーンが映し出され、そしてその時に至る経緯、感情がおぼろげながら届いた。
その中には恵理の言う闇乃 影司の対峙もあった。
憎しみや怒りは湧いてこない。
ただただ悲しかった。
それを思い出して、稜は首を縦に振った。
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