第三十六話「教師として」



 昼になり、猛達は嵐山 蘭子達と合流した。

 まだ凜は生徒会室にいて手が離せないらしい。

 今は下手に学園内を彷徨かない方が良いとの事で全生徒は学園内待機を命じられている状況である。

 と言うのも今回の騒ぎの影響かデザイアメダルの怪人が実体化し、大量発生しているため、警備部はそれの対処に負われている状況なのだとか。

 今後の事も考えて嵐山 蘭子と一緒に教室の一つを借りて考える事になった。


「正直言うと生徒の安全を考えて戦力が欲しいんだわ・・・・・・本物の戦争を間近で見ちまったからな。皆怯えきっているのが現状だ」


 ヤレヤレと言った感じで嵐山先生は頭を掻いていた。

 今回の事件はブラックスカルとの時とは桁が違う。

 耐性はある程度付いていたとは思うが想定以上の惨劇で生徒達は怯えているらしい。


「だけど、敵の目的は地球の超科学技術よ。つまりヒーローも標的ってわけ。逆に危険よ」


 ガニメスやスティンゼルなどの他、各方面で戦ったヒーロー達から集めた情報を統合した結果の話だ。

 逆に戦力を置くと狙われやすくなり、また戦いに巻き込まれる事になる。


「分かってる。だが自衛隊も地球連邦もアテになんねー状況だ。特に出島周辺なんかは完全に支配地域になっている」


「だけどあの周辺には天照基地が・・・・・・ってそう言えばブラックスカルの事件で壊滅したばっかりでしたね」


 嵐山先生の言う事に疑問をぶつけようとした途中で春歌は思い出した。


 天照基地。

 自衛隊の大規模な基地であり、表向きは学園の護衛のためだが、本当の理由は天照学園を監視する為に設置されたために、影の最前線と揶揄されていた。


 しかしブラックスカルの騒動で基地施設は壊滅。復旧作業していたがあの事件のせいで日本国内の軍事アレルギーを持った反対派が活性化し、作業を妨害している有様だった。


 更に不味い事に基地施設内のデザイアメダルの製造ラインを保有していた事をブラックスカルの手で暴露されていた持っていた事もあり、悪の基地の様な扱いを受けている。


 その為基地の復旧は遅れに遅れており、敷地面積に比例してその機能は未だ最盛期の十分の一もあれば良い方とも言える状態だった。 


 しかも相手は真正面から地球連邦と自衛隊の宇宙軍を打ち破った連中だ。

 襲撃を受けたらひとたまりもない。

 既に壊滅しているとみて良いだろう。


「ともかく一応私の知り合いに声を掛けてみるわ――」


「そういやアンタの知り合いに魔法少女が何人かいるって言う話だったわね。何人ぐらい集められるの?」


 森口 沙耶は魔法少女であり、そして魔法少女を産み出す存在である。これは同時に他にも魔法少女がいる事を示唆している。

 舞はその事で尋ねた。 


「今は状況が混乱しているからね。どうにか連絡を取って回って指揮する他無いわね。だから席を外すわね」


 そう言って沙耶は教室から出て行こうとする。


「はあ・・・・・・教師達には上手い事私から説明しとく。行ってきな。それとヘマすんじゃねーぞ」


「・・・・・・ありがとう」


 蘭子にそう告げて沙耶は去って行った。


「そういや舞」


 ふと何か疑問に思ったのか蘭子が舞に尋ねる。


「うん? 何かしら?」


「天村は?」


 天村 志郎は猛や舞達と同じ校舎である。 

 もしも学園内にいれば率先して戦ってくれた筈だ。

 にも関わらずいなかったのはどう言う事だろうかと思った。

 蘭子も他にも戦えそうな生徒は思い当たるが、ともかく舞なら志郎が何をしているかぐらいは分かりそうだと思った。


「そう言えば天村さんって何してるんですか?」


「私も最近見掛けませんね」


 猛と春歌も同じく天村 志郎の事で疑問に思った。


「あ~その、今私達がヒーロー部やっているように天照学園悪の組織部として活動しているのよアイツ」


「あ、悪の組織部?」


「ド直球なネーミングですね。もうちょっとマシなネーミング無かったんですか?」


 二人はあんまりなネーミングセンスの部活に惚けた顔になった。

 しかし猛は表情を切り替えて考え込む。


「いや、だけどレイン○ーマンの死ね死○団とかよりかはマシ・・・・・・」


「猛さん!、それ比較対象がおかしいですよ! てかレイン○ーマンって何ですか!? スーパー戦隊の一種ですか!?」


「じゃあ言うけど僕達のヒーロー部も結構ド直球だよ? あんまりネーミングについてどうこう言うとブーメランになるから止めといた方がいいよ」


「そ、そうですね・・・・・・」


 猛の言う通りあんまり悪の組織部のネーミングをどうこう言える程ヒーロー部のネーミングがいいもんじゃないと春歌は思った。  


「夫婦漫才は終わった?」


 と嵐山先生は頭をポリポリ掻いて尋ねた。


「夫婦だなんてそんな――」


 何故か顔を赤らめる春歌。


「春歌ちゃん、マジボケしている場合じゃないから、話進まないから」


「んじゃあ代表して私が・・・・・・悪の組織部ってどう言う部活なんだ」


 珍しい事に嵐山先生が常識人らしく舞に質問した。


「表向きはヒーロー部を盛り上げる為の支援組織であり、そして敵対組織と言う役割の部活よ。だけど本当は私達と同じくアーカディア時代の仕事も引き継ぎでやってるの。天村財閥の権力も使っているから行動範囲も学園外にも飛び出ているみたい」


「そうだったんですか・・・・・・」


 春歌は驚いていた。

 猛も同じ気持ちだ。

 まさかそんな事をしていたなんて。


「そもそもアーカディアに入って戦力を集めたり、悪の組織部何て言う部活を作ったりしたのも天村 志郎の趣味――」


「え? 趣味なんですか?」


「あの人ならありえるよ春歌ちゃん」 


「それもあるけど元々今回みたいな事件を想定して動いてたのよ。そもそも私や春歌ちゃんのスーツに使われている動力源、Fストーンって便宜上呼ばれてるけど、実はこれ地球外の鉱物なのよ。猛の創星石も同じくね」


「ちょっと待ってください!? それって・・・・・・」


「春歌ちゃんの想像通りだよ。そもそもジェネシスからして今回みたいな事件を予期して創設されたんだから」


 春歌は混乱していた。

 つまり天照学園は今回の事件を予期していたと言う事なのだろうか? 


「Fストーンについても本当は秘密だったけど、地球外生命体の侵略を受けてる今秘密も何もあったもんじゃないしね・・・・・・」


「そ、そうですか・・・・・・」


 確かにこの状況になれば秘密も何もあったもんじゃないだろう。


「おーい、舞~話逸れてるぞ」


 傍観していた嵐山先生が軌道修正を求める。


「ごめんなさい先生・・・・・・で、今志郎達が何をしているかだけど、天村財閥のビルで封印を解くとか言ってたわ。数は少ないらしいけど他の部員も収集されてるみたい」


「封印を解く?」


 不吉なキーワードに猛が反応した。


「対地球外生命体戦を想定してアイツなんか作ってた見て間違いないわね・・・・・・アイツが封印とか言うからにはかなり物騒な代物なんだろうけど。ともかくそれを使ってあの円盤をぶちのめしに行くんじゃないかしら?」


「天村財閥は昔から頭のネジがぶっ飛んでる所があったが息子もとんでもねーな。巨大ロボでも作ってたのか?」


 舞の話を聞き、天村財閥について蘭子はそう評した。

 昔から何かおかしかったらしい。


「うん? ボールか?」


 ふと何処からともなくコロコロとボールが転がってきた。

 何かヒモが付いていて火花が付いている。

 そして。


 ドロン。


 そんな音と共に黒装束の古典的な格好をした忍者が現れた。 

 頭巾から茶色の髪の毛と刀の様な鋭いクールな目付きが見える。

 体格からして猛達とそう年齢は変わらないだろう。


「え? なんですかこれ!?」


「忍者!?」


「また古典的な方法で現れたなおい・・・・・・」


 春歌、猛、蘭子の順にそれぞれ三者三様の反応を示す中で舞だけが冷静だった。 


「ハヤテ、久し振りに見たわその登場方法」


「・・・・・・」


 そう言ってハヤテは舞に紙を渡す。

 そしてまた煙幕玉を投げて煙の中に消えた。

 舞は無視して紙の内容を検める。


「あの、さっきの人は誰なんですか?」


「ハヤテ。本名は分からないけど忍者らしいわ。変な奴だけど腕は確か。アーカディア時代だと天村 志郎の下で働いてて沙耶と同じく裏方要因だったから知らないのも無理は無いわ」


「そうだったんですか・・・・・・」


 春歌はアーカディアに所属していた期間は短めである。

 なので未だに組織の全容を知らない部分があった。


 一方で舞は古参組で様々なヒーローと関わりを持っている。

 一時期、行き違いで天村 志郎を倒してしまい、その代打と罪滅ぼしのためにアーカディアに入り、積極的に活動していた経緯がある。 


「デジタル式の折りたたみが出来るハイテクの奴だわ・・・・・・志郎らしいわね」


 そう言って紙を広げる。


「で? なんて書かれてんだ? こんな状況でラブレターってわけでもないだろ?」


 軽く茶化しながら嵐山先生は尋ねる。


「志郎達の今後の活動方針が書かれてる。手が空いてる連中は全員集めて出島に向かうってさ。私達も出来れば合流して欲しいとのことよ」


 出島とは学園島の玄関口になっている町の別名だ。天照学園は学園島と言う名の通り、人工島であり本州とは天照大橋などの様々なインフラで繋がっている。天照大橋などの先にある施設が出島なのだ。

 逆に天照学園の玄関口周辺の十二時から三時周辺は商業地区となっており、観光スポットになっている。

 両者ともに一時期はブラックスカルの前線基地状態で治安も悪かったが、ブラックスカルの計画も潰え、政府の罪と共に自らの所業を暴露してしまったので国家権力の手で壊滅となった。


「変身して向かえばどうにかなるかな?」


「私と舞先輩は空飛べますもんね・・・・・・てか何しに行くんですか? 地球に降りた円盤に直接乗り込むとか?」


 当然な疑問を二人は投げかけた。


「いや、あのバカもそこまでやるつもりは無いみたい。出島は重要な補給路でもあるからそれをどうにかするんだってさ。今敵の制圧下に置かれているし・・・・・・それに天照大橋で敵の大部隊と交戦中で何か地球側の兵器も混じってるから注意してだってさ」


「敵は分かるんだけど、どうして地球側の兵器が?」


「そこまでは分からないけど・・・・・・ともかくどうするにしろ急いだ方が良いわよ」


 そう言って舞が締めくくった。


「あ~その、いいか?」


 ヤレヤレと言った感じで嵐山先生は手をあげた。


「本当は教師の立場だから止めないとダメなんだろうけどさ。それに学校に避難している連中を守って欲しいって言う気持ちもある。私も腐っても教師だ。教え子を、年下の子供を危ない場所にこれ以上放り出すってのは正直言うとどうかしてると思う」


 そう言って彼女はタバコを取り出す一服する。

 基本学園内では禁煙だが、それを止めようとは思わなかった。


「まあ、国どころか地球が滅びるかどうかの瀬戸際だし、手段は選んでらんないよな・・・・・・良くて怒鳴られまくって給料カット、最悪クビか・・・・・・」


「先生・・・・・・」


「そんな目すんな猛。元々私何かが教師何か無理があったつー話なんだろ。せめてものケジメだ。部活動の一環って言う体裁を整えるために一緒について行く。これである程度責任は私に回る筈だ」


「・・・・・・ありがとう」  


「ありがとうございます」


「ありがとう先生」


 猛、春歌、舞の三人はそれぞれの感謝の言葉を述べる。


「ふん。先に運動場で待ってな。色々と野暮用片付けてから行く」


 そう言ってタバコを口から離す。 

 三人は迷うこと無く出て行った。


 ふと嵐山先生は思い立ったように窓ガラスの方に歩む。

 激しい戦いだったので学園内のガラスはほぼ割れて閉まっているので外を眺めるために開ける必要はない。

 後で掃除が必要になるだろうなと思った。


「再就職先どうすっかな・・・・・・ま、それも国が残ってればの話か」


 そして携帯用のカプセル型灰皿にタバコを押し込み、その場から立ち去った。

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